僕の二度目の恋と彼女の初恋は、卒業式まで実らない

明衣令央

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第3章:サマーナイトドリーム

11・夢の終わり

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「古城、送ってくよ」

 花火大会が終わり、尊が灯里を送ってくれると言った。
 聡はまだ仕事で、灯里を迎えに来る事が出来ないらしい。
 尊は自分を家まで送るためにアルコール類を口にしていないようだった。
 それを申し訳ないと思いながらも、灯里はまた尊と二人きりになれるのが嬉しかった。

「じゃあ行くか」

「はい。あ、あの……」

 尊の友人たちに挨拶をしようとした時だった。

「新堂、ちょっと待って! 灯里、ちょっといい? 話があるの!」

 雅に呼ばれた灯里は、彼女に引っ張られるようにして屋上の隅に連れて行かれた。

「雅ちゃん、どうしたの?」

 灯里が問いかけると雅は彼女にしては珍しくため息をつき、なかなか話しだそうとしない。
 先程まで楽しそうだったというのに、どうしたのだろうと思う。

「雅ちゃん……」

「灯里、あのね……」

「うん」

「アタシ、間違ってたみたいで……」

「え?」

「アタシ、新堂がアタシの事を好きって思ってたんだけど、それ、間違ってたみたいで……」

「そうだったの?」

 雅は尊が自分をよく見ているのを、尊が雅の事を好きなのだと思い込んでいたのだ。
 彼女があまりにも自信たっぷりに言うものだから、灯里もそれを信じてしまっていた。
 だが、尊が雅を見て居たのは、雅が兄である保によく似ていたからだという事を、灯里は先程尊から聞いていた。

「さっき、兄ちゃんが教えてくれたんだけど」

「うん」

「新堂ってさ、実は……」

「え?」

 灯里は雅が小声で言った事を聞いて驚いた。
 それがどういう事なのか、すぐに理解出来ずに固まってしまう。

「こら、雅! 古城と話すのはまた今度にしろよ! そろそろ送ってかねぇと、遅くなっちまうだろ!」

 尊の怒鳴り声が聞こえて、灯里は我に返った。
 隣に居た雅が、うるさいな、と舌打ちした音が聞こえる。

「じゃあね、灯里。また夏休み明けにいろいろと話してあげるわ」

「え? う、うん……」

 何の話をしてくれるのだろう?
 先程聞いた話の続きなら聞きたくない。
 そんな事を思いながら、尊は雅や今日一緒に花火を見た尊の友人たちに丁寧に礼を言い、尊と共に雑居ビルを後にした。

「古城、楽しかったか?」

 尊にそう問われ、灯里は、はい、と頷いた。
 本当に楽しかった。
 家を出てから尊に助けてもらうまでは、寂しかったり怖かったりしたけれど、今日はとても楽しくて幸せだったのだ。
 先程までは。
 今は先程までとは違い、少し辛い。
 少し寂しくて、切ない。

『灯里、新堂ってさ……ずっと奈央ちゃんの事が好きだったんだって……』

 先程、灯里は雅から尊の好きな人の事を聞いてしまった。
 時村奈央は美人で優しい素敵な女性だ。
 明るくてさわやかな尊とは、美男美女でお似合いだ。
 これって、失恋なんだろうなぁ、と灯里は思う。
 相手が奈央なら、絶対に敵いっこない。
 泣き出しそうになるのを灯里は必死に堪えた。
 だけど大好きな尊と二人、家までの夜道を歩くのはやはり嬉しくもあって、俯くのではなく、良い思い出にしなければと思う。

「私、ね……」

 あなたが好きです。
 この言葉を飲み込んで、灯里は別の話題を口にした。
 尊への気持ちは、ずっと胸に秘めたまま、彼にとって良い生徒でいようと思う。

「私、聡兄さんにお付き合いしている方が居たなんて、全く知りませんでした」

 灯里がそう言うと、尊は苦笑した。

「そうだな。聡、いつも灯里を優先させていたからなぁ」

「やっぱり、そうだったんだ……」

 灯里は、ふう、とため息をついた。
 自分は聡に迷惑ばかりかけているのだと思う。

「でもよ、聡は灯里が可愛いくて仕方がねぇんだって思う……。典子はさ、さっぱりしたヤツだから、本人も言ってたけど、聡やお前に怒ってなんかいねぇし、気にしなくてもいいと思うぜ」

 確かに典子はそう言ってくれていた。
 それを思い出した灯里は、はい、と頷いたが、聡には説教をしなければと思う。
 もう自分は大きくなったから大丈夫だと言って、大好きな人と結ばれてくださいと言わなければと思う。
 自分は失恋してしまったけれど、絶対に聡には幸せになってほしいから。

「灯里……」

「え?」

 隣を歩いていた尊が足を止め、灯里も足を止めた。
 彼は少し困ったような表情をして灯里を見つめていた。

「どうした?」

「え?」

「ちょっと泣いてる……」

 尊の手が伸びてきて、灯里の目元を擦った。
 泣いている、というのは本当だったらしい。
 灯里から離れた尊の指先は濡れていた。

「あ、あの、これはっ……」

 涙を堪えていたはずなのに、灯里は自分がいつの間にか泣いていた事に驚いた。
 だが、失恋してしまった事で切なくなって泣いてしまっていたのだが、尊は聡と典子の事で灯里が責任を感じてしまったと思ったらしい。

「おいおい、気にするんじゃねぇよ。典子、いいヤツだからよ。今日、お前に会えてすげぇ嬉しかったはずだぜ?」

「は、はい、私も、典子さんにお会いできて嬉しかったですっ」

 そう答えると、尊は優しく笑って頭を撫でてくれた。
 彼の優しい笑顔を見つめながら、灯里は思う。
 尊は本当に優しくて素敵な人だ、とも。
 彼は自分の王子様で、憧れの人で、恩人で、そして恩師で、今の自分を作った人だ。
 好きな人と結ばれて幸せになってほしい。
 そう思うと、感極まって涙が溢れてしまい、灯里は顔を覆って俯いた。
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