コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす

明衣令央

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第二章:ベル・ガンドール

32・目覚め

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 目が覚めた時、私はとても心地好く温かいものに包まれて眠っていたようだった。
 この温かさは、自分を守るものーー何故そんなふうに思ったのかはわからなかったけれど、何故か私は、そう思い込んでいた。
 ここは安全なところ。私を守ってくれるもの。
 だから安心して、まだ眠っていればいい。
 そんなふうに思いながら、眠気に誘われるまま意識を手放そうとしたところで、

「起きたのか?」

 という、誰かの声が、私の背後から聞こえた。
 誰の声だろう?
 多分、私の知らない声だーーそう思った瞬間、眠気は去り一気に覚醒した。
 目を見開いて、私は自分の今の状況を確認する。
 体に、何かが巻き付いていた。筋肉質な、男の人の腕だ。
 私はベッドに寝かされていて、隣には誰か男の人が居て、その人に抱きしめられて眠っていたようだった。

「あ……けほっ……」

 一体どういう状況なのか、さっぱりわからない。
 だから、この男の人が誰なのか、この状況は何がどうなっているのかなどを聞きたかったのだけれど、上手く声を出す事ができなかった。
 それに、起き上がりたいのに、体に全く力が入らない。
 体が重くて仕方がないのだ。

「なん……けほ、けほっ」

 声も上手く出せない、体が動かない。
 その事実が私を不安にさせ、混乱させる。
 そんな私に、

「おい、大丈夫か? 無理するな」

 と言って、男の人は優しく背中を撫でてくれた。
 それから、大きな手で目を塞がれて上を向かされると、唇が塞がれる。
 え? 口づけされてる? どういう事?
 私はますます混乱したのだけれど、口の中に少しずつ水が流れこんできたから、水を飲ませようとしてくれただけのようだった。
 上手く飲み下せずにむせると、また優しく背中を撫でてくれた。

「大丈夫か? 俺の声が、聞こえているか?」

 咳込みながら、私は頷いた。そして呼吸を整えて、

「あの……」

 と声を出す。
 水を飲んで喉が潤ったからか、さっきよりははっきりと声を出す事ができた。

「良かったな、目が覚めて……。あんた、半年も眠っていたんだぞ?」

「え?」

 半年も眠っていた? 一体、どうして?
 混乱する私は、何も言えなかった。
 私は一体どうして、半年もの間、眠っていたのだろう?

「いろいろと聞きたい事がある。あんた、どうしてあの日、あんな危ない場所に一人でいたんだ?」

「え? どうしてって……」

 私はどこに居たというのだろう?
 答えられずに黙っていると、彼はベッドを降りて、体を起こせずに横たわったままの、私の正面まで来てくれた。
 彼は銀色の髪に、ブルーグレイの瞳をしている、体格の良い若い男の人だった。

「だ、れ?」

 私がそう問うと、

「俺は、フェンリル・エンベリー。オウンドーラ王国の、西の森の第一砦を守っている」

 と答えてくれた。
 オウンドーラ王国? 第一砦?
 どこかで聞いた事があるような気がするけれど、思い出せなかった。

「あ、の……」

「なんだ?」

「私は、誰、ですか?」

 私は彼の問いに、何も答える事ができなかった。
 今の私は、自分が誰なのかさえ、わからなくなっていたのだ。
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