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第ニ章: 生徒会選挙
第25話: たとえ負け試合だったとしても
しおりを挟むいやおかしいなー。俺そんなに足遅くないほうだと思うんだけど!小学生のときとかクラス対抗のやつ一位通過したことだってあるんだよ?まぁ一回だけだけど。
とにかく彼女に捕まればせっかくの凪沙さんの助太刀が無駄になってしまう。それに一日中、あんなに暗い柏崎さんを見てなきゃいけないのは気分が悪い。彼女には時間が無いから今は意地でも捕まれないのだ。
それでも距離は徐々に詰められていき、お互いの声が届く距離にまで詰められていた。
「凛音くん待ってよ…!」
「なんでそんなに足速いんだよ!!文化部相手に本気出し過ぎでしょ!」
「凪沙が酷いこと言ったのは謝るよ…。だから……戻ろう?」
息を切らしながら追ってくる柏崎さんはもう体力の限界に見える。これで長距離走られたらこっちが息切れで死んでしまう。お前、それで文芸部だったとか嘘だろ。
目的地の駐車場にまでたどり着いた俺は一度立ち止まって柏崎さんが追いつくのを待つ。かなり大きな国立病院であったため駐車場は広く、病院の建物まではかなりの距離がある。
追いついた彼女は俺の前まで来ると足から崩れ落ちて俺の足を握りしめる。
「捕まえた……なんでこんなバカみたいなことするの?もう少し凛音くんは冷静だと思ってた!」
「それは見当違いで残念…それでどうする?病院まで来ちゃったけど。」
「誘導しといて何言ってるの……ちょっと休みたい…もう学校間に合わないし。」
彼女の手を握って引き上げて立ち上がらせる。少し不機嫌そうな彼女を駐車場の隅に連れていき、座らせる。柏崎さんは文句を言いたげな表情でこちらを上目遣いで見てくる。
「私の皆勤賞は凛音くんのせいで無くなった。」
「あー。それは…ごめんなさい。」
謝る俺を見てホッとしたのか彼女は思いがけないことを口にしたのだった。
「ごめん…ホントは知ってたんだ…手紙のこと。」
「え…いや手紙って?」
今、手紙というと凪沙さんが差出人と判明したあの手紙だ。でもあえてとぼけて誤魔化す。
知ってたら彼女は…。
「隠さなくてもいいよ…あの朝、君の下駄箱に入ってた手紙を登校時に見て、初めはラブレターなのかなとか思ってた。そしたら紫ノ宮さんと君が来て…その手紙を開いた。咄嗟に隠れて盗み聞きしたのは謝るよ…。私はその内容からして凪沙が書いたんだろうなって思った。でも別に良いって思ってた…凪沙にとっては私のことを心配してくれて書いてくれたものだろうから。そこに来て…千夏が応援してくれないのは悲しかったし寂しかった。でもよくよく考えたら入院中の凪沙が手紙を書くのは無理だし、千夏が凪沙の代わりに書いたんでしょ?」
「俺はそこまで考えるのに一日近く使ったのによく数時間でそこまでたどり着きましたね。そうですよ…俺は御子柴さんが一番辛かったと思う。大好きな先輩二人が生徒会選挙というイベントで引き裂かれちゃうのが嫌だったんですよ。」
「だから私が立候補するのが嫌な理由を言わなかったんだ…千夏。凪沙に頼まれたって言ったらあのときの私は凪沙とぶつかりかねなかったもんね…。ダメな先輩だね、私。」
悲しそうに微笑む彼女はそれでも先ほどまでとは違って冷静に話すことが出来ている。柏崎さんと凪沙さんの仲が良いからこそのすれ違いで御子柴さんは苦しんでしまった。それをなんとかするには二人が和解することが御子柴さんにとっては一番の救いだろう。
「凪沙さんと和解するのが一番の御子柴さんへの償いだと俺は思う。」
「私…凪沙に立候補の理由を伝えるのが怖いんだ…。今までの関係が壊れちゃいそうで…ずっと親友でいたい。私のこと一番分かっててくれる友達だから。」
「それを直接言えば良いんじゃないですか?全部言いたいこと言えば良いと思います。ですよね?」
「いや…気付かれてたのかぁ。なかなか来ないと思って外でて見たら、紗菜子が慰められててレアだからそばで見てたんよ。」
おそらく柏崎さんにとっては聞き慣れた声。その声のほうを振り向いた柏崎さんは気まずそうに手を動かしあたふたしている。珍しく可愛いところが見れた。あとでからかうのに使えそう。
髪は金髪に染めたギャル系の女子で見た目とは真逆の優しそうな口調で柏崎さんに話しかけるコイツこそが重要人物『茅野凪沙』で間違い無いだろう。乃愛よりギャル感スゴいな…まじヤバ過ぎるからちょっと距離取りたい的な?
