失恋オムニバス。

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失恋は、楽しくなんか無い!

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 愛だとか恋だとか。一人の彼女より、たくさんの女友達…それが僕のスタンス。でも、教室にあの子が入ってきた瞬間に、“好きってこういうこと?”っていう感情が湧き上がったんだ。

 ショートカットでボーイッシュ。背は低くて、顔は小動物を思わせるような童顔。もろにタイプ。生きていると、こういうことがある。といっても、まだ大学生だけど。何はともあれ、声をかける。ええ、友達になるのは得意ですから笑。

 彼女、優《ゆう》はちょっと…というかかなり不思議系だった。それもまた、僕の好奇心をくすぐる。かなり人見知りな優に“人に慣れて欲しい”と思った僕は、自分の所属しているグループの一つに混ぜることにした。

 浅く広く。それが僕の交友関係。どこに行っても誰か知り合いはいる。だけど、深いつながりはない。だから気楽だし、当事者になることもない。本当に便利なスタンス。

「なんでやねん」と、僕の男友達、省吾《しょうご》が優にツッコんでいた。良い傾向だ。優は特に、男性恐怖症のきらいがあったから、気になっていたんだ。グループには、男性も女性も程よく集まっており、優にちょうど良いと僕は思っていた。

 一方で、優と2人で出かけることも多かった。デートチックに水族館に行くこともあれば、一緒に古本屋を巡ったりすることもあった。会話は弾むし、僕はとても楽しかったんだ。

 ある時、優は言った。「私、実は中学生の頃、幼馴染だと思っていた年上の男性に暴行されたんだ。それ以来、男性が怖くなって。でも、あなたのおかげで少し男性と話すことが怖く無くなったよ」と。信用される友達になれたことが、とてもうれしかった。次の言葉を聞くまでは。「でも、その時に“好き”って言われたから、男性から告白とかされちゃうと凄く怖いって思って避けちゃうの。それに今は、高校時代にできた恋人もいるし」。

 色々と『?』だ。しかも、確か優って。「確か女子校じゃ無かったっけ?」思い切って聞いた。「うん。そうだよ。彼女がいるの」。うわ~。マジか~。。。

 見事な打ち負け方だ。戦国時代なら、島津の“前に退却”バリに、評価はされたのではなかろうか?──そんなことを感じながらも、動揺を隠して対応をする。

「どうしたの?なんかいつもおしゃべりだけど、今日はさらに早口だね笑」、ヤバいな。その言い方もほんと可愛すぎる。でも“好き”って伝えた瞬間に僕のこと、怖くなっちゃってこれまで通りに話とかできなくなっちゃうんだよね?

 辛い心境でありつつ。でも優のほぼ唯一の“心の底から打ち明け話ができる男友達”というポジションに僕は、結構満足するようになっていた。

 でも。変化は急に訪れる。「なあ。どうやら俺、優のこと好きになったんだよ」。省吾から打ち明けられた時、動揺が走る。全てを伝えるべきかとも思ったが、「詳しいことは優のプライバシーに関わるから言えないけど、色々と難しい状況だと思うよ」とだけ話した。

「あのさ。何か省吾のことが気になるんだけど」。同じ頃、優からも相談を受けた。いやいや、あんた彼女いるとか言ってたから、僕は完全にもう“友達モード全開”に振り切って安心しきってましたけどもね!……と、心の中で叫んだって、3分の1どころか全然伝わる訳もない。マジで超、イヤだ。僕が最初、優を大好きになって大事に大事にしたんだぞ。何で省吾になんて渡さなきゃならないんだよ!

 ──翌日、2人は想いを伝えあっていた。僕が双方に伝えたからだ。あーもう。ホントしんどい。

 もう、精神的にいっぱいいっぱいだった僕は、女友達にメッセージを送ると、総動員され、その日には学生御用達の、いつも行ってる安いバーで“励ます会”的なものが催されていた。

 普段は僕に軽口しか叩かない女友達たちも「まあでも、あんたは良いことをしたよ」「うん。ちょっと見直した。本気出したらちゃんとできんじゃん」「口先だけと思ってたけど、意外と男前だったんだ。良いよ、私なら付き合ったげる」と慰めてくれる。

 目の前に、ウォッカをベースにしたカクテルがポンと置かれる。飲み口は優しいが、めちゃめちゃキツイお酒だ。安いバーの中で、一番高価なメニューでもある。「これは奢り」。いつもはからかってくる元カノの女性バーテンダーも、今日は優しい。

 良いことをしたのかどうか、僕にはわからない。でも、精一杯頑張ったことは確かだし、自分を褒めてあげたい。そう思いながら、カクテルを一気に流し込んだ。
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