初夜に放置された花嫁は、不誠実な男を許さない~不誠実な方とはお別れして、誠実な方と幸せになります~

明衣令央

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5・ドロシー嬢とはどなたですか?


「新郎が花嫁を放って、初夜に会いに行くドロシー嬢とおっしゃる方は、一体どなたなのですか?」

 すでにメイドから確認していることだが、セシリアは敢えてバートン伯爵に尋ねた。
 バートン伯爵は俯きながら、ドロシーがアランの元婚約者であったこと、だが婚約を解消していることをセシリアに説明する。

「お別れになったというのなら、どうして新郎に手紙など送ってくるのでしょう? しかも、会いに来てくれなければ命を絶つなど……常識では考えられないことだと思うのですが……」

「い、命を絶つと脅されたら、アランは優しい子だから、心配になったのよ!」

「そうよ、アランは優しいから、ドロシー嬢のところに行ったのよ! 人の命がかかっているのよ! 仕方ないことよ!」

 アランを援護しようとしたのだろう、夫人たちが口をそろえて、アランは優しいのだから仕方がないことだ、と言い出した。
 人の命がかかっているから仕方がない――そう言ってセシリアを納得させようとしている。
 だけどセシリアにとっては、何の関係もないことだった。

「ですが、わたくし、ドロシー嬢という方を存じておりませんし……そもそも、そんな方がおられるのなら、わたくしと結婚しなければ良かったのではありませんか?」

「そ、それはっ……」

 セシリアの正論に、夫人たちは言葉を失い俯いた。

「しかも、こちらの使用人たちは、新郎が本当に愛しているのは新郎を呼び出した令嬢で、わたくしが新郎を大金で買ったと噂をしているのですが……あなた方はそれをご存じでしたの?」

「な、なんだって! おい、お前たち、何を言っているんだ!」

「なんてことだ!」

 バートン伯爵がメイドを怒鳴りつけると、メイドは土下座したまま震えていた。
 前バートン伯爵の方は、天を仰いでいる。
 この反応は、おそらく彼らは使用人の噂話を知っていたのだろうと判断した。
 そうすると、今も新郎とドロシーが続いていた可能性があることも、知っていたのではないか。

「そもそもこの結婚は、ハルフォード侯爵からのお話で、バートン伯爵家への援助を目的としたものでした。決してこちらから望んだものではありませんし、ご子息を金で買ったなどと言われる筋合いはありません……。一体、こちらの伯爵家での認識はどうなっているのですか? 私の実家――グランチェスター侯爵家を侮っていらっしゃるの?」

「セシリア、侮っているなど……そんなことはないんだ……。アランとドロシー嬢も、別れたものだと思っていたし……」

「そうですの? ですが、こちらの使用人の態度を見る限り、そのお言葉を信じることはできませんわね」

 セシリアがそう言って息をつくと、前バートン伯爵がセシリアの前に進み出た。

「おい、女のくせに、この家に嫁いできたくせに、生意気なことを言うな! お前はこの伯爵家に嫁いできたのだから、わしたちの言うことに大人しく聞いて従っておればいいのだ!」

 前バートン伯爵は、そう怒鳴りつけるように言った後、セシリアの全身を見つめにんまりと笑う。

「それに、そんなに初夜に体が疼いているのなら、わしが鎮めてやろうか?」

「……下品、ですわね」

 セシリアに手を伸ばそうとした前バートン伯爵を振り払ったのは、ジゼルだった。
 セシリアはまた深いため息をつくと、肩に乗せたルミナスバードの頭をそっと撫でる。

「お父様、お聞きになっていましたか?」

『あぁ、もちろんだ』

 セシリアの肩の小鳥から、セシリアの父親であるグランチェスター侯爵の声が聞こえ、バートン伯爵たちは目を見開いた。

「お父様、わたくし、とんでもない家に嫁いできてしまったようですわ。どうしましょう?」

『もちろん、離婚だ。もう手続きを始めている。それから、今着いたよ。セシリア、家に帰ろう』

「はい、ありがとうございます」

 どうやらもう迎えに来てくれたらしい。
 あと数分もすれば、父はサロンまで来るだろう。

「セシリア……それは、何だ?」

 セシリアの肩の小鳥を指さし、バートン伯爵が言った。
 セシリアは小鳥の頭を撫でながら、美しく微笑み、言った。

「これはルミナスバード……通信機能を持つ魔道具ですわ。ご存じありませんでした?」

「通信? では、今の会話は……」

「はい、全てわたくしの父に――グランチェスター侯爵も聞いておりましたの」

 バートン伯爵夫妻、前バートン伯爵夫妻は、目を見開き青ざめた。
 そしてちょうどそのとき、

「セシリア! 待たせたな! 迎えに来たよ!」

 セシリアの父であるグランチェスター侯爵アルバートが、バートン伯爵家のサロンへドアを勢いよく開けたのだった。


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