25 / 28
第ニ章: 生徒会選挙
第24話: 手紙の真意
しおりを挟む御子柴さんの話は彼女が中学生の時にまで遡った。彼女と柏崎さん、凪沙さんは文芸部の所属だったらしい。二人は彼女のことを妹のように可愛がり、一緒に過ごすことが多かったらしい。
だからか御子柴さんは二人を慕っており厚い信頼があるようだった。そして二人と同じ高校に入学し四月が始まったとき、凪沙さんが入院していることを知って連絡をしたようで…。
「私は…そのときに柏崎先輩が生徒会長に立候補することと茅野先輩がそれに反対なのを知ったんです…。」
「まさかあの手紙は…。」
「はい…私が入院している茅野先輩の代わりに書いた手紙です。」
「つまり、御子柴さんは凪沙さんのために動いてたってこと?」
「そうですね。協力したのは茅野先輩が言うことも一理あったからです…柏崎先輩は優しいけど内気で引っ込み思案で…傷付きやすいです。だから今回茅野先輩のお兄さんが立候補する時点で誰が会長になるのか分かりきっていた。そんなときに柏崎さん本人から生徒会長に立候補をすることを聞いた茅野先輩は私にお願いをしてきたんです。」
彼女は泣きそうな声で凪沙さんからの依頼の内容を話す。その手には飲み終わったコーヒーの缶が強く握られている。
御子柴さんにも負担がきっと多かったのは間違いないだろう。入院していて動けない尊敬する先輩の変わりに行動し、もう一人の尊敬する先輩にも相談できず一人で頑張って来たのだろう。
「応援演説の柊先輩のことを説得して立候補を取り下げて。と言われたんです。」
「なるほど…柏崎さんが傷付く前に止めろってことか。」
「茅野先輩の真意はそうです。」
「じゃああとは御子柴さんがどうしたいかだな。」
彼女は疑問を持ったようで不思議そうにこちらに視線を向ける。
「ですから私は…柏崎先輩を…。」
「それは御子柴さんの考え?凪沙さんの変わりじゃない君の考えはどうなの?」
先ほどまで俯いていた御子柴さんは涙をパーカーの袖で拭って立ち上がる。そして拳を握りしめて俺の前に立ち頭を下げる。彼女の手の震えからは必死さが伺える。
「お願い……柊先輩。茅野先輩のこと…説得して…。私………二人が喧嘩しちゃうのはいやです…。茅野先輩にも柏崎先輩のこと応援してほしい…。ねぇ…柊先輩…柏崎先輩は勝てるんですか?」
「正直に言うと難しい。でも柏崎さんが今回の選挙に出ることに意味があるんだ。」
「どうして?…勝てなくても出ろってことですか…?」
あからさまに嫌そうな表情でこちらを見る彼女に慌てて否定する。
「違うって!中途半端な気持ちなら俺も応援演説を断ってた。でもアイツは凪沙さんがもっと上の高校に行けたのに自分に合わせて進路を変えたことを気にしてる。今回は凪沙さんが居なくても自分だけでしっかり出来るって証明したいから頑張ってる…でもそれは柏崎さん本人から凪沙さんには言いづらいことだと思う。」
「柏崎先輩…そうだったんだ……。なのに私…先輩のこと傷付けたんだ…。どうしよう…柊先輩…私…。」
頭を抑えて泣きじゃくる彼女にそっと近づき、頭をそっと撫でる。彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに安心したような表情で泣きながら微笑む。
「泣くのか笑うのかどっちかにしろよ…。」
「…柊先輩…まだ頭撫でててください…。」
「なんで急にデレ始めたんだよ。」
「うるさいです…よくそんなんで紫ノ宮先輩落とせましたね。」
「うるせぇ!やっぱ可愛くないなお前!」
「別に先輩に可愛いなんて思ってもらわなくて結構です。」
クールに笑って彼女は俺の手を掴んで自分の頭の上に押さえつける。小動物系ってこういう子なんだろうな。コイツ噛み付いて来そうだけど…タスマニアデビル系なのかもしれない。
しばらく拘束されて頭を撫で続けさせられる。なんの時間なのだろうかこれ。
