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前編
最初はやっぱりこの場面から(主人公視点)
しおりを挟む※ 一部流血描写あり ※
「ティアナ!お前との婚約を今日限りで破棄する!」
「ッ!!?」
パリンッ!
そんな声が突然耳に飛び込んできて、俺は思わず持っていたグラスを床に落としていた。
「お前……いや、貴様のマリアに対する言動は目に余る!!貴様のような下婢た女は私の婚約者に相応しくない!」
「な……なんのことですか……殿下ッ……」
「しらを切るつもりか!!」
ドンッ!
「キャアッ!!」
俺が落ちたグラスに視線を落としているうちに、話がどんどん進んでいき、気がつくと、彼女が突き飛ばされていた。
マジかオイ!
「ティアナ!!!」
何してくれとんじゃあのアホ殿下あああァ!
ドザッ!
「ッ!!」
「大丈夫かティナ!!」
心の中の叫びは何とか抑え込んで、さっきからアホな事を叫んでいる殿下に突き飛ばされた幼馴染を間一髪、床に倒れ込む前に抱き止めた。
このやろぉぉぉぉ!
俺の幼馴染みになにしてくれとんじゃクソボケぇぇぇぇぇ!
という呪詛を込めつつ犯人を見上げる。
睨むのは我慢したよ?
バカでも一応、第一王子だからね。
「殿下……いったいどういうおつもりですか……」
「ヴィクトール!貴様やはりそのあばずれの味方をするか!」
あばずれって、コラァ!
あ、ご紹介します。
このウルサイ下品なバカが、お恥ずかしながら我が国の第一王子、アルベルト・ケーニックリヒェ・アールレスマイアー様です。
ちなみに俺は、前世は社会人ゲーマーで、しがない公爵家の跡取りですがなにか?
おっとそんなことより……
「殿下……、公衆の面前で女性を突然怒鳴り付け、あまつさえつき倒すなど………、恥をお知り下さい」
バカが!
このバカ殿下!
怪我でもさせたらどうすんだよ!
という怒号を浴びせてやりたいのを必死で堪える。
「黙れヴィクトール!その女はな!私の愛するマリアを貶め、辱しめたのだぞ!」
「殿下の…………『愛する』…………?」
ちらりと、それまで視界に入ってきてなかった殿下の隣に、見たことないようなあるような女の子が立っていた。
くるくるとカールした栗毛に、くりんくりんの睫毛、ぐりぐりした丸い緑の瞳。
きわめつけは、Aラインのフリフリどピンクのドレス。
いかにも!って感じのお嬢様。
うわ、なんだコイツ。
と、俺は思ったけど、どうやら殿下とその周りの連中はそうは思ってないらしく……。
「私のマリアにいやらしい目線を送るな!」
「いやぁ、アル様ぁ、マリアこわいですぅ」
「そうですよ!ヴィクトール様!見損ないましたよ!」
「ティアナといい貴様といい、公爵位を貶める恥さらしだ」
「貴族の風上にもおけないよ」
外野うるっせぇ!!
黙っとけやボケェ!!
あと、そこのブリッ娘も黙れ!
馴れ馴れしく殿下を愛称で呼ぶな身の程知らず!
つか、チラッと見ただけだし!
いやらしい目なんてしてねーし!
ちょっと目付きがブッソウとは言われるけどね!
「………殿下、ティアナ嬢のことは誰より婚約者である貴方様がよくご存知かと思いますが、よもやヒルシュ公爵令嬢ともあろう女性がそこの方を貶めたなどと、本当に信じておられるのですか?」
「うるさい!!おおかた貴様と不貞をはたらいていたのをマリアに見られて脅していたんだろうが!!」
「そ、そうなんですぅ。ひどいですよねぇ、アル様というひとがありながら浮気とかぁ。マリア、何度もご忠告したんですよぉ」
不貞をはたらいてんのは、アンタとその女だろうが。さりげなく殿下にしなだれかかんなブリッ娘。あと、わざとらしくブリッ娘の腰に手を回すんじゃないアホ殿下。
馬鹿なの?馬鹿なんじゃないの?馬鹿だろ?そこの馬鹿女もアホだろ。
だいたい!
