コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす

明衣令央

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最終章:国の終わり、そして始まり

70・改心したと言っても……

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 オウンドーラ王がトマスに貸してくれた馬は、気性が穏やかな馬で、乗馬経験が少ないトマスでも乗る事ができた。

「これなら僕でも大丈夫だ!」

 そう確信したトマスは、王宮を出て、一気に王都オフレンドを駆け抜けようとする。
 王都内の被害は、先程よりも広がっていた。
 建物内から外に引きずり出された国民たちは、魔物たちに襲われ、何人も殺されており、いくつもの亡骸が転がっていた。

 あぁ、こんなにも人が死んでしまっている……これが全部、僕のせいなんだ……。

 トマスは現実を目の当たりにしてショックを受けたが、立ち止まるわけにはいかなかった。
 自分はこれから王都を出て、森を抜け、ギルベルト・ガンドールに謝罪をしに行かなければならないのだ。

 自らの罪を全て認め、地に頭を擦りつけて、彼らに心からの謝罪を。

 それができれば、彼らはきっとこの王都を救いに来てくれると……トマスはそう信じていた。

 だけど、それは彼の叶わぬ夢だった。

「うわぁっ!」

 突然目の前に人が飛び出してきて、トマスは慌てて馬を止めた。
 もう少しで踏み潰してしまうところだったが、そうならずに済み、トマスはほっと息をつく。

「あ、危ないだろうっ! 気を付けてくれ!」

 目の前に飛び出してきたのは、二十代後半くらいの若い男で、彼のすぐそばには、妻であろう女性が幼い子供を抱えていた。
 男は馬上のトマスを見上げると、

「こんな時に、気を付けてなんかいられるはずないだろう!」

 と叫ぶ。
 確かにそうかもしれないが、やはり突然目の前に飛び出してくる方が悪いと思う。
 しかも、こちらは急いでいるのだ。

「じゃあ、ごめんね。僕は急ぐから」

 トマスはそう言って立ち去ろうとしたが、

「待て! どこに行くんだ!」

 と、男はトマスの前に立ちふさがった。

「この国を出て、ギルベルト・ガンドールに助けを求めに行くんだよ! 急いでるんだ! どいてくれ!」

「ギルベルト・ガンドールに?」

「あぁ、そうだ! 急いでいるんだ! これは、オウンドーラ王から頼まれた事なんだ!」

 オウンドーラ王の名前を出せば言う事を聞いてくれるかと思ったのだが、男はトマスの前に立ちふさがったままだった。

「ギルベルト・ガンドールが、助けに来てくれるはずがないだろう!」

「ど、どうしてだよ! みんな困っているし、一生懸命謝れば、来てくれるかもしれないじゃないか!」

「お前、トマス・コールドだろう! ギルベルト・ガンドールを怒らせた張本人が頼みに行って、助けてくれるはずがないだろう! 余計に怒らせるだけだ!」

「そ、そんな事ない! 僕は反省しているんだ! 改心したんだ! 今度こそ、僕がちゃんと、心から謝ればっ!」

「嘘をつくんじゃない! お前は嘘つきだ! 俺は騙されないぞ! それに、お前が許されるはずがないだろう! お前はオウンドーラ王を騙して馬を手に入れて、ここから一人だけ逃げようとしているだけだろう!」

「そ、そんな事ないっ! 僕は本当にっ……うわっ!」

 僕は本当に心から反省しているんだ、改心したんだ!
 トマスはもう一度そう言おうとしたのだが、最後まで言い切る事ができなかった。
 飛びかかってきた男に手綱を奪われ、馬から引きずり落されてしまったからだ。
 そして男は馬に跨り、妻と子供を馬に引き上げると、トマスを置いて走り出す。

「ま、待って! 僕は行かなきゃいけないんだ! この国のために、ギルベルト・ガンドールの元に!」

 トマスは必死に叫んだが、男はトマスを無視して走り去ってしまった。

「ど、どうしよう……」

 馬を失い、途方に暮れるトマスは、周りを見回して息を呑む。
 いつの間にか彼は、魔物たちに囲まれていた。
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