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第拾陸話-愛猫

愛猫-15

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 夜田が逮捕されてからというもの、世間一般の関心は夜田が行っていた談合事件一点に集まっていた。
 勿論の事だが、猫谷好江の殺害事件の聴取も並行して進められていた。
 その取り調べで夜田は、好江を殺害したのは故意ではなく偶然であったと自供していた。
 事件当夜、好江に呼び出された夜田が店を訪れるや否や店の金について問い詰められ、かっとなった夜田は好江を突き飛ばし勢い良く転んだ好江の後頭部が机とぶつかりそのまま好江は動かなくなった。
 このままではマズいと考えた夜田は、思いつく限りの場所の指紋を拭き取ってから店を出たのだが興奮冷めやらないので、酒でも飲んで一息つこうと近くのスナックに入った。
 翌朝、好江の死体が発見されたであろうタイミングを見計らって店を訪れたのだ。
 以上が、夜田が取り調べで自供した内容である。
 そして、「CATエモン」は夜田が逮捕されて一週間後、無事に新店舗へと移転が完了し開店記念パーティーが新店舗で行われた。
「おかげさまで、新店舗を開店する所まで漕ぎつく所まで来ました。ありがとうございます」
 翡翠は来客に向かって深々と頭を下げる。
「そして、何よりこの店の運営について誰よりも考えてくれていた猫谷好江さんがこの場に居ないことはとても残念です。しかし、私達は彼女の遺志を受け継いでこの活動を続けていく所存です。これからも何卒宜しくお願い致します」
 再び翡翠は頭を下げたと同時に、来客達から拍手喝采が贈られた。
「良かった。良かった」燐は拍手しながら涙する。
 それに対して、長四郎は椅子に座り次から次へと膝の上に載って来る猫におやつを食べさせていく。
「あんたも拍手しなさいよ」燐は周りの人に聞こえないように長四郎に耳打ちした。
「見りゃ分かるでしょ。こいつらがひっきりなしで俺の所に来るんだから」長四郎は膝の上に載っている尚道におやつをあげながら答える。
「猫のせいにして。あんた、最低だね」燐が言うと「ニャー」と尚道が文句を言うかのように鳴いた。
「おっ、俺の味方してくれんのか? よし、ご褒美にもう一個進呈しよう」
 長四郎は尚道におやつを差し出すと、嬉しそうに尚道は長四郎が差し出したおやつを頬張る。
「俺、この件でよく分かったわ。猫って意外と人を見るんだなって」
「それ、どういう意味?」
「猫は良い人、悪い人が見分けられるんだなって」
「なんか、それ私が悪い人って聞こえるんだけど」
「それは自意識過剰ってやつだよ。現に夜田が怪しいってのを教えてくれたのはここに居る猫ちゃんだったわけだし。ねー」長四郎はそう言って、尚道を撫でる。
 確かに、夜田が事件発覚後この店を訪れた際、猫達が一斉に鳴いたのを思い出した。
「ま、良いじゃないの。こうして、新規店舗を開店できたんだから」
「そうね。でも、やっぱり納得いかない」
「何が?」
「あんたが猫に好かれて、私がまるで好かれていないみたいじゃない?」
「そんな事ないよ。多分、猫達も「ああ、こいつには逆らっちゃいけない」って本能が察するんじゃない?」
「ほぉ~」
「あ、いや、今のはウソ。ウソですっ!!」
 だが、長四郎の言葉は聞き入れられず、燐の制裁がお見舞いされるのであった。

 第拾陸話・完
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