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第一章 "半透明の石のかけら"
半透明の石のかけらを探して
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何時間経ったのだろう。
多分まだ空に月が浮かんでいた数時間前からずっとこうしてリビングの絨毯に顔を近づけて"あれ"を探していたと思われる。
私は足の踏み場も無いほどに散らかったワンルームに敷いてある120×200程の緑と青と紫が色褪せた、行ったこともない空想のエジプトを連想させるクラシックモダンな絨毯の高密度な糸と糸の隙間を、かれこれ何時間もうつ伏せの姿勢で、数学者が難解な数式を解く時のような集中力で、鼻先が触れるか触れないかの近距離で見つめている。糸の樹海で何かを探している。
「お、発見」
顔を横に向け息を吐き、絨毯という糸と糸が樹木のように絡み合う深い樹海の中でようやく見つけた半透明の1mm程度の楕円状の小さな石を、私は右手の指で掴んだピンセットで身長につまみ、それを恐る恐る銀皿の上にそっと置いた。
「畜生。また米つぶかよ、本当紛らわしいな」
全神経を集中させてようやく見つけた"覚醒剤のかけら"...に見えたそれは、いつか私が独り寂しく食べた乾いたお米の粒であったのだった。
「あぁぁもう。首いてぇ」
この"石探し"を初めていったい何時間経ったのだろう。
うつ伏せになり絨毯に張り付いた時、確かまだ暗い空に朧な月がぼんやりと寂しそうに浮かんでいたと思う。
最後のクリスタルを水に溶かした時、これでおしまい、やめよう。と強く思ったはずだった。
"やめよう"というより"やめたい"という祈りにも似た想いを抱いて覚醒という名の魔界の海底を目指し、潜水服も脱ぎ捨て酸素ボンベなども船上に置きっぱなしで、ほとんど裸でダイブしてゆっくりと息を吐きながら暗くて深い、闇の世界に独り孤独だけを纏い沈んで行った。
突如、窓の向こうの街の喧騒や文明の利器が放つノイズが鳴り止み、自分だけに存在するかのような静けさが辺りを包み込む。
すると窓はもちろんカーテンすら締め切った我が家で独り寂しく引きこもり、"DEEP"を嗜んでいる私の耳にかすかに野良猫やネズミの足音が聴こえてきた。
「そろそろ雨降るな。」
郊外の低所得者用に作られたハリボテのコンクリートマンションの辺りを徘徊する小動物達の足音の微妙なリズムからそう予想し確信できる。ほんとう薬って危ない。
私はおもむろに立ち上がり、特に外出する気もないのに黒のジャケットに防水スプレーを振り始める。
この瞬間に自分がおかしな行動をしている自覚はなく、雨が降りそうなので防水する、ことはごく当たり前のことかと思われた。
満遍なく上から下へ。フードの辺りからゆっくりと身長にスプレーしていく。ジャケットの上部半分にスプレーし終えたと同時にスプレー缶が空になった。empt。
50%防水、50%非防水。いつもだいたい、なにをやるにしてもこんな感じで中途半端だった。ジ・エンド。
「全然、余裕です。予想できてました」
鬱な気持ちを紛らわそうと独りポジティブワードを呟いてみる。
ふと自分がいる場所が玄関だということ、そしてその玄関の扉は閉まっていて施錠されていることに気づく。
同時に先ほどまで霧状で空気中に噴霧していた防水スプレーの異様なケミカル臭が鼻を刺した。
はっきりとわかることは、成分もよくわからない化学薬品のミストを数分間吸い込み続けた、ということだ。
その瞬間、急に津波のような不安と心配が私の心を飲み込み、脳裏には、自分が吸い込んだであろう防水スプレーを製造していると思われるガスマスクをつけた如何わしい闇の科学者達の姿を妄想していた。
それが毒ミストによる幻覚症状なのか、
10代の頃に体験したガスパンのように心拍数が異常なまでにスピードをあげ、