五年前のあの日から、ティアナとはろくに話してすらいねーし!
テメーのせいでな!
「おやめください。第一王子殿下ともあろうお方が、このように大勢の前で取り乱されるとは、恥ずかしいとは思われないのですか」
「う、うるさい!ウルサイ!黙れ!」
シャッ!
瞬間、キラリと視界を横切った光。
ブシュッ!!
「ッ!!!?」
「きゃあああああ!」
それが、横に凪がれた剣だと分かったのは、咄嗟に前にかざしていたらしい自分の腕から血が吹き出してからだった。
「で、殿下ッ…… 」
「ティアナ嬢ッ!!」
一瞬。
ほんの一瞬だけ戸惑って、ティアナが殿下に向かって声をあげようとしたのを止めた。
グッと、ティアナの袖を引き、サッと目線を送ると、俺の意図を理解してくれたティアナは再び押し黙った。
それでいい。
このクソ殿下とアホなお仲間の矛先は俺だけに向けておきたかった。
でないと、この騒動の責任を、ティアナの家、ヒルシュ公爵家にも及ばせてしまう。
それだけは、避けないと。
「ッ……………」
つか、いってぇなアホんだら!!
いきなり切りつけるとか何考えてんだコラァ!
最早爆発寸前の怒りをなんとか取り繕って殿下を見ると、色をなくして青ざめていた。
まさか、帯剣してたのが本物だと思ってなかったとか言わないでよ?
正装の帯剣に模造品差すとかありえないでしょ。
ホント馬鹿だね。
「アル様ぁ、大丈夫ですよぉ、この人、わざと痛がってるんですよぉ」
「そ、そうか!そうだよなマリア!ちょっと切れただけだよな!」
「そ、そ、そうです殿下!大丈夫ですよ!」
「たいした傷には見えないね」
「まったくだ、大袈裟な」
オイ!能天気どもよく見ろ!
ちょっとでこんな血が出るか!
下手したら神経ヤってるわ!
俺の腕は正装の装束をどす黒く染めるほど血が出ていて、正直感覚ない。
ヤバくね?これ。
背中に庇うティアナが小刻みに震えてるのが伝わってくる。
ごめんね、怖がらせて。
全部このクソ殿下が悪いんだからね!
「お、大袈裟に痛がってみせて皆の同情を買おうとするとはな!やはり貴様は浅ましい男だ!そこのあばずれがお似合いだ!」
くぁー!!
二度もティアナをあばずれ呼ばわりしよったなこのクソ殿下が!
俺のことなんざなんとでも言えばいいさ!
でもティアナを辱しめんのは許せん!
テメーが王子じゃなきゃ殺ってんのによぉぉぉぉぉ!
ギリ………。
痛みと怒りをこらえて、必死で奥歯を噛む。
こんな安い挑発に乗ってたまるか。
筆頭公爵家嫡男なめんなよ!
「で……、殿下、なぜ、このようなご無体を……」
「なぜだと!?貴様の胸に手をあててよく考えてみろ!他人の婚約者に横恋慕し、あまつさえ私のマリアにも色目をつかいおって!万死に値する!」
はぁ?他人の婚約者に横恋慕したのはアンタだろ?
五年前のこと、忘れたとは言わせねぇぞこの野郎……。
「なんだその目は!もう一度痛い目に遭わなければわからんようだな!!」
ブォンッ!
おい、うそだろ。
ザグッ!!
「ッ……!!ぐぁ………!!!」
視界を舞う鮮血と、意識を一瞬奪う程の激痛。
何が起こったのか、何が起きてるのかすぐに理解出来なかった。
「いやあああああ!!!」
激痛が襲ったのは、左肩。
袈裟懸け気味にザックリ。
下手くそ。
剣筋ブレブレだし。
バタンッ!!!