その間、柏崎さんをどうしようか頭のなかで思考を巡らせる。柏崎さんと直接凪沙さんをぶつけるのは御子柴さんの意思に反するのでまずは俺が凪沙さんと話をする?初対面の女子と話すとかめっちゃ辛いけどこの際早く柏崎さんには立ち直って貰わないといけない。
もう一週間を切っている生徒会選挙までに柏崎さんの自信をつけて、凪沙さんを説得する。俺のすることは変わらない。
「よし御子柴さん。凪沙さんに今から病院行くから準備しとけって連絡して。」
「ヘイSiri!みたいに言わないでください……。本気ですか…先輩。これから授業じゃないですか!?」
「ああ。柏崎さんも引きずってく。」
「そんな強引な……。」
「柏崎さんと俺が体調不良で帰宅したそういうシナリオだと紫ノ宮さんに伝えてくれ。」
「はぁ…分かりました。ただし…二人が喧嘩したりしたら先輩のこと…許しませんよ?」
御子柴さんの答えにうなづき、共にさっきの階段に戻ると紫ノ宮さんが柏崎さんの横に寄り添って座っていた。紫ノ宮さんはこちらに気づくとそっと微笑み、俺の元に駆け寄って柏崎さんを連れてくる。柏崎さんは泣き疲れているような感じだったが気まずそうに俺の前に立つと顔を背けて黙る。
「柏崎さんちょっと付き合ってもらうよ。」
「えっ…ちょっ…。凛音くん…。」
急な対応に驚いた声を出す柏崎さんの腕を引き、下駄箱まで連れて行く。紫ノ宮さんは安心した表情で俺を送り出すと御子柴さんと向き合って話をしてくれている。
柏崎さんは驚いた表情を浮かべながらも俺に腕を引かれてついてくる。多くの生徒が登校してくる中、反対方向に進んでいくのは気恥ずかしい。けれど柏崎さんのいつもの行動もこれくらい強引で周りなんか見えてないくらいの必死さが伝わって来た。だから俺も今だけは彼女が一歩踏み出せるなら連れってあげるくらいの覚悟は必要だろう。
校門を抜けたあたりで柏崎さんは立ち止まって不安そうに言葉を発する。根は真面目な彼女の少し焦りが生まれているのは気づいている。それでも彼女を凪沙さんの元まで連れていくべきだ。
「待ってよ…これからどこに行くっていうの?」
「凪沙さんのところに行こう。」
その言葉に何かを察したのか、柏崎さんはあからさまにそれを否定する。
「なんで今なの…?授業ももう始まりそうなのに…放課後だって別に!」
「柏崎さんにとって授業ってそんなに友達よりも大切なの?」
「そりゃ凪沙は好きだよ。大切な友達だし…でもそれとこれは話が違うよ!」
彼女は人目を気にしてか俺の腕を引いて校舎裏へと回る。彼女は大粒の涙をこぼしながら頭を俺の胸につけて言葉を必死に発する。今までずっと無理して積極的に演じていたのが重荷になってしまっていたのかもしれない。
「なんで……誰も応援してくれないの…。私だって…頑張ってるのに……。」
嗚咽を漏らしながら本音を語る彼女をそっと黙ってそのままにする。
やっぱり見えていないんだ。自分を演じるあまり周りに気を配る余裕が無くなっていたのだ。彼女の周りには彼女の友達やクラスメイト、直接は言ってなかったが御子柴さんだって、みんな応援はしてくれていたのにそこまでの余裕が無かった。慣れないことをするのは辛いのは分からなくはない。
「積極的な自分を演じるのは辛かったよな…でもこれ以上は演じなくても良いだろ。」
「それじゃあ私は…!!」
彼女の言葉を遮って、これまでに紫ノ宮さんや御子柴さんたちから聞いていた事実を伝える。
「みんなが応援してるのは内気で引っ込み思案でそれでも優しい柏崎さんじゃないのか?」
「でも凛音くんはそんな私は知らないでしょ。…言ってたじゃん。横暴であがり症で喫茶店では会計を押し付けるような最低の女の子って。」
「いやいやそれは冗談です。…すいません。」
自分の過去の発言に攻撃を食らうとは思っていなかった。結構、柏崎さん根に持つタイプなのね…今後気を付けないとめんどくさそうだ。
沈黙が続きそうなので彼女へと当てる言葉を吐き出す。
「でも優しい柏崎さんは俺も知ってるよ。」
