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第4章:ゴブリン・スタンピード
魔族の宣言
しおりを挟む黒い燕尾服に、シルクハット。そして赤い石がついたステッキを持った、まるでマジシャンのような男。
一瞬余興でも始まったのかと思ったけれど、すぐにこの男の異様さにみんな気がついた。
この男の肌は青く、耳はピンととがり、そしてシルクハットからは捻じ曲がった二本の角が生えていたのだ。
『お前は、何だ?』
突然現れた異形の男にそう声をかけたのは、ジュニアスだった。
ジュニアスもとても驚いているみたいで、彼は目を見開き、声は少し震えていた。
『私は、このたびルリアルーク王と名乗られたジュニアス様にご挨拶に参りました、魔族のホーンハットという者でございます』
異形の男――魔族のホーンハットは、胸に手を当てジュニアスに丁寧にお辞儀をした。
それはジュニアスを前に敬意を払っているようにも見えるけど、私には嫌な感じとしか思えなかった。
これから何か大変なことが起こるような気がする。
突然現れた魔族を前に、空に浮かぶ映像からも、窓の外からも、悲鳴が聞こえた。
『ジュニアス様におかれましては、このたび、今世のルリアルーク王と宣言されたこと、お祝い申し上げます。ですが我ら魔族の者としては、御身がルリアルーク王と宣言されたジュニアス様にお尋ねしたいことがあって、このたび参上いたしました』
『聞きたいこととは、何だ?』
片手を上げて怯える民衆を静め、緊張した面持ちでジュニアスがホーンハットに聞いた。
今のジュニアス、平静を装おうとしているけど、焦ってる感じだよね?
ということは、あのホーンハットという魔族が今ジュニアスの前にいるのは、本当に予定外のことなの?
だとしたら、ホーンハットが何を聞いてくるのかはわからないけれど、答え方次第では取り返しのつかないことになってしまうんじゃないの?
『では、今世のルリアルーク王であるジュニアス様にお尋ね致します。ルリアルーク王にとって我ら魔族は、一体どんな存在なのでしょう?』
意外な質問だったのか、ジュニアスは一瞬目を見開き、言葉に詰まったようだった。
何と答えるべきなのか少し考えているのかもしれない。
ホーンハットが望む答えは、一体どんな答えなのだろう。
だけどその時、民衆から声が上がる。
『ジュニアス様、魔族なんてやっつけてくれ!』
『ジュニアス様! ルリアルーク王! 魔族から私たちを守って! 私たちを、世界を平和に導いて!』
一旦は落ち着いても、民衆は魔族を恐れ、嫌悪したのだろう。
早くその魔族を退けてほしいと、民衆はジュニアスに助けを求めた。
その声に、今世のルリアルーク王と名乗ったジュニアスは、『もちろんだ』と頷いた。
『魔族は人間の敵であり、滅ぼさなくてはならない者たちだ。だが、そこで膝をつき、床に頭を擦り付ければ、俺たちは貴様らを許そう。どうだ、降伏するか?』
そう言ったジュニアスに、民衆が沸く。
『では、今世のルリアルーク王は、我ら魔族を敵とみなすわけですね?』
『あぁ、そうだ。我らにとって魔族は敵だ!』
『では、我ら魔族にとっても、今世のルリアルーク王と人間たちは、敵ということでよろしいですか?』
ニヤリ、とホーンハットが唇を釣り上げて笑う。
笑っているのに、目がギラギラと怪しく光っているのがとても不気味だ。
あぁヤバい、と私は思った。
そしてあのホーンハットという魔物は、自分が今世のルリアルーク王と宣言したジュニアスから、次の言葉を引き出したかったのかもしれない。
『あぁ、もちろん。我ら人間とお前たち魔族は、敵同士だ。俺は今世のルリアルーク王として、お前たちを滅ぼすことをここに誓おう』
大歓声の中で、ジュニアスは満足げに笑う。
だけど、そんなジュニアスよりもさらに声高らかに、満足そうに笑ったのは、ホーンハットの方だった。
『では、我々魔族も、同じ言葉をお返ししましょう! 我らはあなた方人間の敵で、あなた方を滅ぼすことに致しましょう!』
ホーンハットはステッキを高く掲げ、続ける。
『我らは人間を滅ぼす前に、まずは今世のルリアルーク王を殺しましょう! そして人間どもの絶望する顔を見ながら、人間狩りを楽しむと致しましょう!』
ホーンハットがそう叫んだ次の瞬間、ホーンハットが持っていたステッキから赤い火の玉……ううん、多分ファイヤーボールが放たれて巨大化しながら空高く昇っていき、そして昇りきったところで、まるで花火みたいに大きく弾けた。
だけど花火と違うところは、弾けた巨大なファイヤーボールが、そのまま空から王都オブリールへと降り注いだことだ。
『さぁ、始めましょう! 楽しい楽しい、魔族と人間の殺し合いです! まずはゴブリン・スタンピード、そしてデスマーチをお楽しみください!』
楽しそうなホーンハットの声を最後に、映像は搔き消えた。
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