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フライパンの冒険
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そのフライパンは、名のある金物屋のご主人の手によって作られました。
そのご主人が作るフライパンは、いつも良い出来のものばかりなのですが、今回新しく作られたフライパンは、いつもの三倍は良い出来のフライパンでした。
そのフライパンは、ご主人のしんせきのお嬢さんがお嫁に行くことになったので、嫁入り道具の一つとしてプレゼントされることになりました。
「これで旦那さんに、おいしい料理を作ってあげるんだよ」
そう言って、ご主人はフライパンをきれいな箱に入れて、可愛らしいリボンをつけて、お嬢さんにプレゼントしました。
お嬢さんは嬉しそうにプレゼントを受け取りましたが、中身がフライパンだと知ると、心の中でがっかりしました。
何故なら、お嬢さんは実はとても料理が苦手で、料理をしない人だったからです。
お嬢さんはいつも、おかずを近くのお店で買ってきて、自分が作ったかのように、きれいにお皿に盛りつけているのでした。
だからフライパンは、お嬢さんにプレゼントされたときの箱から、出してはもらえていたのですが、まったくお料理に使ってもらえていませんでした。
フライパンは哀しかったけれど、いつかお嬢さんが料理を作ってくれることを夢見て、じっとガマンをしていました。
だけどある日、こんなことがありました。
お嬢さんと旦那さんがケンカをしたのです。
ケンカの理由はフライパンにはわかりません。
だけど、お嬢さんはとても怒って、フライパンを持って旦那さんになぐりかかりました。
フライパンはケンカの道具ではありません。
そんなふうに使われるのはイヤだったので、フライパンはお嬢さんが手の力をゆるめたときに、外に飛び出していきました。
フライパンは、自分を正しく上手に使ってくれるご主人様を、自分で探しに行くことにしたのです。
フライパンが道を歩いていると、子供たちに出会いました。
「フライパンが歩いているぞ、おかしいぞ」
子供たちはそう言って、フライパンを追いかけました。
フライパンはがんばって逃げましたが、捕まってしまいました。
フライパンは子供たちのままごとの道具にされて、泥だらけになってしまいました。
だけどフライパンは子供たちの隙を見て、なんとか逃げ出しました。
フライパンがドロドロのままさらに歩いていくと、今度は笛を吹き、太鼓を叩いている子供たちに出会いました。
子供たちはまたフライパンを追いかけて捕まえ、太鼓の代わりにフライパンをガンガンと木の棒で叩いて、演奏を始めました。
フライパンは楽器ではないので、ものすごくイヤだったのですが、とても疲れていたので子供たちから逃げ出すことができませんでした。
やがて子供たちは夕方になったので、家にごはんを食べに帰っていきました。
子供たちの家では、お母さんがおいしいごはんを用意してくれているはずです。
もしかして、フライパンを使って作った料理があるかもしれません。
フライパンとして使われるそんなフライパンを、このフライパンはものすごくうらやましいなと思いました。
「フライパンが落ちているぞ」
泥だらけで動けなくなったフライパンを、次に見つけたのは、一人の男の人でした。
「泥だらけだけど、これはとてもいいフライパンだな。どうしてこんなところに落ちているのだろう」
男の人はそう言って、フライパンを家に持って帰り、きれいに洗ってくれました。
男の人はマサユキさんといって、コックさんの卵でした。
マサユキさんは料理の勉強を、仕事場でも家でもしていたのですが、貧乏なので家には良いフライパンを持っていなかったのです。
「このフライパンを使えば、いつもより上手にオムレツが作れるかもしれないぞ」
マサユキさんは嬉しそうにそう言うと、さっそく料理を始めました。
フライパンはコンロにおかれ、初めて火の熱さを感じました。
油が引かれて、ジュワ、という音とともに卵がフライパンの中に広がりました。
マサユキさんはお箸を上手に使って卵を固め、くるんと上手に引っくり返しました。
「いつもよりも上手にオムレツが焼けたぞ! 安物のフライパンと違って、いいフライパンは焦げつかないんだなぁ」
きれいに出来上がったオムレツを見て、マサユキさんはとても嬉しそうでした。
フライパンも、初めてフライパンらしく扱ってもらった上に、初仕事でとてもきれいなオムレツを作ることができて、とても嬉しかったのでした。
フライパンは、やっと自分のご主人様を見つけたのでした。
その後、マサユキさんはこのフライパンで美味しい料理をたくさんつくるコックさんになりました。
