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32.家族との再会

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 ステファンが家族を連れて王都フランドールに戻ってきたのは、アリアとサリーナが、リカルドの手配してくれた家を整え始めた翌日の昼だった。

「アリア姉様、声が出るようになったんだね! ステファン義兄様から聞いていたけど、良かったよ!」
「本当だ、良かったね、アリア!」
「えぇ、あなたが元気になって良かったわ!

 再会してからの家族の第一声は、アリアの声が出るようになった事の、喜びの声だった。
 今自分たちは大変な目に遭っているというのに、なんて優しい人たちなのだろうと、アリアは泣きそうになったが、涙を堪えて微笑んだ。

「サリーナも元気そうで良かったよ。それからアリアの事、ありがとう。アリアが元気になったのは、きっとサリーナのおかげだね」

 父親であるエランドが、サリーナに礼を言う。
 サリーナは溢れた涙を軽く拭いながら、首を横に振った。

「いいえ、私がアリアのためにできた事は、このフレルデントに行こうと誘い、連れて来ただけだわ。アリアが元気になったのは、別の方のおかげです」
「そうなのかい? でも、きっとサリーナのおかげだとも私は思うよ。ねぇ、アリア」
「はい、もちろん、姉様のおかげです」

 サリーナはこのフレルデントにアリアを誘い連れて来ただけと言ったが、それがなければアリアは心身共に回復する事はなかっただろう。
 それに、迷っているアリアの相談に乗り、サリーナはいつも優しく前に進むように促してくれた。
 サリーナにはいくら感謝してもし足りないとアリアは思った。

「ふふ、ありがとう。アリアにそう言ってもらえると、とても嬉しいわ。さぁ、お父様もお母様も、クリスも、お疲れでしょう。この家はあるお方が自由に使ってと言って、手配してくださった家です。私とアリアで、生活していけるようにいろいろと用意を致しました。まずはゆっくりと休んでお休みになってください。ねぇ、アリア」
「はい、姉様の言う通りです。お腹はすいていない? 食事の用意もできていますよ」

 アリアがそう言うと、クリスがお腹が減ったと訴えた。
 では食事にしようかという流れになる。

「ステファンも、お疲れ様。私とアリアの家族を守って、ここまで連れてきてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。でも、君の家族は俺の家族でもあるんだ。当たり前の事をしただけさ」
「そうね……だけど本当にありがとう……」

 ステファンと抱き合うサリーナを見て、アリアは一人で食事の支度を始める事にした。
 両親が、この家を手配してくれたのは誰なのかと、サリーナに尋ねているのが聞こえたが、弟のクリスがお腹が減ったと訴えてくるのだ。
 詳しい話は、ステファンやサリーナが適任だろうと思う。
 その時、玄関のドアがノックされた音が聞こえた。

「お客さんかな? アリア姉様、僕が出るね」
「ありがとう、クリス」

  玄関へと走っていくクリスを眺めながら、アリアはその先のドアを見つめた。

「はい、どなたですか?」
「おや、元気な子だな。君がクリスかい?」
「そう、だけど……」

 ドアを開けたクリスは首を傾げた。
 訪れた客人を、どこかで見た事があったかもしれないが、思い出せないらしい。
 客人はアリアを見つめると、緑の目を優しく細め、笑った。

「あ、あなたは……」

 息子のクリスとは違い、父親であるエランドは、客人が誰なのかという事に、すぐに気付いたらしい。
 客人――リカルドはエランドに目を向けると、

「お久しぶりです、ファインズ公」

 と言って、頭を下げた。



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