コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす

明衣令央

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最終章:国の終わり、そして始まり

71・トマスの最期

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 どうすれば良かったのだろう、と思いながら、トマスは必死に走っていた。
 先程、魔物に囲まれた彼は、足元に落ちていた石を魔物たちに投げつけ、その隙に逃げ出した。
 逃げなければ、殺される――だけど、人の足では魔物から逃げ切る事など不可能だった。
 だから先程の男は、トマスから馬を奪ったのかもしれない。
 ただ、馬を手に入れたとしても、無事にこの魔物たちから逃げ切れるとは限らないけれど。

「た、助けてくれ! 誰か!」

 走りながら、精いっぱいの声で叫ぶ。
 だけど、それに応えてトマスを助けに来てくれる者は、誰も居なかった。
 みんな自分の事で精一杯なのだ。
 誰にも助けてもらえないなら、やはりトマスには必死に逃げる事しかできなかった。
 自分には、兄たちにように戦う力はないのだ。
 魔物たちから必死に逃げながら、あの日、魔の森に置き去りにしたベル・ガンドールも、こうやって魔物から逃げ続けたのかもしれないと思う。
 明るい昼間でさえ、魔物に追われるのは、こんなにも恐ろしいのだ。
 暗い森の中で逃げるは、さぞかし恐ろしかっただろう。

「うわっ!」

 瓦礫に足を取られ、トマスは転倒した。
 すぐに身を起こそうとしたが、足をくじいてしまったらしく、彼は起き上がる事ができなかった。
 

 どうしてこんな事になってしまったのだろう、とトマスは改めて考える。
 そして、自分はどうすれば良かったのだろうかとも。

 ベル・ガンドールとの結婚の話が出た時、他に好きな相手が居たとしても、それを諦めて彼女と一緒になり、家庭を築けば良かったのだろうか。
 だが、それはできなかっただろうと彼は思う。
 だからこそ、トマスは花嫁のすり替えを思いつき実行したのだから。

 それなら、最初にベル・ガンドールとの結構の話が出た時に、自分には好きな人が居るから結婚はできないと言うべきだったのかもしれない。
 そうすれば、ベル・ガンドールとの結婚の話は、次男であるアランのもとにいき、彼女に想いを寄せていたアランは、ベル・ガンドールと幸せになっただろう。
 そして彼女の力でこの国は末永く守られ、繁栄していったに違いないのだ。

 アランには申し訳ない事をしてしまった。
 もちろん、両親にも、長兄にあるウォルトにも。
 そして、ベル・ガンドールにも申し訳ない事をしてしまった。
 悪いのは、全て自分――このトマス・コールドだ。

 もしもあの時、こうしておけば――今さら考えても仕方がないのはわかっているが、考えずにはいられなかった。
 もしも時間を巻き戻す事ができるなら、一年前に戻りたかった。

 だが、現実は残酷だ。
 今トマスの目の前で、魔物たちがよだれを垂らしながら、大口を開けている。
 もう駄目だ。
 全てを諦めたトマスは、自分が関わった全ての人々に向けて、呟いた。

「みんな、本当に、ごめんなさい」

 それが、トマスが最期に発した言葉だった――。

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