マサユキさんはフライパンに感謝し、いつまでも大事にフライパンを使い続けてくれました。
フライパンはとても幸せになりました。
そのご主人が作るフライパンは、いつも良い出来のものばかりなのですが、今回新しく作られたフライパンは、いつもの三倍は良い出来のフライパンでした。
そのフライパンは、ご主人のしんせきのお嬢さんがお嫁に行くことになったので、嫁入り道具の一つとしてプレゼントされることになりました。
「これで旦那さんに、おいしい料理を作ってあげるんだよ」
そう言って、ご主人はフライパンをきれいな箱に入れて、可愛らしいリボンをつけて、お嬢さんにプレゼントしました。
お嬢さんは嬉しそうにプレゼントを受け取りましたが、中身がフライパンだと知ると、心の中でがっかりしました。
何故なら、お嬢さんは実はとても料理が苦手で、料理をしない人だったからです。
お嬢さんはいつも、おかずを近くのお店で買ってきて、自分が作ったかのように、きれいにお皿に盛りつけているのでした。
だからフライパンは、お嬢さんにプレゼントされたときの箱から、出してはもらえていたのですが、まったくお料理に使ってもらえていませんでした。
フライパンは哀しかったけれど、いつかお嬢さんが料理を作ってくれることを夢見て、じっとガマンをしていました。
だけどある日、こんなことがありました。
お嬢さんと旦那さんがケンカをしたのです。
ケンカの理由はフライパンにはわかりません。
だけど、お嬢さんはとても怒って、フライパンを持って旦那さんになぐりかかりました。
フライパンはケンカの道具ではありません。
そんなふうに使われるのはイヤだったので、フライパンはお嬢さんが手の力をゆるめたときに、外に飛び出していきました。
フライパンは、自分を正しく上手に使ってくれるご主人様を、自分で探しに行くことにしたのです。
フライパンが道を歩いていると、子供たちに出会いました。
「フライパンが歩いているぞ、おかしいぞ」
子供たちはそう言って、フライパンを追いかけました。
フライパンはがんばって逃げましたが、捕まってしまいました。
フライパンは子供たちのままごとの道具にされて、泥だらけになってしまいました。
だけどフライパンは子供たちの隙を見て、なんとか逃げ出しました。
フライパンがドロドロのままさらに歩いていくと、今度は笛を吹き、太鼓を叩いている子供たちに出会いました。
子供たちはまたフライパンを追いかけて捕まえ、太鼓の代わりにフライパンをガンガンと木の棒で叩いて、演奏を始めました。
フライパンは楽器ではないので、ものすごくイヤだったのですが、とても疲れていたので子供たちから逃げ出すことができませんでした。
やがて子供たちは夕方になったので、家にごはんを食べに帰っていきました。
子供たちの家では、お母さんがおいしいごはんを用意してくれているはずです。
もしかして、フライパンを使って作った料理があるかもしれません。
フライパンとして使われるそんなフライパンを、このフライパンはものすごくうらやましいなと思いました。
「フライパンが落ちているぞ」
泥だらけで動けなくなったフライパンを、次に見つけたのは、一人の男の人でした。
「泥だらけだけど、これはとてもいいフライパンだな。どうしてこんなところに落ちているのだろう」
男の人はそう言って、フライパンを家に持って帰り、きれいに洗ってくれました。
男の人はマサユキさんといって、コックさんの卵でした。
マサユキさんは料理の勉強を、仕事場でも家でもしていたのですが、貧乏なので家には良いフライパンを持っていなかったのです。
「このフライパンを使えば、いつもより上手にオムレツが作れるかもしれないぞ」
マサユキさんは嬉しそうにそう言うと、さっそく料理を始めました。
フライパンはコンロにおかれ、初めて火の熱さを感じました。
油が引かれて、ジュワ、という音とともに卵がフライパンの中に広がりました。
マサユキさんはお箸を上手に使って卵を固め、くるんと上手に引っくり返しました。
「いつもよりも上手にオムレツが焼けたぞ! 安物のフライパンと違って、いいフライパンは焦げつかないんだなぁ」
きれいに出来上がったオムレツを見て、マサユキさんはとても嬉しそうでした。
フライパンも、初めてフライパンらしく扱ってもらった上に、初仕事でとてもきれいなオムレツを作ることができて、とても嬉しかったのでした。
フライパンは、やっと自分のご主人様を見つけたのでした。
その後、マサユキさんはこのフライパンで美味しい料理をたくさんつくるコックさんになりました。
マサユキさんはフライパンに感謝し、いつまでも大事にフライパンを使い続けてくれました。
フライパンはとても幸せになりました。
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