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第二章:ベル・ガンドール
41・記憶なんて
しおりを挟む作った料理は、全てなくなった。
この砦のみなさんに美味しいって言って食べてもらえて、頑張って作ったか甲斐があったと思う。
片付けを終えた後も、私は魔豚をハムにするために、一人で厨房に残っていた。
「魔豚のハムの作り方……やっぱり私、全部覚えている……」
ハムの仕込みを終えて、私は深い息をついた。
美味しいハムの作り方を思い出せたのは嬉しいけれど、私は自分がこれから少しずつ、いろんな事を思い出していくであろう事を感じていた。
本来なら、それは喜ばしい事のはずだった。
でも、今の私はそれを、嫌だと思っていた。
これ以上記憶が戻らなければいいのにと思う。
私はどんな人間だったのだろう?
何故あの日、西の魔の森に一人で居たのだろう?
顔の傷は、誰に、どういう理由で付けられたものなのだろう?
記憶を取り戻せば全てわかる。
だけど、私は、それが怖かった。
怖くて桑くて、仕方がなかった。
「ベル、寝ないのか? まだ終わらないのか?」
厨房のドアが軽くノックされて、フェンリルさんが顔を覗かせた。
「ベルはまだ病み上がりなんだから、もう体を休めた方がいい」
「あ、はい、ありがとうございます」
「疲れただろう? 大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
フェンリルさんはとても優しいけど、かなり過保護でもある。
やはり彼は私に、妹さんを見ているのだろうか。
でも、私の名前を決めたとき、フェンリルさんは、私の事を妹じゃないって言っていた。
あれはどういう意味だったんだろう?
「メシ、本当に美味かった。ありがとうな、ベル。みんな喜んでたよ」
「いえ、喜んでいただけて、私も嬉しいです」
「記憶……料理をしたからか、何か少し思い出したみたいだな」
はい、と頷くと、フェンリルさんは苦笑した。
「こうやって、ベルは少しずつ記憶を取り戻していくんだろうな」
「そう、ですね」
確かに、今日の料理の時みたいに、私はふとした事から記憶を取り戻していくのかもしれない。
記憶が戻れば、もうここには居られないだろうか。
今の私が忘れてしまっている、私が以前いたどこかに、戻らなければならないのだろうか。
もう、フェンリルさんのそばには、居る事はできないのだろうか。
「ベルが作った料理、すごく美味かったから、また食いたいけど……気軽に頼み辛いな」
「え?」
「ベルはきっと、思い出したら、ここから出て行くだろう?」
フェンリルさんの言葉に、私は驚いた。
どういう意味なんだろう?
「多分ベルは、誰かが大事に育てたお嬢さんだ……もしかすると、恋人とか居たかもしれない……」
「え? え?」
私に恋人? 多分、居なかったとは思うけれど、記憶のない私には、真実はわからなかった。
「悪い、変な事を言ったな。ベルが記憶を失ったままなら、このまま一緒に居られるんじゃないかって思っちまったんだ」
フェンリルさんはまた苦笑しながらそう言ったが、その言葉を聞いた私の胸は高鳴った。
もしかして、私がフェンリルさんのそばに居たいと思っているように、フェンリルさんも私のそばにいたいと思ってくれているの?
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