西園寺家の末娘

明衣令央

文字の大きさ
59 / 115
第5章:闇

1・二人だから頑張れる

しおりを挟む
「うーん、なかなか上手くいきませんわ」

 茉莉花が深いため息をつき、ジャージのそでで流れる汗をぬぐった。

「そりゃ、二週間も休んでたら、腕も落ちるって」

 そう言ってゲラゲラ笑ったのは、賢さんだ。
 二週間ぶりに妖気浄化訓練に参加した茉莉花は、私が大樹さんのコーチを受けている流れから、私と一緒に大樹さんにコーチをしてもらう事になった。
 これに驚いたのは、もちろん茉莉花のお姉さんである、蘭華さんだ。

「茉莉花! 東の方にコーチをしていただくなど、いけません!」

 って言って茉莉花を止めに来たんだけど、ここで大樹さんはあっさりと、別に構わないと答えたのだ。

「小花を見るついでだ。構わない。それに、お前の妹が一緒だと、小花も張り切るだろう。今日の小花は、久しぶりにとても楽しそうだ」

 楽しそう、と大樹さんが言った事で、蘭華さんが眉を顰めた。

「訓練を、楽しむなんて」

 と言う蘭華さんは、真面目な人なのだと思った。

「俺は、別に構わないと思う。それに、誰かと一緒だからこそ、力を発揮する事もあるだろう。特にこの二人は四家の者だ。四家同士が妖気浄化で連携できれば、妖気浄化の威力が増すかもしれない」

「連携?」

 茉莉花と二人で首を傾げると、

「一人で無理なら、二人で行えば良いという事だ。一人では無理でも、二人でならより高いレベルの妖気浄化を行えるだろう」

 と大樹さんは説明してくれた。
 なるほど、と私と茉莉花は顔を見合わせる。

「小花、お前はまだまだ初心者だ。まずは低めのレベルで集中して、西園寺家の水の力のコントロールを覚えるんだ。南京極の妹、お前は姉と同じスタイルだが、持久力と集中力がない。地道な体力づくりと、小花と一緒に南京極の炎の力のコントロールの訓練を行え。そして、当面の目標は、お前たち二人でレベル2の妖気浄化だ」

「はい!」

 大樹さんの指示に、私と茉莉花は頷いた。

「蘭華も将成も千隼も俊秀も、気づいた事があればこの二人に言ってやってくれ。まだまだ未熟者の二人だ。早く一人前にしてやらねば、怪我をするし下手をすれば命を落とす……そんな事させたくないだろう?」

 怪我をするのも死んじゃうのも嫌だなぁと考えていると、

「そうですわね。茉莉花はわたくしの大切な妹ですし、それに、小花さんも……」

「そう、だな。小花に怪我をさせたくないな」

 蘭華さんだけでなく、将成さんまでもが頷いた。
 嫌われるより好かれている方が嬉しいけれど、とても意外だった。
 じっと顔を見つめると、

「小花は、理想の妹、という感じでとても可愛いからな! 俺の事は、お兄さんと呼んでくれてもいいぞ!」

 と言って、将成さんは豪快に笑う。

「いや、小花の兄貴は俺だから!」

 慌てたようにちい兄が突っ込むと、将成さんは、そうだったな、と言ってまた豪快に笑った。

「まぁ、俺はまだ小花に教えてやれるレベルじゃないけどな」

「確かに、得物に頼る千隼のスタイルは、小花には合わないだろうな」

 大樹さんの言葉に、ちい兄は苦笑する。
 ちい兄の得物って、ヌンチャクなんだよね。
 賢さんがこっそりと教えてくれたんだけど、ちい兄は賢さんに憧れて、自分の得物をヌンチャクにしたのだそうだ。
 だからちい兄は、西園寺家の水の力の使い方を覚えるよりも、先にヌンチャクの使い方を覚えてしまい、妖気浄化が分家の人のように得物頼りになってしまっているらしい。
 ちなみに賢さんの得物は、三節棍という、ヌンチャク三本繋がっているような武器で、賢さんはそれを軽々とカッコよく振り回している。
 でも、そんな賢さんを見たら、憧れちゃうのは仕方がないよね。

「あの人が居れば、小花さんに上手く教えてあげられたかもしれませんわね」

 ぽつんと呟くように、蘭華さんが言った。
 大樹さんや将成さんが、あぁ、と頷き、ちい兄が俯く。
 誰の事だろうと気になったけれど、

「小花、蘭華の妹、お前たち二人は、まずはレベル1を余裕でクリアできるようになれ」

 と急かされて、私と茉莉花は妖滅室へと向かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...