次の瞬間、私は意識を失い、
おおげさに膝からフローリングに崩れ落ちた。
多分まだ空に月が浮かんでいた数時間前からずっとこうしてリビングの絨毯に顔を近づけて"あれ"を探していたと思われる。
私は足の踏み場も無いほどに散らかったワンルームに敷いてある120×200程の緑と青と紫が色褪せた、行ったこともない空想のエジプトを連想させるクラシックモダンな絨毯の高密度な糸と糸の隙間を、かれこれ何時間もうつ伏せの姿勢で、数学者が難解な数式を解く時のような集中力で、鼻先が触れるか触れないかの近距離で見つめている。糸の樹海で何かを探している。
「お、発見」
顔を横に向け息を吐き、絨毯という糸と糸が樹木のように絡み合う深い樹海の中でようやく見つけた半透明の1mm程度の楕円状の小さな石を、私は右手の指で掴んだピンセットで身長につまみ、それを恐る恐る銀皿の上にそっと置いた。
「畜生。また米つぶかよ、本当紛らわしいな」
全神経を集中させてようやく見つけた"覚醒剤のかけら"...に見えたそれは、いつか私が独り寂しく食べた乾いたお米の粒であったのだった。
「あぁぁもう。首いてぇ」
この"石探し"を初めていったい何時間経ったのだろう。
うつ伏せになり絨毯に張り付いた時、確かまだ暗い空に朧な月がぼんやりと寂しそうに浮かんでいたと思う。
最後のクリスタルを水に溶かした時、これでおしまい、やめよう。と強く思ったはずだった。
"やめよう"というより"やめたい"という祈りにも似た想いを抱いて覚醒という名の魔界の海底を目指し、潜水服も脱ぎ捨て酸素ボンベなども船上に置きっぱなしで、ほとんど裸でダイブしてゆっくりと息を吐きながら暗くて深い、闇の世界に独り孤独だけを纏い沈んで行った。
突如、窓の向こうの街の喧騒や文明の利器が放つノイズが鳴り止み、自分だけに存在するかのような静けさが辺りを包み込む。
すると窓はもちろんカーテンすら締め切った我が家で独り寂しく引きこもり、"DEEP"を嗜んでいる私の耳にかすかに野良猫やネズミの足音が聴こえてきた。
「そろそろ雨降るな。」
郊外の低所得者用に作られたハリボテのコンクリートマンションの辺りを徘徊する小動物達の足音の微妙なリズムからそう予想し確信できる。ほんとう薬って危ない。
私はおもむろに立ち上がり、特に外出する気もないのに黒のジャケットに防水スプレーを振り始める。
この瞬間に自分がおかしな行動をしている自覚はなく、雨が降りそうなので防水する、ことはごく当たり前のことかと思われた。
満遍なく上から下へ。フードの辺りからゆっくりと身長にスプレーしていく。ジャケットの上部半分にスプレーし終えたと同時にスプレー缶が空になった。empt。
50%防水、50%非防水。いつもだいたい、なにをやるにしてもこんな感じで中途半端だった。ジ・エンド。
「全然、余裕です。予想できてました」
鬱な気持ちを紛らわそうと独りポジティブワードを呟いてみる。
ふと自分がいる場所が玄関だということ、そしてその玄関の扉は閉まっていて施錠されていることに気づく。
同時に先ほどまで霧状で空気中に噴霧していた防水スプレーの異様なケミカル臭が鼻を刺した。
はっきりとわかることは、成分もよくわからない化学薬品のミストを数分間吸い込み続けた、ということだ。
その瞬間、急に津波のような不安と心配が私の心を飲み込み、脳裏には、自分が吸い込んだであろう防水スプレーを製造していると思われるガスマスクをつけた如何わしい闇の科学者達の姿を妄想していた。
それが毒ミストによる幻覚症状なのか、
10代の頃に体験したガスパンのように心拍数が異常なまでにスピードをあげ、
次の瞬間、私は意識を失い、
おおげさに膝からフローリングに崩れ落ちた。
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