西園寺家の末娘

明衣令央

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第4章:不協和音

13・妖気浄化の仕組み

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「さて、西園寺小花さん。大樹さんからあなたをお預かりしたからには、あなたに妖気浄化の仕組みを教えようと思うのですが、それでよろしいですか?」

 だいぶ落ち着いて涙が止まった頃、貴美さんが声をかけてくれた。

「はい、よろしくお願いします!」

「わかりました。まず、ここはモニタールームです。ここでは集めた妖気の管理や、妖気浄化量の分析を行っています」

 貴美さんはそう言うと、コンピュータを操作して、大きなモニターに、円グラフと棒グラフを出してくれた。

「昨日の授業で、亘さんが、日本全国に仕掛けた術式で妖気が毎日集められ、ここに転送されている事を説明していましたが、覚えていますか?」

「はい」

「では、まずは円グラフをご覧ください。この円グラフは、現在の妖気量を現しています。六十パーセントが、まだ浄化されていない妖気量、そして四十パーセントが浄化された妖気量を示しています」

「へぇ……」

 今、妖滅室では、大樹さん、将成さん、ちい兄が妖気浄化を行っていた。
 大樹さんたちが妖気を浄化させるたびに、円グラフの割合は変化して、少しずつ減っていく。
 だけど時折、妖気量が増えて元に戻る時があった。
 どうしたのだろうと首を傾げると、今現在も日本中に仕掛けた術式で妖気が集まっているのだと貴美さんが説明してくれた。

「このフロアは二十四時間使用可能ですので、今は大樹さんたち若い方々が行っていますが、他の方々……彼らの親世代やそのさらに前の世代が行う時もあります。ここは多くの妖気を貯められるようにはなっていますが、九十パーセントを越えると危険なので、四家の皆さんには、妖気量を十パーセント以下とするのを目標にしていただいています」

 常に増え続ける妖気を、常に浄化し続けなくてはいけないという事か。
 改めて考えると、妖気浄化ってすごくハードだなと思う。

「そしてこちらが、各四家の妖気浄化量をグラフ化したものです。東西南北のどの家の妖気浄化量が多いかは、ご覧になればわかっていただけるかと思います」

 棒グラフには、東、西、南、北と表示され、それぞれ棒のグラフが横に伸びていた。
 東西南北の中で、西の棒グラフが圧倒的に短い。
 それは、西の……西園寺家の妖気浄化量が圧倒的に少ない事を意味していた。

「今日、西が他家に迷惑をかけていると言われました。それは、これが原因って事ですか?」

 私が聞くと、貴美さんは頷いた。

「妖気浄化は四家とその分家で分けて行っていますが、その妖滅量は見ての通りです。一日の妖気量を百とすると、東、南、北が三十強、西が十弱、といったところでしょうか。本来なら、各二十五ずつ行うべきところですが、西ができない分を、他家がカバーしている状態が続いています」

「十パーセントかぁ……」

 これじゃあ真紀ちゃんが言っていたように、西が他家に迷惑をかけていると言われても仕方がないのかもしれない。
 それに、渚ちゃんが早く四家の手伝いをしたいのだと言っていた意味も理解できた。
 だけど、どうして西だけがこんなに妖滅量が少ないのかな?

「あの……どうして西だけが、こんなにも少ないんですか? もう少しできていてもいいと思うんですけど……」

 疑問を口にすると、また貴美さんは少し困ったような表情をしたけれど、教えてくれた。

「一番の原因は、単純に、レベル不足、でしょうか……」

「え?」

「妖気浄化にはレベルがあると、昨日も説明したかと思います。東、南、北には高レベルの妖気浄化を行えるだけの人がいますが、西はまだそのレベルではないという事です。もちろん、低いレベルでも回数をこなせば多くの量の妖気浄化を行う事ができますが、それだけの時間も体力もないでしょう……」

「そうか……」

 今朝、ちい兄の妖気浄化は、見せてもらえなかった。
 レベルが違うというのなら、レベル10を軽々とこなす大樹さんたちの後に妖気浄化を行うのは、確かに嫌だろう。

「西園寺千隼さんも、頑張ってはいます……。彼は負けず嫌いで、責任感が強く、努力家です。だけど、妖滅に関わったのが遅かった。そのため、他の方々と比べると、今はまだ力不足なのです」

 ちい兄は十二歳まで、私と一緒に真中家で育った。
 そこから西園寺家に引き取られて、現在に至る。
 西園寺家に引き取られる前のちい兄は、妖滅の事なんて何もしらなかったはずだから、ちい兄が妖滅に関わったのは、中学生の頃からという事になる。
 他の四家や分家の人たちは、もっと子供の頃から妖滅に関わっていたという事らしい。


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