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第ニ章: 生徒会選挙
第26話: 期待を背負った会長候補
しおりを挟む本番での原稿を必死に握りしめて内容を見返す柏崎さんの横で壁にもたれて立つ。それに気づいたのか少し気まずそうにしている彼女に対してちょっと空気を吸いに行こうと外に連れ出す。
そっと後に付いて来る彼女が体育館の外に出たときに代わりにそっと扉を閉める。柏崎さんは深呼吸して伸びをすると前髪をいじりながら静かな口調で話を始める。
「私が緊張してたから連れ出してくれたんだよね?」
「それもあるけど演説前に二人で話しておきたかったんだよね。」
「話?…中じゃダメだったの?」
俺は自分の制服のポケットにしまってあった応援演説の原稿を取り出して柏崎さんに差し出す。彼女はそれを見ると吹き出して笑う。そのままそれを俺の方へと返す。
「凛音くん何それ。嘘ばっかりじゃん。」
「そう。だからコイツは必要ない。」
柏崎さんの前で俺の原稿を丸めて捨てる。柏崎さんはちょっと驚いてはいたが後からそっと呆れたように微笑む。
「君のことだから考えがあるんだよね?」
「考えって言うのか分からんけど、こんな原稿に頼るようじゃ柏崎さんを会長には出来ないよ。だから全部アドリブで見たままの柏崎さんのこと話しますね。不安かもしれないですけど今なら柏崎さんの長所十個くらい言えると思いますよ。」
「じゃあ…言って見て?私以外誰も居ないし変なこと言っても聞かなかったことにする…。」
やば…なんか成り行きで十個とか言っちゃったけど絶対そんなにない。
「えっ…そうだな。友達想いで優しくて真面目で…あとはちょっと強引で…。」
「それは短所だよ…もう嘘でもいいから元の原稿読んでよ。心配で私の演説どころじゃないよ。」
「あとウザい。」
「思いっきり悪口だよ!?はぁなんかバカやってたら落ち着いたかも、困ったら笑ってみようかな。もし会長になれなかったら凛音くんは生徒会に入ってもらうからね。」
「やっぱさっきの原稿拾って来るわ。」
「うわぁだっさ。すごくダサいよ。」
「俺はこんなクソ行事早く終わらせてオアシスに帰るんだよ。」
「じゃあせいぜい頑張ろうね。」
彼女は小悪魔っぽく振り返って笑うとすぐに俺に背を向けて体育館の扉に手をかける。そのまま軽く一言。
「応援演説頼んだの…やっぱり凛音くんで良かった。」
「聞こえなかったんでもう一回お願いしてもいいですか。」
「じゃあ私が今回の選挙で勝ったらね。」
「冗談です。別に要りません。」
「なんで君はすぐそういうこと言うの!!私が頑張ろうって思ってたときに!」
扉のほうから戻ってきた彼女は何回か拳で俺の肩を叩いて来る。とっとと入れとか思いながら攻撃を受け続ける。数秒して満足した柏崎さんは俺と共に体育館内に入る。
そこにはもうすでに全校の生徒が揃ってきており、少しずつではあるがその数は増えていっている。少し柏崎さんの表情は曇るがさっきのことを思い出したのか頑張って笑うように努めているのが分かる。
舞台裏に回るとそこには去年の副会長『茅野 翔』の姿があり、相変わらず余裕そうな表情でこちらに微笑みかけてくる。おのれ、このコミュ力お化けが。コミュ障の無言の威圧を見せてやる。まぁ黙ってるだけだから平和的だよ。
くだらない思考を回していると体育館の舞台のほうからアナウンスが聞こえてくる。それは生徒会選挙演説の始まりを表すものだ。
柏崎さんと軽くアイコンタクトとして共に舞台に置かれたパイプ椅子へと向かって歩いていく。こういう時に限って知り合い見つけちゃうんだよな。さっそく笑顔が絶えない恭介が立っているのを見つける。完全に俺のこと笑ってやがる。
そのまま立候補者および応援演説者が着席し終わると司会進行役の選挙管理委員会の生徒は軽い挨拶を兼ねて生徒会の重職の立候補者紹介などを進めていく。名前が呼ばれると「ああ。俺は静かな高校生活がしたかった。」とつくづく思う。そのまま会計、書記、副会長といった具合で演説が行われていく。会長は最後なのでより緊張が高まる。
