西園寺家の末娘

明衣令央

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第6章:不和

1・闇の中で

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 深い深い闇の中を、どんどん沈んでいくような感じ。
 このまま沈んでいくのは嫌だと思っても、私には指先一つ動かす事ができなかった。
 暗い暗い闇の中、目を開いていても何も見えないのに、声だけが聞こえる。

『あんたが生まれたから! あんたなんか、生まれなかったら良かったのに!』

 麗華さんの声だ。麗華さんの、私を憎む声。
 そこに、真紀ちゃんと渚ちゃんの声が重なる。

『あんたさえ居なければ! 大樹様に近づかないで!』

『そうよ、全部あなたのせい!』

 私は居ない方がいいの?
 麗華さんの言う通り、生まれてこなかった方が良かったの?
 こんなひどい言葉、聞きたくない。
 だけど、体が全く動かなくて、耳を塞ぐ事はできなかった。
 辛くて、悲しくて、胸が痛い。
 胸が痛くて、息ができない。

『小花は、俺の大事な妹だ!』

『僕らはみんな、小花ちゃんが生まれてくるのを、楽しみにしていたんだよ』

 ちい兄とゆう兄の声が聞こえて、胸の痛みが少しだけ和らいだ。
 私を想ってくれる、二人の言葉を信じたい。
 私がみんなのそばに居ていいんだって、信じたい。
 そして――。

『小花、俺はお前が好きだ。愛している』

 大樹さんの言葉、驚いたけれど、ものすごく嬉しかった。
 私も大樹さんが大好きだ。
 できる事なら、大樹さんのそばに居たい。
 だけど――それはもう無理かもしれない。
 私は、このまま死んでしまうかもしれないから……。

『小花ちゃん、あなたに会えるのを、楽しみにしているわ』

 知らない女の人の声が聞こえたような気がした。
 いつの間にか、暗闇の中に小さな淡い光があって、女の人の声はそこから聞こえたような気がした。

『小花ちゃん、あなたは私たちの希望なの。あなたが生まれてくるのを、待っているわ』

 この声の主が誰なのかはわからない。
 だけど私は、とても幸せな気持ちになった。
 この優しい声の女の人は、本当に私を愛してくれているんだって、そう思えた。

『小花……小花ちゃん……戻っておいで……。小花ちゃんの居場所は、そっちじゃない……』

 今度は男の人の声が聞こえた。
 その声に導かれるように、淡い光はゆっくり上へと昇っていく。
 私は淡い光をぼんやりと目で追いかけて、光の向かう方向へと行きたい、と願った。
 そして――。

「こーはーなー! おーきーろー!」

 べちん、と頬に衝撃を受け、私は目を覚ました。

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