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第三章:それぞれの思惑
54・フェンリル・エンベリー
しおりを挟む「おい、お前たち、どうしたのだ! 一体何があったのだ!」
オウンドーラ王は、すぐそばに居た騎士へと視線を向けた。
騎士は片膝をついて俯いており、震えながら呟くように言う。
「こ、怖い……」
「怖い? 何の事だ?」
首を傾げながら、オウンドーラ王は、必死に視線をどこかに向けようとしている騎士の視線の先へと目を向けた。
騎士の視線の先に居たのは、フェンリルだった。
フェンリルはオウンドーラ王へとニヤリと笑いかけると、
「少し殺気をぶつけただけで膝をつくなんて、頼りない騎士様たちだなぁ」
と、言った。
この声を聞いた騎士たちは、がたがたと震えて次々に気を失い、この場で意識を保っている者は、最初から居たオウンドーラ王とコールド伯爵家の者だけだった。
「な、なんなのだ、お前は……私の騎士たちに、一体何をしたのだ!」
「騎士と兵士にだけ向けて、殺気を放ったんだ。アンタらには放ってねぇから意識を保ってられるんだ。本当ならアンタら込みで全員ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、お情けで戦力は残しておいてやったぜ」
フェンリルは倒れた騎士や兵士へと、呆れたような目を向けた。
自分が放った殺気を受け止めきれずに気絶する騎士や兵士が、魔物相手に通用するのだろうか。
だが、こんなのでも居ないよりはマシではあるのだろう。
「ではオウンドーラ王、これで俺たち西の森の第一砦を守っていた傭兵たちは、貴国との契約を終わらせてもらう。あとは自分たちで何とかしてくれ。そのための騎士や兵士のはずだからな」
フェンリルはそう言うと、オウンドーラ王に背を向け、ギルベルトの元へと向かった。
無言で両手を差し出すと、頷いたギルベルトがベルの体を返してくれた。
気を失ったままではあるが、彼女の温もりを感じたフェンリルは、ほっと息をついた。
「フェンリル、お前たちはこれから、どこに向かうつもりだ?」
「そうだな……。ベルと一緒に居られるなら、この国以外なら、どこだっていい……。この王都で物資の補給をしたら、さっさと出て行こうと思っている。ギルベルトさん、アンタさえ良かったら合流するか? ベルが心配だろう」
「お前が、舅が一緒で嫌ではないのなら、な」
「構わないさ。アンタが居れば、ベルは喜ぶし安心するだろう。アンタこそ、大切に育てた娘がこんな傭兵と一緒になっちまって、申し訳ないな」
フェンリルの言葉に、ギルベルトは首を横に振った。
「そんな事はない。お前は、ベルが心から愛している男だ。では、私も合流させてもらおうか」
「あぁ、そうしてくれ」
フェンリルが頷き歩き出すと、同じようにギルベルトも歩き出した。
二人の後をタイラーとマディが追い、最後に残ったチェスターがオウンドーラ王に、
「それでは、我々はこれで失礼いたします」
と明るい声で言い、フェンリルたちの後を追った。
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