「何の騒ぎだ!」
ティアナの悲鳴が大広間中にこだますとほぼ同時に開いた廊下に続く扉の先から、血相を変えて飛び込んできた数人のおっさん達。
遅いし。
もっと早く来てほしかったなー。
「一体なにが…………!ッ!アルベルト殿下!!?」
バタバタと俺達に駆け寄ってきたのは学院長をはじめとする講師達。
その先頭にいた学院長が素早く殿下が剣を抜いてるのを見咎めたらしい。
しかもその切っ先からは血が滴り、そのまえには血を流してうずくまる俺がいる。
やっべえ完璧っしょ。
これで言い逃れできないでしょ。
と、思っていたら………。
「学院長様ぁ!このひと、アル様に切りかかろうとして返り討ちにあったんですよぉ」
「そ、そう。そうなのだ学院長!これは正当防衛だ!」
「わ、私達も見ました!」
「あ、ああ。そう、その通りだ」
「私も見ましたよ。私たちが証人です」
………………はぃ?
頭ん中お花畑なのコイツら。と、耳を疑う言葉が次々と飛び出す。
どう見たって俺が剣を抜いてないのは一目瞭然。
しかも、お前らより遥かに多い、五十人を越える人間が今しがた起こったこと全部見てたんだぞ!
そんな薄っぺらなウソが通じる訳ないだろ!
「わかりました」
……………はぁ?
わかりました
じゃねーよ!
学院長は俺と馬鹿殿下を交互に一瞥すると、そうとだけ答えた。
おい、ウソつくなって言えよ。
「殿下、その汚れた剣は私が処分させていただきます。まずは、装束をお着替えになられたほうがよろしいかと」
あ、わかった。
コイツらアホ殿下に真正面から立ち向かう気ない。
チッ。ひよりやがって。
そう悟ると不思議と痛みが怒りに変換されていって、やっと俺は顔をあげることができた。
「ふん。まだ大袈裟に痛がって見せるか、ヴィクトール。馬鹿な男だ」
ドカッ!
「ッーーー!!!?」
一瞬頭の中真っ白になった。
あろうことかこのゲス殿下自分で切りつけた俺の肩を蹴りやがった!
「見ろ、声もでないではないか、大して痛くない証拠だ」
ふ、ふ、ふざけんなァ!
この悪魔!
痛すぎて声が出ないんだよ!!
知ってんだろ!
知っててやってんだろ!
こちとら出血と痛みで朦朧としてんだよ!
ティアナを背中に庇ってなきゃとっくに気絶してるわ!!
「ふふっ、悪役令嬢なんか庇うからよ、バカねぇ。…………いきましょぉ、アル様ぁ」
『悪役令嬢』?
ってなんか聞き覚えのある単語が聞こえたような…………って、オイ!
ゲス殿下とその取り巻き連中は、学院長にわざとらしく大袈裟に剣を渡すと、俺とティアナを鼻で笑って大広間から出ていった。
でも、まだまだ気を抜いてられない。
「大丈夫ですか、コール君。今、施療師を………」
ザリッ。
「結構です。学院長」
意識を飛ばさないように必死で立ち上がると、学院長達は驚いて声を失なった。
あれ?
殿下は俺が大袈裟に振る舞ってるって言ってただろ?
何おどろいてんの?
そんなに大怪我に見えた?
実際立ててんのが不思議なくらいだけどね。
「このような醜態をお見せしてしまって申し訳ございません。汚れた服で式典に臨む訳にはいきませぬので、着替えて参ります」
後ろ手にかばっていたティアナもわずかに離れて立ち上がった。
「私も、飲みものを自分でこぼしてしまいましたの。お恥ずかしいですわ」
そう言うティアナの声はわずかに上擦っていた。
だって、綺麗なティアナの薄藤色のドレスには真っ赤なシミが。
ごめんね、俺の血で汚してしまった。
怖かったよな。
「わ、わかりました」
また、学院長はゲームのモブみたいに同じ台詞を繰り返した。
「今日はこれでお開きにいたします。このまま邸へお帰りなさい」
それで上手くおさめたつもりか。
と、心の中で悪態をつきつつも俺は笑って答えた。
「ありがとうございます学院長。ご配慮、感謝致します」
「私からも感謝申し上げます学院長様」
「「では、失礼いたします」」
ティアナと二人で優雅に礼をすると、俺達は誰に咎められるでもなく、一緒に大広間を出た。
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作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
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