僕の二度目の恋と彼女の初恋は、卒業式まで実らない

明衣令央

文字の大きさ
35 / 43
第3章:サマーナイトドリーム

12・聡との話

しおりを挟む


「灯里? 灯里、どうした?」

 尊が心配している。
 笑わなければいけない。
 だけど、灯里は涙を止める事が出来なかった。
 今日は嬉しくて楽しくて幸せで、切ない日だ。
 この素敵な日を笑顔で終えたいというのに、どうして上手くいかないのだろうと思う。

「灯里様っ!」

「え?」

「聡?」

 突然聞こえた聡の声に驚き、灯里は顔を上げた。

「灯里様! 灯里様、どうされたのですかっ」

「聡兄さん!」

「聡!」

 聡は灯里と尊の元へと駆け寄って来ると、尊を睨みつけた。

「尊! お前、灯里様に何をした!」

 と聡が尊に腕を伸ばそうとするのを、灯里は慌てて止める。

「あ、あのっ! 何でもないの! 何でもないんです、聡兄さんっ!」

 灯里は聡にしがみついた。
 聡は灯里に止められ、尊の胸ぐらを掴み上げようと伸ばした手を引くが、納得出来ないといった表情で灯里を振り返る。

「では、どうして灯里様はお泣きになっているのですか」

「そ、それはっ……」

 真っ直ぐに自分を見つめる聡から、灯里は一瞬視線をそらした。
 視線をそらした先には尊が居た。
 尊は少し困ったような表情で灯里を見つめている。

「目に、目にゴミが入ってしまっただけですっ」

 灯里がそう答えると、聡は怪しんだようだが、尊が助け舟を出してくれた。

「灯里がそう言ってんだから、そうなんじゃねぇの?」

「ほ、本当にそうですからっ……」

 尊は聡と典子の事で灯里が責任を感じていると思っているから、助けてくれたのだ。
 本当は尊への気持ちが溢れそうで泣いてしまったのだが、それを尊に気付かれるわけにはいかない灯里は助かったと思う。

「そうですか……灯里様が大丈夫ならそれでいいのですが……」

 聡はまだ納得していないようだったが、引き下がってくれた。

「聡、仕事は終わったんだな」

「あぁ、なんとかな」

 聡は会議が終わると同時に会社を飛び出してきて、そして家の近くで尊と灯里を見つけたらしかった。
 聡は灯里を見つめると、

「灯里様、帰りましょうか」

 と言う。
 聡は灯里にとって家族だ。
 家族である彼が帰って来たからには、灯里は聡と共に家に帰ればいいのだ。
 つまり、灯里を送ってきてくれた尊とは、ここでお別れという事になる。

「先生、今日は一日、ありがとうございました」

 灯里がそう言うと、あぁ、と尊は明るく笑った。

「本当にすまなかったな、尊。だが、助かった。本当にありがとう」

「気にすんなよ。古城は俺の可愛い生徒だからな」

 生徒、だから。
 可愛い、よく出来た、彼にとっての良い生徒でいたいと思った。
 彼は教師で、自分は生徒で。
 きっと自分はそれ以上にはなれないのだ。
 それなら、彼にとって良い生徒でいたいと灯里は思った。

「尊、戻るのか?」

 聡がそう聞くと、尊は少し考えて頷いた。
 尊はどうやらあの雑居ビルの屋上へ戻るらしかった。
 彼は自分を送るためにお酒も飲んでいなかったのだ。
 戻って飲み直すのかもしれない。
 それに、あのビルにはきっとまだ奈央も居るはずだ。
 尊は奈央に会いに戻るのかもしれない。

「先生、本当にありがとうございました」

 もう一度礼を言うと、尊は笑って手を振り背中を向けた。
 尊の姿が見えなくなるまでその場で見送っていると、それを待ってくれていたのだろう、遠慮がちに聡が声をかけてきた。

「灯里様、帰りましょうか」

「はい」

 灯里は頷き、聡と共に家に向って歩き出した。

「灯里様、今日は楽しかったですか?」

「はい、とても」

 灯里は頷き、今日出会った尊の友人――聡の友人の事について口にした。

「聡兄さん……典子さんの事……どうして紹介してくれなかったんですか?」

 単刀直入に問いかけると、聡は苦笑した。
 隠していたわけではないのだ、と彼は言う。

「聡兄さん……」

「はい……」

「典子さんを紹介してくれなかったのは、私のせいなんですよね」

 ごめんなさい、と謝った灯里を、聡は困ったような表情で見つめた。
 確か、尊は聡や典子を高校時代の先輩だと言っていた。
 という事は、聡は高校時代から典子と一緒に居た事になる。
 彼は仲間たちと楽しい高校時代を過ごしていたはずなのだ。
 だけど、多分それは途中で終わってしまったのではないだろうかと思う。
 何故ならちょうどその頃――聡が高校生の頃、灯里が古城本家を追い出されて、聡と和利の家に引き取られてきからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

煤かぶり姫は光の貴公子の溺愛が罰ゲームだと知っている。

朝霧心惺
恋愛
「ベルティア・ローレル。僕の恋人になってくれないかい?」  煌めく猫っ毛の金髪に太陽の瞳、光の貴公子の名を欲しいがままにするエドワード・ルードバーグ公爵令息の告白。  普通の令嬢ならば、嬉しさのあまり失神してしまうかもしれない状況に、告白された令嬢、ベルティア・ローレルは無表情のままぴくりとも頬を動かさない。  何故なら———、 (罰ゲームで告白なんて、最低の極みね)  黄金の髪こそが美しいという貴族の価値観の中で、煤を被ったような漆黒の髪を持つベルティアには、『煤かぶり姫』という蔑称がある。  そして、それは罰ゲーム結果の恋人に選ばれるほどに、貴族にとっては酷い見た目であるらしい。  3年間にも及ぶ学園生活も終盤に迫ったこの日告白されたベルティア、実家は伯爵家といえども辺境であり、長年の凶作続きにより没落寸前。  もちろん、実家は公爵家に反抗できるほどの力など持ち合わせていない。  目立つ事が大嫌いでありながらも渋々受け入れた恋人生活、けれど、彼の罰ゲームはただ付き合うだけでは終わらず、加速していく溺愛、溺愛、溺愛………!!  甘すぎる苦しみが、ベルティアを苦しめる。 「どうして僕の愛を疑うんだっ!!」 (疑うも何も、そもそもこの恋人ごっこはあなたへの罰ゲームでしょ!?)

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...