「で。君が柊くんね。私のこと一発殴っとく?」
「殴りませんよ。それに見た感じ退院でしょ今日。」
「おう!その通りだよ。もう一回病院送りにしてくれれば学校休めるし?ただ顔はやめてね。メイクが崩れちゃうから。」
なんか気が合いそうとか思ってしまったがそうではない。とりあえず柏崎さんとこの人の間をとり持たないと。てか顔大事にしろよ。メイク崩れるからでいいのか理由!
「紗菜子…言いたいことあるんだよね?」
「でも…。」
「何があっても私は紗菜子の親友だからさ…話してみ?」
凪沙さんの優しい声かけで柏崎さんは安心したように深呼吸をして覚悟を決めたのかそっと話をし始める。
無意識に頑張れと柏崎さんを応援する。
「凪沙…私ずっと後悔してたの。凪沙が高校受験するときに私に合わせて同じ高校を選んだこと…凪沙は小さい頃からの夢があるよね。私に合わせたらそれは叶わなくなっちゃう…道が遠くなっちゃう。私のせいで凪沙の才能を潰したくない!だからね…今回の選挙は凪沙の力を借りなくても私だけで頑張っ…」
柏崎さんの言葉を遮って凪沙さんはそっと彼女を抱きしめる。そのまま頭を撫でながら凪沙さんは彼女の耳元で優しく彼女を励ます。
「紗菜子…勘違いしないで欲しいから伝えるね。この高校を選んだのは紗菜子に合わせたからじゃないんだよ?そりゃ紗菜子が心配じゃなかったって言ったら嘘だけどさ。」
「じゃあ…なんで…?」
柏崎さんは凪沙さんに抱きしめられながらその疑問を口にする。
凪沙さんはそっとその理由を言い聞かせるように告げる。うちの学校のギャルって姉御属性強いのは気のせいじゃ無いのかな?まぁ該当者二人なんだけど。
「兄貴が良い大学狙うとかで私はその出費を抑えようと思ってこの高校にしたんだよね。その代わりに大学とかは好きなところ行くって親とは約束したけどね。それに…紗菜子も居るし千夏だって一年後には入ってくるし。あーそれだと合わせたみたいになっちゃうね…あはは。どうしよう柊くん。」
「なんで俺に振るんですか。知りませんよ。」
「無責任だなぁ柊くん。それで紗菜子の応援演説するつもりなの?」
「それなんだけど…どうする?柏崎さん。」
柏崎さんは凪沙さんから離れると少し考えて凪沙さんに向き合う。そのまま彼女は強い意志を持って自分の意見を凪沙さんへと伝える。
「凪沙…私ね。どこまで自分が出来るのか知りたい。傷付くのは自分でも怖いよ…でもこのまま今回の選挙を蹴っちゃったら絶対に後悔する。」
「紗菜子。それが負け試合だって分かってても選挙に出るの?負けたらたぶん酷いこと言うやつだっていっぱい居る。それでも出るの?」
柏崎さんは一回黙ると俺のほうを向いて眩しい笑顔で微笑む。コイツには振り回されてばっかだけど…悪い気はしないなと実感する。うっとおしくて振り回されてもそのくらいのほうが柏崎紗菜子らしい。
「たとえ負け試合だったとしても私は立候補するよ。クラスの友達…千夏に…紫ノ宮さん…あとは凛音くん。みんなが私のこと応援してくれるから…私はその期待に応えたいの。私のこと引っ込み思案であがり症だけど…友達想いで優しいって言ってくれる人も居るから!」
それ俺のほうを向いてから言うのあざとすぎない?小悪魔系ってこう言うやつのことを言うのかな?
