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第3章:サマーナイトドリーム
10・花火
しおりを挟む「おい、そろそろ時間じゃねぇか?」
そう言ったのは、誰だったか。
その数秒後、花火が打ち上げられる。
「わぁっ……すごいっ……」
夜空に広がった色とりどりの花火を見て、灯里は感動して声を上げた。
毎年見に来ていたものだけれど、今は雑居ビルの屋上から見ている分、花火が近くに見えるような気がする。
それに、今年はそばに尊が居た。
彼がこの素敵な場所に、灯里を連れてきてくれた。
それが何よりも嬉しかった。
「じゃあ、花火も始まったし、みんなでもう一度乾杯して、花火を見ながら美味しいものを食べよう」
保がそう声をかけて、
「そうそう、食べよう! みんな早く飲み物持って!」
雅が頷き、みんなを急かす。
「ほい、古城、またアップルでいいか?」
「は、はいっ」
いつの間にか灯里の隣に尊が居た。
紙コップにアップルジュースを注いでくれる。
「あ、あの、先生は……」
「じゃあ、俺はオレンジ注いでくれよ」
「え?」
他の大人たちは、正義という男性を除いてみんなアルコールを手にしているようだ。
「あの、先生はいいんですか? 飲まないの?」
「あぁ、今日はいいんだ。だから、早くオレンジジュースを注いでくれよ。急がねぇと、雅に怒られちまうぞ」
「は、はいっ」
早く、と皆を急かせる雅の声が聞こえて、灯里は慌ててオレンジジュースのボトルを手にすると、尊の持つ紙コップに注いだ。
「みんなー! ドリンク持った? じゃあいくよ、乾杯!」
雅が叫ぶように言う。
いつの間にか仕切りだした雅を見ながら、灯里はすごいなぁと思っていたのだが、尊は、
「なんでアイツが仕切ってんだよ!」
とゲラゲラと笑っていた。
「なぁ、古城。雅さ、すげぇ兄貴の保に似てるだろ? 俺、なんかもう気になって気になって、学校でもつい雅を見ちまうんだ。だってよ、外見はすげぇ似てるのに、正確は真逆だからまたおかしくってさ」
「え?」
灯里が驚くと、
「どうかしたか?」
と尊が首を傾げる。
「あ、あの……」
「ん?」
「せ、先生が雅ちゃんを良く見ていたのは……」
雅ちゃんを好きだからじゃないんですか?
その言葉は飲み込み、灯里は尊を見つめる。
尊は、あぁ、と頷くと、
「さっきも言っただろ? 雅、兄貴の保に似てるからおかしくってよ、ついつい見ちまうんだよ」
悪戯っぽく、白い歯を見せて笑う。
灯里はホッとした。
どうやら、尊が雅を好きだと思うと言った雅の言葉は、間違っていたらしい。
尊は雅が兄である保に似ているから見ていただけだったのだ。
「そっかぁ……そうだったんだ……」
良かった、と呟くように言うと、尊は首を傾げた。
「どうかしたか?」
と問われたが、灯里は何でもないと首を横に振った。
自分は失恋したわけではなかったのだ――それが嬉しくてたまらなかった。
「灯里……」
「え?」
名前を呼ばれ、灯里は驚いた。
このビルに着いたところで、あの最高に幸せな時間は終わっていたと思っていたのに。
尊は他の仲間たちがそれぞれ花火や食事に夢中になっているのを確認し、
「また、今だけ、な」
と悪戯っぽく笑う。
灯里は頷き、
「私も、いいですか?」
と彼に問うた。
尊は、あぁ、と頷いて――灯里は彼の名を口にした。
「あ、あの……尊、さん……」
早鐘を打つ胸を押さえながら尊の顔を見つめると、
「なんだ?」
と尊は優しく笑い首を傾げた。
「あの……すごく、花火……綺麗ですね……」
「あぁ、そうだな」
灯里は尊と並んで夜空を彩る花火を見つめた。
今日の事は、何があっても忘れる事はないだろうと思う。
今日尊と出会った事は自分の一生の思い出だ。
そんな事を思いながら、灯里は花火を見つめ、そして隣に立つ尊を間近でこっそりと見つめ、時々目が合うと彼が笑ってくれるのが、とても嬉しくて幸せだった。
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