異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央

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第1章・異世界転移と異世界転生

お別れの前に②

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 森の中をぼけっと歩いていると、

「オリエさんっ!」

 と、モネちゃんの悲鳴みたいな声が聞こえた。
 声の方へと顔を向けると、左頬を腫れ上がらせたモネちゃんが、よろめきながらも必死な表情でこちらへと走ってきた。

「モネちゃんっ! どうしたのっ!」

 私はモネちゃんに駆け寄って、腫れ上がった左頬へと手を伸ばした。
 この頬、どう見ても殴られた跡だ。
 一体誰が、こんな可愛い女の子に手を上げたんだー!

「モネちゃん、とりあえず、治そう!」

 モネちゃんの左頬を治そうとヒールをかけようとしたんだけど、

「そんなのいいから! 逃げて!」

 と首を横に振り、モネちゃんは叫んだ。

「に、逃げろって、どういう事?」

「いいから、早く! ジャンが時間を稼いでいるうちに、家に戻って! ユーリ様の元に行って、どこかに隠れて!」

「え?」

「早くっ!」

 泣きながら叫ぶモネちゃんを見て、何か良くない事が起こっている気がした。
 モネちゃんは逃げてと言ったけれど、このまま逃げてはいけない気がする。
 ジャンくんが足止めしてるって言ったけど、彼は一体誰を足止めしているの?
 私が逃げてしまったら、ジャンくんやモネちゃんはどうなっちゃうの?

「モネ! 何やってるんだ!」

「ジャン!」

 ジャンくんの声が聞こえて、モネちゃんが声の方――ジャンくんの方へと走っていく。
 私も声の方へと向かうと、傷だらけでボロボロになったジャンくんが倒れていた。

「オリエさんっ! モネに逃げろって言われなかったのかよっ!」

 私に気づくなり、ジャンくんは怒鳴るように言った。

「何言ってるの! 今は、そんな場合じゃないでしょ!」

「そんな場合なんだよ、くそっ!」

 ジャンくんは、腕や背中を激しく斬りつけられていた。
 もしかして強い魔物でも近くに居るのかと思ったけど、彼の傷は刃物で斬りつけられた傷に似ている。
 一体誰が、ジャンくんやモネちゃんにこんなひどい事をしたのだろう。

「モネ! お前、何やってんだ! オリエさんを逃がせって言っただろ!」

 ジャンくんは、泣いているモネちゃんを、また怒鳴りつけた。
 怒鳴られたモネちゃんは、体をびくりを大きく震わせて、またぼろぼろと涙を零し続ける。
 私が逃げていないからモネちゃんが怒られたようだけど、それはモネちゃんのせいじゃない。
 逃げろと言われても逃げなかったのは、私の意志だ。

「こら、彼女を怒らないの!」

 ジャンくんとモネちゃんは、実は恋人同士だ。
 若い二人が仲良くしているところ、とても可愛いんだよね。
 モネちゃんはジャンくんの怪我を見て泣いているし、早く泣き止んで笑ってもらうには、ジャンくんの傷を治すのが一番だろう。
 私はジャンくんの体に手を伸ばし、ヒールを唱えた。
 少しずつジャンくんの傷が癒え、モネちゃんがほっと息をつく。

「モネちゃんも、治そうね」

 殴られたモネちゃんの左頬に手をそえて、ヒールを唱える。
 回復呪文は、モネちゃんの可愛い顔を元通りにしてくれた。

「オリエさんっ……」

「え? 何故っ!」

 殴られた頬を治したというのに、モネちゃんは泣き続けた。

「くそっ!」

 と、ジャンくんは地面を殴りつける。
 一体どうしたのかと首を傾げると、

「本当に、ヒールが使えたのだな」

 という誰かの声が聞こえた。
 私はこの声を、以前聞いた事があった。

「なんで……」

 声の主は、褐色の肌に黒い髪、赤い瞳の体格の良い男――ジュニアス王子だった。
 その後ろに、赤茶の髪に薄い水色の瞳の男――聖女召喚の儀の術者だった、ノートンも居る。

「なんで、ここに……」

 そう問うた私の声は、震えていた。
 それに答えたのはノートンで、

「それは、あなたが何者なのか、確かめるためですよ」

 と言い、ニィ、と唇の端を釣り上げて、笑った。

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