とりあえず二人共が和解してくれたのであれば良かった。朝早くから授業サボった甲斐があったというものだ。これでバレなきゃ尚良いのだが…。
凪沙さんはため息をついて呆れた表情を浮かべてしょうがないなと言わんばかりに柏崎さんの頭を撫でると寂しそうに口を開く。
「なーんか紗菜子が大人になっちゃっておねーちゃん寂しいなー。」
「私だってちゃんと出来るってところ見せるからね!」
「そう、分かった。まず柊くんも紗奈子も今回はごめんなさい。私が直接動けば良かったのに千夏も傷付けちゃったし。」
頭を下げて謝罪する凪沙さんをなだめるべく、謝罪を受け入れつつ擁護の言葉をかける。先ほどの対応で凪沙さんの人柄は分かったしこれ以上責めなくてもいいと思う。
「凪沙さんは入院してたのに動くのは無理でしょ。まぁ御子柴さんの前でさっきみたいにイチャイチャしてあげれば御子柴さんはすぐに復活すると思いますよ。」
「イチャイチャて…柊くんねぇ。あー!そういうことかー。なるほどなぁ。ヤキモチ妬いてるんだな?紗菜子を私が抱きしめたからー。」
「違いますよ!彼女いるんでそういうのは無いですって!」
ニヤニヤしながら金髪ギャルの凪沙さんは俺の脇腹を突く。そういうの男子が勘違いするからやめたほうがいいよ。危うく惚れかけた。嘘です。
第一、柏崎さんに懐いているのは好意では無い。ただからかわれただけだろう。なんか柏崎さんは照れて俯いてるし。だがこれで柏崎さんの根本にあるものは片付けた。
あとは本番で彼女がどこまで動けるか次第で結果は決まるのでは無いだろうか。
そんなことを考えながらぼーっとしていると凪沙さんに背中を何回も叩かれる。なんだよ。地味に痛いんだけど…。
「柊くんと紗菜子はこれから学校行くのと私と遊ぶのどっちがいい?」
「俺は第三の選択肢!帰宅を所望します。」
「柊くんは強引にでも付き合って貰おうかな。紗菜子は?」
おい。拒否権は無いのか?さよなら俺の人権。
「私も…凪沙と一緒に遊びたい。凛音くんも良い…?」
「拒否権無さそうだから付き合うよ…凪沙さんは退院したばかりなのに体力有り余ってそうだし。あと全部柏崎さんに任せるといろいろ怖いしな。」
「ちょっと…それどう言うこと!別に凛音くんが手を貸してくれなくても…。」
「あはは。紗菜子が私以外にこんなにいじられてるの初めて見た。とりあえずお茶でもしに行こうか?二人の関係とか詳しく聞きたいしね?」
「別に何にも無いですから!」
否定する俺をニヤニヤしながら見つめる凪沙さんと否定しながら膨れる柏崎さんの後を追う。
柏崎さんと凪沙さんは無事に和解が出来て、生徒会選挙へとまた一歩近付く。ついに残すところ全校生徒の前での演説のみとなった。そこまでの時間の経過はとても早かった。
まずはこの日の翌日から凪沙さんは学校に復帰。彼女は学年一位であったこともあってか勉強面での心配はほとんど皆無だったようだ。
それから後日に選挙の原稿の読み合わせなどをやったときには結局、凪沙さんと御子柴さんも手伝ってくれた。演説の内容は聞かれてしまっているから本番での新鮮みは彼女らには無いだろうが、三人の中学からの絆は固いということがよく分かる。
まぁこの数日で大きく変わったように感じたのは紛れもなく柏崎さんだ。初めに会った時は積極的な人を演じて接触してきたため、身構えてしまったが今では強引に俺を振り回す行動することは減った。減っただけでなくなった訳ではないが頼れる相手が少ないのであれば仕方がないと割り切って手伝うことにしている。
たまに見せる彼女のポンコツっぷりが面白いのでからかったりして適度に仕返しは出来ているので前よりは気を許して対応ができるようにはなっただろう。
そんなこんなでいよいよ本番の日の朝を迎える。
朝早くから体育館の舞台裏に集められた生徒会の面々を見るにとうとうそのときが来てしまったのだと自覚する。去年までは体育館であくびをしながらこの時間は退屈な思いをしていたのに…。
俺の応援を受ける人物はあたりを見回すと舞台裏の端の方で必死に原稿を読み合わせているようだった。余裕が無いのは誰が見ても明白の状況だった。どのみち選挙演説の前に二人で話す時間は欲しかったしちょうど良かったのだが…。
そっと彼女に近付いて声をかける。最後に俺がすることは…。
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