西園寺家の末娘

明衣令央

文字の大きさ
26 / 115
第3章:四家と妖滅

8・真中の力

しおりを挟む


「さてと、ちょっと話すかのう」

 おじいちゃんがそう言うと、頷いた叔父さんが、店の入り口にかけてある札を、『準備中』に引っ繰り返した。
 それからみんなで四人掛けの席に腰を下ろして、

「周央学園に通うのも、大変じゃな」

 と、おじいちゃんは苦笑いした。

「千隼、小花、いいか、人はな、必ず死ぬもんじゃ。これは、生き物みんなに平等に訪れる事なんじゃ」

 そんなふうに話し始めたおじいちゃんに、私はまた泣いてしまった。

「おじいちゃんの馬鹿……長生きしてほしいのに、なんでそんな事を言うのぉ……」

 べそをかく私を優しく見つめて、おじいちゃんは続ける。

「でもな、小花。これは現実じゃ。小花だって、わかってるだろう?」

 そりゃあわかっているけど。でも、今それを言われたくなかったなぁ。
 私は叔父さんが渡してくれたおしぼりで涙を拭うと、はぁ、と深呼吸した。

「小花、じいちゃんだって、もちろん長生きしたいと思っているし、するつもりだ。いつまでも健康で、千隼や小花、昌央の成長を見ていたいしな。でも、死というものは、いつか必ずやってくる。それが早いか遅いかっていうだけ。この話をしたのは、そういう考え方を、じいちゃんたち真中の人間はしているっていう事を、わかってほしかったからじゃ。まぁ、妖魔から守ってもらっている事は、ありがたいって思っているがな」

 おじいちゃんはそう言うと苦笑した。
 妖魔、という言葉が出て、私は本当におじいちゃんたちが、妖魔っていうわけのわからないものに狙われているという事を、再認識した。

「ねぇ、どうしておじいちゃんたちが、そんな妖魔とかいう変なのに狙われるの?」

 私がそう尋ねると、おじいちゃんは叔父さんと顔を見合わし、

「それは多分……不思議な事ができるからじゃろうな」

 と呟くと、爪楊枝を一本手に取り、自分の左の手の甲に、ぷつっと突き刺した。じわりと血が出てくる。

「な、何してるの、おじいちゃんっ」

「そうだぜ、何やってんだよ! 痛いだろっ!」

 驚く私とちい兄の前で、おじいちゃんは、

「まぁ、見てろ」

 と言うと、爪楊枝で傷つけた左の手の甲に、右手をかざした。
 すると、右手がなんとなく淡く光って――おじいちゃんが右手を左手から離すと、そこには先程の爪楊枝で突き刺した傷がなくなっていた。

「どういう事? 傷が消えたよ? 手品? ねぇ、ちい兄、どういう事?」

「あぁ、そういう事か……」

「え?」

 驚く私に対し、ちい兄は冷静だった。ちい兄はちらりと叔父さんを見ると、

「叔父さんも、できるのか?」

 と問う。

「うん、できるよ。やって見せようか?」

 叔父さんはちい兄の問いに笑って頷いて、それから爪楊枝へと手を伸ばそうとするから、私は慌てて止めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...