俺の幼馴染みが悪役令嬢なはずないんだが

ムギ。

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後編

我が子のこととなると周りが見えなくなるのは私も同じですね(父親視点)

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「エックハルト!!」
「これは、宰相閣下。どうされました」
「とぼけるな!」

  バアンッ!!

  私はつい先ほど耳に入った件を問いただすべく法曹長官の執務室に飛び込んでいた。
  私が思い切り机を叩いてもピクリとも表情が動かない肝の座り様には畏れ入った。相変わらずの鉄面皮てつめんぴだな。

「お前よくもヴィクトールを囮にしてくれたな!」
「ああ、その件ですか。それが何か?むしろ及び腰の閣下の代わりに殿下を法的に拘束できた事に比べれば、些事さじかと」
些事さじだと!?ヴィクトールにまた危害を加えられていたかもしれないのにか!」
「そうならないように、閣下はあの狩人達を御子息の護衛に付けられたのでしょう?見事に盾になっておりましたよ」

  先ほどからの私の剣幕にも動揺する素振りすらみせない。この表情の変わらなさは法曹長官としては最高の技能だと思うが、いかんせん神経を逆撫でされる。

「閣下、少し落ち着かれてはいかがですか?」
「これが落ち着いていられるか!私はそんなことをせずとも殿下を抑え込めると言っただろう!」
「甘いですね閣下。貴方様も御子息と同じですか」
「なにッ……」

  コンコン。

  と、そこへ。

「し、失礼致します……」

  先ほどからエックハルトを怒鳴り付けている私の声が廊下まで響いているのだろう。扉が控えめに叩かれ、おどおどと文官が顔を覗かせた。

「どうしました。取り込み中ですよ」
「……陛下が、宰相閣下と法曹長官をお呼びでございます……」
「私と………閣下もですか?」
「は、はい。早急にとの仰せでございます」
「仕方ない………。参りますよエックハルト」

  私は予想していたその呼び出しに、荒らげていた呼吸と口調を宥め、仕方なくエックハルトを伴って謁見の間へ向かった。

「私はともかく何故閣下までもなのでしょう」

  エックハルトの鉄面皮はピクリとも崩れないが、珍しく内心動揺しているのは長い付き合いでなんとなく分かった。

「当然でしょう。ヴィクトールを囮にするなどということを、お前の一存で出来ようはずもないと普通なら考えます。陛下は私とお前が共謀して殿下をめたと考えておられるのですよ」
「まさか……」
「どうしましたエックハルト。まさかお前一人で責を負うつもりだったのですか?」

  バタン!

「なんであんなド田舎に帰んなきゃなんないのよ!私はアル様と婚約したのよ!?」
「お前は陛下のお言葉の何を聞いていたんだ!」

  廊下を歩いて中庭に面した回廊に差し掛かると、中庭を挟んで反対側の回廊で大声でそんな事を言っている人影が見えた。
  小柄な栗色の髪の少女と、同じ栗色の髪の壮年の男。親子だろうか。

「お前は身の程知らずにも程がある!男爵位の娘ごときが第一王子殿下と婚約などと!二度と口にするんじゃない!」
「なによストーリーにかすりもしないモブが偉そうにすんじゃないわよ!私はヒロインなのよ!?」
「またお前は意味の分からん事を!それになんだその口調は!学院で少しは淑女らしい振る舞いを身につけたかと期待した私が馬鹿だった!」

  陛下に呼び出された緊張感が吹き飛ぶほど、訳の分からない言い合いをしている二人。いや、訳の分からない事を言っているのはあの少女の方か。

「閣下」
「ああ、行きましょう」

  気がつくと足を止めてしまっていた私は、相変わらず大声で会話をする彼らに背を向けて、謁見の間へ急いだ。

「待ちかねたぞ。コール、バルリング」

  謁見の間の扉を押し開くと、陛下は我々が膝をつくのも待たずにそう言った。

「お待たせして申し訳ございません陛下。して、どのような御用でしょうか」 

  改めて私とバルリングが膝をついて礼をとると、陛下はふんと鼻を鳴らした。

「白々しい。分かっておるだろうがコール。アルベルトを今すぐ牢から出せ」

  ……………なんと短絡的な。
  これが王の言葉かと、私は頭を抱えたくなった。

「それは致しかねます」
「なんだと!お前達がアルベルトを謀って罪を着せたのは分かっているのだぞ!」
「何も分かっておられないではありませんか………」
「何だと!」
「何の根拠もなしに殿下を拘束するとお思いで?殿下は大勢の民の前で剣を抜き、あろうことか切りつけようとしたそうです。たまたま巡回の騎士達が居合わせなければ、怪我人が出ていたのかもしれなかったのですよ。………ですね?エックハルト」

  一歩後ろに膝をついていたエックハルトが顔を上げた。

「はい。殿下が往来で帯剣し、剣を抜いた事はその場にいた多くの民の証言からも明らかです」
「ならばお前の息子はどうなのだ!」
「と、申しますと」
「とぼけるな!お前の息子がアルベルトの婚約者を連れ去ったではないか!」
「お言葉ですが陛下。衆人環視の中でティアナ嬢との婚約を破棄すると宣言なされたのは殿下なのですよ?それを今更……、婚約者だなどと…。事実陛下は腕輪の返還にも応じられたではありませんか。それに、殿下はティアナ嬢とは別の令嬢に御執心とか」
「あんな訳の分からん娘をアルベルトの妃にできるか!たかだか男爵の娘が調子に乗りおって!」

  領地から迎えを来させて追い出してやった。と吐き捨てる陛下。もしやそれは、さっき回廊で帰るの帰らないのと言っていた親子か?

「お話はそれだけでしょうか」
「待て!アルベルトの拘束を解け!」
「それは応じられませんと申し上げたでしょう。陛下は四か国法典を蔑ろにするおつもりですか」

  仮にも我が国の王である貴方がそんなことでは他国に示しがつかないのですよ。
  本当に殿下のこととなると周りが見えなくなるようで。

「っ!お前達がアルベルトを嵌めたのであろう!」
「そんな証拠がどこにあるのです。代わりに、殿下が法を犯した証拠ならいくらでもありますが」

  ついに陛下は苦々しい顔で黙り込んでしまった。
  私とエックハルトはこれ幸いと王の前を辞し、謁見の間を後にした。

「エックハルト。殿下はいつまで拘束できる」
「法的には、十日が限界かと」
「十日か………。予定を早めなくては」

  私は十日で全てを終わらせる決意を固めた。
  奇しくもバルリングの独断が、知らず知らず躊躇っていた私の背中を強く押す結果になったのだった。
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