上 下
84 / 277
第1章・異世界転移と異世界転生

素敵な呪文②

しおりを挟む

「ねぇ、オリエちゃん、思い詰めないでね」

 腕に抱いていたサーチートが精一杯体を伸ばし、小さな手でぺちぺちと私の頬に触れた。

「あのね、オリエちゃん。ぼくは、アルバトス先生から、いろんな事を教えてもらったんだけど、その中で、素敵な呪文を教えてもらったって言っていたの、覚えてる?」

「そう言えば、そんな事を言ってたね」

 攻撃魔法と回復魔法の説明をしてくれた時に、どんな呪文なのかまでは教えてくれなかったけれど、確か素敵な呪文を教えてもらったって、言っていたような気がする。

「あのね、オリエちゃん。それが、これからオリエちゃんが使う事になる、箱庭(ミニチュア・ガーデン)の呪文なんだよ。この呪文はね、さっきアルバトス先生が言ったみたいに、強力な防御結界でこの村を囲うものなんだけどね、ぼくはこの呪文の事を聞いた時、すごく素敵な呪文だって思ったんだ」

「どうして?」

「だって、この呪文が成功したら、箱庭の防御結界の中で、みんなで平和に、楽しく暮らす事ができるんだよ。それって、ものすごく幸せな事だなぁって、ぼくは思ったんだよ」

 そう言って、サーチートは嬉しそうに笑った。

「ぼくはね、みんなでずっと、平和に楽しく、幸せに暮らせたらいいなぁって思うんだ。ぼくと、オリエちゃんと、ユーリちゃんと、アルバトス先生と一緒に。みんなであのおうちで、ずっと一緒に暮らしていくんだよ。それは、なんて幸せな事だろう。だからね、オリエちゃん。みんなが平和に楽しく、幸せに暮らすために、箱庭の呪文を唱えたらいいんじゃないかなぁ」

「サーチート……」

 やる事は同じだけど、気持ちの問題なのかもしれない。
 サーチートの言葉を聞いて、私は肩の力が抜けたような気がした。

「そうだね。私もみんなと、あのおうちで、この村で、平和に楽しく、幸せに暮らしたいよ。だから……やってみるね」

「うん、オリエちゃんなら絶対にできるよ! それに、ぼくだって居るしね!」

 サーチートはそう言うと、私の手の中でころんと仰向けにひっくり返り、お腹にスマホを出してくれた。
 そう、私にはサーチートが居てくれる。
 私が知らない事、わからない事は、サーチートが教えてくれるんだ。
 サーチートはそのために、アルバトスさんの元でたくさん勉強をしてくれているんだ。

「アルバトスさん、箱庭の呪文の事、教えてください! 私、やります!」

 私がそう言うと、アルバトスさんは少し泣きそうな表情で笑って、ありがとう、と言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

魔拳のデイドリーマー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,100pt お気に入り:8,522

ヒヨクレンリ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:884

悪役令嬢の慟哭

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:188

婚約破棄であなたの人生狂わせますわ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,341pt お気に入り:49

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,100pt お気に入り:852

ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,171pt お気に入り:1,145

処理中です...