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第1話-出会

出会-12

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「この鍵は、何ですか?」
 薫は私頭のポケットから取り出した鍵を私頭に見せながら尋ねる。
「それは家の鍵です」
「薫ちゃん」
 薫の問いに答えた私頭の回答を無視するかのように、京助は確認するよう促す。
 京助に言われるがまま、薫は入口の鍵穴に鍵を通し入れると鍵は綺麗に鍵穴に入りガチャガチャと音を立てて開け閉めすることが出来た。
「これが家の鍵ですか。言いたい事はありますか?」
「そうでした! 昨日は、私が最後に退社したんだった!! それで急いでいたものだから守衛に鍵を返しそびれていたんです!!!」私頭は白々しい言い訳を二人に聞かせた。
「そうですか。そうですか」
 京助がやれやれといった表情を見せていると、薫のスマホにメッセージが入った。
 防犯カメラの映像を確認していた刑事からであった。内容は、二時間前に私頭の姿が映っていたというものであった。
「私頭さん、これはどういう事ですか?」
 薫は送られてきた私頭が映った防犯カメラの映像の静止画を見せつけながら質問する。
「それは、買い物ついでに忘れ物を取りに来たんですよ」
「忘れ物。それは、どれになりますか?」
 机に並べられた私頭の所持品を見ながら京助は質問する。
「こ、これです」
 私頭が指さしたのは、財布であった。
「財布を忘れたんですか! 致命的じゃないですか!!」驚いて見せる京助を私頭は苦々しい顔で見る。
「私頭さん。貴方が犯人ですね」
 薫の問いかけに、膝から崩れ落ちてしまう私頭。
「落ちぃ~た。落ちた」京助が嬉しそうに言うと、「金智さん!」と薫に諌められる。
「すんません」
「どうして、飯田さんを殺したんですか?」
「私は、飯田に役員の前で正直に言うように説得したところ、激昂したあいつが襲い掛かってきたんです」
「それで、咄嗟的に殺してしまったと?」薫の問いに黙って頷いて認める私頭。
「噓だな」
 京助は、私頭の発言を一蹴する。
「どうしてですか?」
「今さ、北川君から連絡来て、どうも不正を働いてのは飯田さんではなくこの人だったようだよ。薫ちゃん」
「え?」
 ? マークを頭の上に浮かべる薫に自身のスマホに、飯田の上司から聞き込みをしていた北澤から送られてきたメッセージを見せ、その内容は飯田は不正を暴こうとしていたという証言が取れたというメッセージが、京助のスマホに送られていた。
「え、今まで聞いていた話とは全然違うじゃないですか!」
「そうなるよね。という事はだ。不正を暴こうとしていたのは飯田さんだから、激昂するのはおかしな話だよな」
 項垂れている私頭は京助の発言を聞いても尚、微動だにせず黙って二人の会話を聞いていた。
「因みに、この証言をなさっていたのはあなたの上司らしいですよ」
「そうか・・・・・・」
 観念したのか、私頭は薫に手錠をかけるよう差し出す。
「私頭賢人。飯田善さん、殺害容疑で緊急逮捕」
 薫はそう宣言し、私頭の手に手錠をかけた。
「ご協力ありがとうございました」薫はそう言いながら、私頭を立たせる。
「どういたしまして。つーことは帰っても良い?」
「はい」
「じゃ、お疲れぇ~」
 京助は薫よりも先にその場を後にするのだった。
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