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第4章:不協和音
18・心、強くあるように
しおりを挟む「なぁ、小花。お前ら一年、何かあった?」
あの日から、二週間。ちい兄からは何度も聞かれた事だ。
正直言うと、何度かちい兄に相談しようかなと思った。
だけど分家という渚ちゃんや七海さんの立場を考えると、ちい兄に相談するのは告げ口になってしまうのかもしれないって思って、結局相談する事ができないでいた。
「なんで、そう思うの?」
「だってよ……朝も放課後も、妖滅の授業でも、お前ら全然喋らないし、南京極の茉莉花ちゃんは、ずっと訓練してねぇし」
「それは……」
そうだよね、確かにおかしいと思うよね。
だって、妖滅の授業が始まった時は、私たちはみんな仲が良かったから。
そろそろ限界なのかな、と思った。
そろそろ誰かに相談して、助けを求めるべきなのかな、と。
だけど、やっぱり分家との事を本家に相談するという事が、どういう結果を招くのかが怖くて、なかなか言い出す事ができなかった。
「大丈夫ですわ、千隼様。このフロアでは、本家の者と分家の者としてのけじめをつけて、接しているだけなのですわ」
黙り込んだ私の代わりに発言したのは、ジャージ姿の茉莉花ちゃんだった。
今は、放課後……茉莉花ちゃんはあの日から、妖滅の授業以外では、この妖滅フロアに来る事はなかったのに、どうしたんだろう?
私の疑問に気づいたのだろう、茉莉花ちゃんはにっこりと明るくて可愛い笑顔を私とちい兄に向けると、言った。
「長らくお休みしておりましたが、今日からわたくしも、また妖気浄化の訓練を行いますの。小花、わたくしの練習に、付き合っていただけます?」
「う、うん、もちろんそれはいいけど……」
「では、準備体操をして、さっそく行いましょう! 千隼様、小花をお借りしますわね!」
茉莉花ちゃんはそう言うと、私の手を引っ張って、妖滅フロアの隅へと走っていく。
「茉莉花ちゃん、今日からまた訓練するって、本当? 蘭華さん、いいって言ってくれたの?」
小声で問いかけると、茉莉花ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「そうなんだ、良かったね!」
「はい!」
クラスの子たちとまた仲良くできるようになったから、前向きになる事ができたのかなと思ったけれど、茉莉花ちゃんの言葉は私が思ったのと違っていた。
「わたくし、お姉様に、一番大切なお友達……親友のために、強い自分になりたいって申し上げましたの! お姉様は笑って、頑張りなさいって言ってくださいましたの」
「一番大切な、親友?」
「わたくしは、小花の事を、そのように思っておりますの。いけなかったですか?」
こてん、と首を傾げ、茉莉花ちゃんが言った。
私はぶんぶんと首を横に振りながら、そんな事ないよ、と続ける。
「わたくし、お姉様から何度も、心を強くしなさいと言われました。わたくしは、お姉様が大好きです。お姉様と居ると、心が強くなれる気がするのですわ。だけど、それと同じ事を、小花に対しても思いますの。わたくしは小花と居れば強くなれるし、もっともっと強くなりたいと思うのですわ。そして……」
茉莉花ちゃんは私の両手をぎゅっと両手で握りしめると、真剣な表情で、続ける。
「そして、もしも小花が何かで落ち込んでしまったのなら、今度はわたくしが小花を励ましてあげられるように、支えになれるように、強くなりたいのです。だって小花は、わたくしの一番の親友なのですから!」
「茉莉花ちゃんっ……」
茉莉花ちゃんの優しくて強い言葉を聞いて、私は涙が零れてしまった。
友達に心無い事を言われて傷ついて泣いていた茉莉花ちゃんが、こんなに強くなるなんて……私もしっかりしなきゃなって思う。
「茉莉花ちゃん、ありがとう……」
とお礼を言うと、
「小花、わたくしの事は、茉莉花、と呼び捨てで構いませんわ」
と茉莉花ちゃんは言った。
「だってわたくしは小花の事を、ずっと呼び捨てでしたし……わたくしたちは親友なのですから、お互いに呼び捨てでいいと思うのですわ! 小花は、そう思いません?」
親友同士でも、お互いの呼び方は自由じゃないかな、とちょっとだけ思ったけれど、これは多分、茉莉花ちゃんは私に呼び捨てにしてもらいたいのだな、と思った。
ちょっとひねくれているけれど、甘えん坊で、泣き虫で、落ち込む事も少なくないけど、最終的にはそれを乗り越える強い心を持った彼女を、私は心から信頼できる親友だと思った。
「そうだね、茉莉花。じゃあ、これから二人で頑張ろう!」
茉莉花ちゃん――いや、茉莉花の望み通りに呼び掛けると、茉莉花はパアッという効果音がしそうなくらい嬉しそうに笑って、頷いた。
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