僕の二度目の恋と彼女の初恋は、卒業式まで実らない

明衣令央

文字の大きさ
33 / 43
第3章:サマーナイトドリーム

10・花火

しおりを挟む


「おい、そろそろ時間じゃねぇか?」

 そう言ったのは、誰だったか。
 その数秒後、花火が打ち上げられる。

「わぁっ……すごいっ……」

 夜空に広がった色とりどりの花火を見て、灯里は感動して声を上げた。
 毎年見に来ていたものだけれど、今は雑居ビルの屋上から見ている分、花火が近くに見えるような気がする。
 それに、今年はそばに尊が居た。
 彼がこの素敵な場所に、灯里を連れてきてくれた。
 それが何よりも嬉しかった。

「じゃあ、花火も始まったし、みんなでもう一度乾杯して、花火を見ながら美味しいものを食べよう」

 保がそう声をかけて、

「そうそう、食べよう! みんな早く飲み物持って!」

 雅が頷き、みんなを急かす。

「ほい、古城、またアップルでいいか?」

「は、はいっ」

 いつの間にか灯里の隣に尊が居た。
 紙コップにアップルジュースを注いでくれる。

「あ、あの、先生は……」

「じゃあ、俺はオレンジ注いでくれよ」

「え?」

 他の大人たちは、正義という男性を除いてみんなアルコールを手にしているようだ。

「あの、先生はいいんですか? 飲まないの?」

「あぁ、今日はいいんだ。だから、早くオレンジジュースを注いでくれよ。急がねぇと、雅に怒られちまうぞ」

「は、はいっ」

 早く、と皆を急かせる雅の声が聞こえて、灯里は慌ててオレンジジュースのボトルを手にすると、尊の持つ紙コップに注いだ。

「みんなー! ドリンク持った? じゃあいくよ、乾杯!」

 雅が叫ぶように言う。
 いつの間にか仕切りだした雅を見ながら、灯里はすごいなぁと思っていたのだが、尊は、

「なんでアイツが仕切ってんだよ!」

 とゲラゲラと笑っていた。

「なぁ、古城。雅さ、すげぇ兄貴の保に似てるだろ? 俺、なんかもう気になって気になって、学校でもつい雅を見ちまうんだ。だってよ、外見はすげぇ似てるのに、正確は真逆だからまたおかしくってさ」

「え?」

 灯里が驚くと、

「どうかしたか?」

 と尊が首を傾げる。

「あ、あの……」

「ん?」

「せ、先生が雅ちゃんを良く見ていたのは……」

 雅ちゃんを好きだからじゃないんですか?
 その言葉は飲み込み、灯里は尊を見つめる。
 尊は、あぁ、と頷くと、

「さっきも言っただろ? 雅、兄貴の保に似てるからおかしくってよ、ついつい見ちまうんだよ」

 悪戯っぽく、白い歯を見せて笑う。
 灯里はホッとした。
 どうやら、尊が雅を好きだと思うと言った雅の言葉は、間違っていたらしい。
 尊は雅が兄である保に似ているから見ていただけだったのだ。

「そっかぁ……そうだったんだ……」

 良かった、と呟くように言うと、尊は首を傾げた。

「どうかしたか?」

 と問われたが、灯里は何でもないと首を横に振った。
 自分は失恋したわけではなかったのだ――それが嬉しくてたまらなかった。

「灯里……」

「え?」

 名前を呼ばれ、灯里は驚いた。
 このビルに着いたところで、あの最高に幸せな時間は終わっていたと思っていたのに。
 尊は他の仲間たちがそれぞれ花火や食事に夢中になっているのを確認し、

「また、今だけ、な」

 と悪戯っぽく笑う。
 灯里は頷き、

「私も、いいですか?」

 と彼に問うた。
 尊は、あぁ、と頷いて――灯里は彼の名を口にした。

「あ、あの……尊、さん……」

 早鐘を打つ胸を押さえながら尊の顔を見つめると、

「なんだ?」

 と尊は優しく笑い首を傾げた。

「あの……すごく、花火……綺麗ですね……」

「あぁ、そうだな」

 灯里は尊と並んで夜空を彩る花火を見つめた。
 今日の事は、何があっても忘れる事はないだろうと思う。
 今日尊と出会った事は自分の一生の思い出だ。
 そんな事を思いながら、灯里は花火を見つめ、そして隣に立つ尊を間近でこっそりと見つめ、時々目が合うと彼が笑ってくれるのが、とても嬉しくて幸せだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

煤かぶり姫は光の貴公子の溺愛が罰ゲームだと知っている。

朝霧心惺
恋愛
「ベルティア・ローレル。僕の恋人になってくれないかい?」  煌めく猫っ毛の金髪に太陽の瞳、光の貴公子の名を欲しいがままにするエドワード・ルードバーグ公爵令息の告白。  普通の令嬢ならば、嬉しさのあまり失神してしまうかもしれない状況に、告白された令嬢、ベルティア・ローレルは無表情のままぴくりとも頬を動かさない。  何故なら———、 (罰ゲームで告白なんて、最低の極みね)  黄金の髪こそが美しいという貴族の価値観の中で、煤を被ったような漆黒の髪を持つベルティアには、『煤かぶり姫』という蔑称がある。  そして、それは罰ゲーム結果の恋人に選ばれるほどに、貴族にとっては酷い見た目であるらしい。  3年間にも及ぶ学園生活も終盤に迫ったこの日告白されたベルティア、実家は伯爵家といえども辺境であり、長年の凶作続きにより没落寸前。  もちろん、実家は公爵家に反抗できるほどの力など持ち合わせていない。  目立つ事が大嫌いでありながらも渋々受け入れた恋人生活、けれど、彼の罰ゲームはただ付き合うだけでは終わらず、加速していく溺愛、溺愛、溺愛………!!  甘すぎる苦しみが、ベルティアを苦しめる。 「どうして僕の愛を疑うんだっ!!」 (疑うも何も、そもそもこの恋人ごっこはあなたへの罰ゲームでしょ!?)

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

処理中です...