そうしてついに出番が来てしまった。
「それでは次は会長に立候補した柏崎紗菜子さんの応援演説を柊凛音さん。お願いします。」
パイプ椅子から音を立てずにそっと立ち上がり、マイクのセットされたところまで歩いて進む。道中に生徒の方から「凛ちゃーん」と叫ぶクソ野郎が居たがそのまま無視してマイクの前に立つ。恭介あとで覚えとけよ。
マイクを調節し一礼。こう言ったものは全て準備の段階で柏崎さん…ではなく凪沙さんに教えてもらったものだ。柏崎さんは練習のとき動きガッチガチのロボットみたいな感じだったからむしろ頼るほうが可哀想だったのだ。それはさておき演説を始める。
「この度、会長に立候補しました柏崎紗菜子さんの応援演説をすることになりました柊凛音です。彼女が生徒会長になるにあたっての掲げる誓約は『自由』。と言っても校則で縛られているものを破ると言うわけではありません。この誓約を叶えるのに彼女はここ数日は苦しんだり、悩んだりいろいろ頑張っていました。」
演説中に生徒の中にいる一人の生徒と目が合う。予定と違う演説内容に疑問符を浮かべているが口もとは優しく微笑んでいるのが分かる。ここ数日しか関わっていないが凪沙さんにはかなりお世話になっているため、こんな急な変更は申し訳ない気でいっぱいになる。それでも話さないといけないのだ。
「柏崎さんは俺に対して応援演説を頼んだときは強引で一方的に何でも決めちゃって。その癖しといてインタビューのときには緊張して自分はガッチガチになっちゃうような人でした。でも本当にそんな人なら俺はこの舞台に立つことは無かったと思います。必死に頑張って…周りが見えなくなっていただけで彼女は根は優しいし友達想いな性格の持ち主です。何でも一人で出来てしまう生徒会長よりも、人の手を借りないとダメダメな生徒会長のほうが何かと都合がいいと思いませんか?」
振り返って柏崎さんを見ると膨れた表情をこちらに向け黙視していた。
いっそ周りにあとから影口を叩かれるくらいなら今ここで俺が全て吐いたほうが彼女にとっては後々のダメージは少ないだろう。それに俺のすることは彼女が安心して話せる舞台を作ること。
ちょっと膨れた表情が出来るのなら多少の緊張はほぐせたのかもしれない。
「彼女ならどんなに難しいことでも頼まれれば一生懸命に他人のために動くことが出来る。そんな人だと俺は思っています。だから俺は柏崎紗菜子さんこそが会長にふさわしいと思っています。えっとー…以上をもって応援演説を終了します。」
軽く壇上で頭を下げて、回れ右で方向転換して自分のイスへと戻る。すると柏崎さんは小声で俺に話を振ってくる。言葉に緊張は無さそうに感じる。
「好き放題言いまくってきただけじゃん!。」
「あはは…みんな待ってますよ柏崎さん。文句なら後で聞きますから今は行ってきてください。」
「凛音くんには終わった後たっぷり仕返しするからね……ありがとう、行ってくる。」
彼女は壇上に向けて一歩を踏み出す。その足取りにはもう迷いは無く、自信満々…とは言えないが練習のときよりは遥かに良くなっている。
マイクの前に立った彼女はそっと息を吐き出して、全校生徒に向けて笑顔を見せて一礼する。
その笑顔はきっと今回の演説において大きく左右させるものにもなったのでは無いだろうか。ここまで出来れば最初は出来レースと踏んでいた人間の誰もはきっと彼女に票を入れることも検討してくれるかもしれない。
黙っていれば柏崎さんは可愛いわけで容姿だけで票を狙えないことも…。ずるい票の稼ぎ方を考えている最中、彼女は落ち着いた声で演説を開始した。
「今回、生徒会の会長に立候補しました柏崎紗菜子です。」
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