婚約破棄された公爵令嬢は、ただ冤罪を晴らしたいだけなのです

明衣令央

文字の大きさ
21 / 33

第21話:揺れる選択――交錯する想い



「ウイリアム殿下……申し訳ありませんが、少し時間をいただいてもよろしいですか?」

 思いがけないウイリアム殿下の告白を聞いて、わたくしはやっとのことで、そう口にした。
 胸の鼓動は高鳴っている。
 ウイリアム殿下の真剣な気持ちは、わたくしの胸に染み入った。
 けれど、わたくしはウイリアム殿下の気持ちにすぐに答えることができなかった。

 わたくしは、ウイリアム殿下よりも五歳も年上だ。
 ウイリアム殿下は、まだお若い。
 いずれ、ウイリアム殿下に相応しい方が現れるかもしれない。
 それに、家族にも相談しなければならない。

「もちろん、構いません。今日は、僕の気持ちをあなたに伝えられただけで、僕自身も胸がいっぱいになってしまいました」

 ウイリアム殿下はそう言うと、安心したように、照れたように笑った。
 告白をしてくれたウイリアム殿下も、きっと緊張していたのだろう。
 想いを告げた安心感と、それから照れくささからの笑み。
 可愛らしい、と思ってしまったのは、不敬に当たるだろうか。

「お、お待ちください! い、今はっ……」

「うるさい! どけ! エレノア!」

 焦る執事の声が聞こえた次の瞬間のことだった。
 乱暴にドアが開け放たれ、アレクシス殿下が入ってきた。
 そしてウイリアム殿下を見ると、アレクシス殿下はウイリアム殿下を睨みつけた。

「ウイリアム! お前、ここに来ていたのか!」

 アレクシス殿下はそう言うと、わたくしへと目を向ける。

「エレノア! 俺は今日、学園でお前に謝るつもりだったのだ! もう一度俺と未来を見てくれと言うつもりだったのだ! それなのにお前がいなくて……」

 どうやらアレクシス殿下は、わたくしが学園を休んだことに気づき、屋敷の方へと足を運んだらしい。

「エレノア、もしかして、ウイリアムに告白されたのか? もちろん、断ったんだよな? ウイリアムのことを、振ったんだよな?」

 アレクシス殿下は、どうしてウイリアム殿下の告白のことを知っているのだろう?
 わたくしは顔が熱くなるのを感じ、俯く。
 わたくしの代わりに答えたのは、ウイリアム殿下だった。

「兄上、僕はエレノア様から、時間がほしいというお返事をいただきました」

「何だと? 時間がほしい? エレノア、何故、結論を伸ばす必要がある? ウイリアムはお前よりも五つも年下の子供だぞ? そんな子供の言うことを、本気にしているのか?」

 強い口調でわたくしに詰め寄るアレクシス殿下。

「ウイリアムは……まだ子供だ。あいつの言葉に惑わされる必要はない。お前は、俺とやり直せばいいだけだろう?」

 わたくしは息を呑む。
 なんてひどいことを口にするのだろう。
 アレクシス殿下の言葉は、謝罪をしようと思っていたとは思えないほど傲慢だと感じた。

 わたくしはやはり、アレクシス殿下とはもう……共に歩むことはできない――。

「兄上……エレノア様を困らせるような言い方は、やめてください」

 アレクシス殿下とは対照的な静かな声で、ウイリアム殿下が言った。

「困らせる? 事実を言っているだけだ。エレノアは俺とやり直せば――」

「兄上の言う事実は、いつも兄上の都合だけです」

 ウイリアム殿下の静かな声には、確かな怒りが感じられた。

「エレノア様は……兄上の所有物ではありません。それに、エレノア様の気持ちを優先させると、父上はおっしゃっているのです。エレノア様がどんな答えを出そうが、僕は、エレノア様の答えを待ちたいと思います……」

 アレクシス殿下の表情がわずかに歪む。
 さすがに感情的になって、言い過ぎてしまったと、ご自身でも思われたのかもしれなかった。

「エレノア様……。僕は、やはり子どもに見えるのでしょうか」

 ウイリアム殿下はわたくしを見つめ、言った。
 その声は、少し震えているような気がした。
 そんなことはありません――そう口にすることもできた。
 けれど、そう口にすることがウイリアム殿下にとっての正解なのかどうかが、今のわたくしにはわからなかった。
 他の言葉も、上手く探し出すことができない。
 胸が苦しくて、声が出ない。

「いいのです……。確かに僕は、兄上の言うように五つも年下です。その事実は、変えようがないことなのですから」

 何か言わなければならなかった。
 何も言えなかったことが、ウイリアム殿下を傷つけてしまったかもしれない。
 だけど、謝罪の言葉を口にしかけたわたくしを遮るように、ウイリアム殿下は言った。

「エレノア様、今日はこれで帰ります。兄上が……お騒がせして、申し訳ありませんでした。どうか、ご自身の心を大切になさってください」

 ウイリアム殿下は、どこまでも優しく、真っ直ぐで、そして誠実だった。
 わたくしは二人を見送りながら、近いうちに二人に自分が出した答えを伝えなければならないと感じていた。



 その日の夕方、わたくしは家族に今日の出来事を話した。

 ウイリアム殿下の告白と、アレクシス殿下の暴言。
 そして、自分の揺れる気持ち――。

 家族はわたくしの話を、黙って聞いてくれた。

「……エレノア。お前は、どうしたいのだ?」

 父の問いに、わたくしはゆっくりと答えた。

「わたくしは……アレクシス殿下に寄り添うことは、もうできません……。そしてウイリアム殿下とのことは……どうしても年齢のことが、気になります」

「そうか……」

 わたくしの言葉を聞いて、みんな深い息をついた。

「年齢のことさえなければ、な」

「えぇ……それさえなければ……」

 家族のみんなは、年齢のことさえなければ、と繰り返した。



感想 1

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの
恋愛
きつい目つきと素直でない性格から『悪役令嬢』と噂される公爵令嬢マーブル。彼女は、王太子ジュリアンの婚約者であったが、王子の新たな恋人である男爵令嬢クララの策略により、夜会の場で大勢の貴族たちの前で婚約を破棄されてしまう。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。