投げやりに言葉を投げ続けていた彼女がそっと顔をあげて俺のほうを見る。
「屋上で話したときの柏崎さんは友達想いで誰よりも凪沙さんのことを大切に思っているのは伝わって来た。あれは間違いなく演じてなかった素の柏崎さんだったよね?」
「そうだね…あれは本心。でももう立候補は降りるから…。」
「凪沙さんに伝えたの?柏崎さんが今回立候補する理由。」
「言える訳ないよ…凪沙は迷惑じゃないって絶対に笑って言うもん。」
そのとき、俺ら二人の校舎裏にいきなり着信音が響く。スマホを取り出し、着信の相手を見る柏崎さんにそっと声をかける。その相手が誰なのかはあらかた予想がつく。
「出ないのか?」
「凪沙だよ…。まだ涙声だし心配かけちゃうよ…。」
「じゃあ俺が出ようか?」
「あ…よろしく。」
そっと彼女の手からスマホを受け取り電話に応じる。その画面にはこれから面会に行く予定の相手の名前が表示されていた。
『茅野 凪沙』。手紙の差出人の張本人であり、柏崎さんの親友。今回の選挙で柏崎さんが自身の兄に選挙戦で負けて傷付く前に止めろと俺に密告してきた人物だ。こうして直接話すのは初めてになるがここまで顔を知らないこの人に振り回された以上、文句の一つくらいは言いたい。まぁ初対面でいうほどの度胸はないんですけどね。
『電話に出てるのは柊くんでしょ?』
「分かってるなら話は早いですね。」
『そんな急がなくても良いのに…まぁ千夏から大体は聞いてるし、君は私を数回殴る義理だってあると思う。悪いと思っているから私は君にこうして助太刀をしようとしてるだけどね。』
「どういうことです?」
凪沙さんと俺のやりとりに不安を浮かべた表情で見守る柏崎さんは今にも俺からスマホを取り上げようと手を伸ばしているようだった。
『紗菜子、結構強情でしょ?連れ出すのに苦戦してる頃合いかなって思ってたのよ。』
「さすが付き合いが長いだけのことはありますね。」
『だから…柊くんは私の言う通りにして。ここの学校近くの国立病院分かる?そこまで来てくれればロビーで私は君を待ってる。最後に紗菜子に「アイツ一発殴ってくる」って告げて君は病院に来てよ。なんか質問はあるかな?』
「ありません。」
今は凪沙さんの策に乗るほかないし、柏崎さんにはごめんって感じなんだけどこれで役者が揃うなら一芝居打とう。何より俺より柏崎さんに詳しいはずだし。てかこんな抜け穴しか無さそうな作戦に引っかかるほどそんなに柏崎さんはアホなのかなぁ。
そっとスマホを柏崎さんに返して、悪意を込めて笑いかける。それを見た柏崎さんは少しポカンとしてスマホを受け取る。
「凪沙さんって病院に居るんだよな…ちょーっと入院期間伸びちゃうけど許してね。柏崎さん。」
「え?待って…凛音くん…ちょっと!」
『まずいことになっちゃったよ紗菜子…柊くん怒らせちゃった。』
「なんて言ったの!?まだ謝れるから!!」
『紗菜子泣かすなボケ。病院で待ってるからタイマン張ろうぜってね。』
「なんでそんなこと言ったの!?すごいお世話になってるのに!」
「じゃあそういうことなんで一発殴ってきますね。柏崎さん。」
そこから全速力で駆け出し、校舎裏から校門までの道を登校してくる生徒と逆方向に走って抜けていく。確か国立病院までの道は遠くないはずだ。柏崎さんはまだ追ってきている様子はないがとりあえず待ち合わせの場所までは走って移動する。マラソン大会的なやつでもこんなにまじめに走ることは無いだろう。
学校の門にも近付く生徒も減ってくる時間になり、チャイムが遠めに聞こえてくる。サボりだとバレませんように。
するとわずかに門のあたりから一人の生徒が飛び出してくるのが分かる。これはもう完全に柏崎さん以外いない。そのまま同じ進行方向に走って向かってくる彼女を見て一つの発見をする。
「あれ。アイツ。俺より足速くね?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる