大勢の前で婚約破棄を言い渡されましたが、それは幸せへの道の第一歩でした

明衣令央

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1.婚約者からの頼み事

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「今夜、隣国フレルデントの王太子、俺の親友のリカルドを招いて、パーティーを開くのだが、そこで君にはリカルドを歓迎する歌を歌ってほしいのだ」
「は、はい、ディスタル様っ」

 アリア・ファインズ公爵令嬢は、ウクブレスト王国の王太子であり、婚約者であるディスタル・ウクブレストからの初めての頼み事に、真剣な表情で頷いた。

 アリアがディスタルから優しく話しかけられ、頼み事までされたのは、初めての事だった。
 彼女は十二歳の頃にウクブレスト王から王太子であるディスタル様の婚約者にと望まれたが、それから六年間、婚約者であるディスタルからは避けられ続けていたからだ。

 ディスタルはアリアよりも五歳年上で、婚約が決まった当時、十七歳。
 国王とはいえ、両親が勝手に決めた婚約が気に入らなかったらしい。
 だが、ディスタルがアリアを気に入らないと言っても、この婚約が王命である以上、アリア側が婚約を辞退する事は出来なかった。
 よって、アリアはディスタルに避けられ続けたまま、王太子の婚約者という立場を六年も続けてきたのだった。

 ディスタルは派手な性格で、様々な場所で美しい『華』を愛でているという噂があった。
 それを耳にしたアリアは、最初はディスタルが植物を好きなのかと思っていたが、年齢を重ねるに連れて、その意味を理解するようになった。

 派手な性格のディスタルは、金茶色の髪にアイスブルーの目をしていた。
 そんな彼の愛でる美しい『華』たちは、いずれも容姿端麗で、黄金や赤い髪など目を引く華やかさがあるのだという。
 それに比べ、アリアは華やかな容姿とは言い難かった。
 マロンブラウンの髪に紺碧の目は、ディスタルから見れば、華やかではなく地味なのだろう。

 ディスタル様はきっと、私の事がお嫌いで、他にお好きな方が居られるのだわ……。

 アリアはずっとそう思っていた。
 そして、自分は将来の夫である男性と、想いを通わせる事はないのかもしれないとも。
 だが、そんな彼女に、ディスタルが初めて優しく声をかけ、頼み事をした。
 それはアリアにとって思いがけない事で、そして嬉しい事だった。

「アリア、君の柔らかな歌声が、我が親友の歓迎の席に彩りを添えてくれるのを期待している」
「は、はいっ、ディスタル様っ」

 ディスタルは頷くアリアを見て同じように頷くと、立ち去った。

「精一杯、がんばろう……」

 今までは避けられ続けていたけれど、これを機にディスタルと良い関係が築けるかもしれない――アリアはそう思った。

 だけど――。

 隣国フレルデントの王太子、リカルド・フレルデントを招いてのパーティーで、アリアは歌を歌う事ができなかった。
 パーティー当日の朝までは……正確にはパーティーが始まる直前までは、何も異常がなかったというのに、彼女は突然、全く声が出なくなってしまったのだ。

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