大勢の前で婚約破棄を言い渡されましたが、それは幸せへの道の第一歩でした

明衣令央

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36.ディスタルとスザンヌの来訪

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 話は一週間程前に戻る。
 ウクブレストの王である、ヨハン・ウクブレストの元を、息子であるディスタルと、その新たな婚約者でもあるスザンヌ・マッコールが訪れた。
 ディスタルは同じ王宮に住んではいるが、滅多に両親に会いに来ない息子だった。
 一体何の用だと思いながらも、やはり嬉しい気持ちもあり、ヨハンは王妃と共に息子を出迎えようと思ったのだが、残念ながら王妃のヘレナは体調が悪いという事で部屋で休んでおり、一人で息子と婚約者を出迎える事になった。

「父上、お久しぶりですね。今日は、スザンヌと共に、あるお願いがあって参りました」
「ほう、どんな願いだ?」

 同じ王宮に居ながらも、用事がなければ会いに来ない薄情な息子。
 という事は、その用事というものは、かなり厄介なものなのではないだろうか。
 ディスタルの用事というものに良いイメージが全く湧かないまま、ヨハンは息子に続きを促した。

「お願いがあるのは、私の方ですわ」

 そう言ったのは、ディスタルと共に正式な婚約者を陥れ、新たにその座についたスザンヌだった。
 息子とスザンヌが、元婚約者であるアリア・ファインズという娘にした事を知っているヨハンは、このスザンヌという娘の事を嫌っていた。
 だが、それを表情には出さず、どんな願いなのかと、スザンヌに続きを促す。

「私は、このたびディスタル様に求められ、婚約者となりました。いずれ……いえ、近い将来、王太子であるディスタル様の妻、王太子妃になるわけなのですが……私の実家はお恥ずかしながらとても貧乏で、とても粗末な小さな屋敷で暮らしておりますの」
「そうか、それで?」

 スザンヌの実家の事は、ヨハンはすでに調べていた。
 彼女の言うとおり、マッコール男爵家は借金もある貧乏貴族だった。
 だが、その借金はマッコール男爵が賭博で大損してできたもので、自業自得と言わざるを得ないものだ。
 これは金の無心か、とヨハンは思った。
 その借金は、ディスタルが持つ金だけでは対応できないものなのだろうか?

「私、王太子の妻となる女やその家族が、貧乏な屋敷に住んでいるのは、恥ずかしい事だと思いました。愛するディスタル様に恥をかかせてしまうと思いましたの」
「そうだろうか? で、お前たちはどうしたいのだ?」
「私は、家族みんなで、人が羨むような良い暮らしがしたいのです。例えば……ファインズ公爵家のような」
「お前は、何を言っているのだ?」

 ヨハンはスザンヌが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

「だから、私は、ファインズ公爵家のように、豊かな、恵まれた、贅沢な暮らしがしたいのです。次期王太子妃に相応しい暮らしを!」
「何を想像しているかは知らないが、エランド……いや、ファインズ公爵家は、特別な贅沢をしているわけではないぞ」

 むしろ、ファインズは、公爵家としては地味で質素な、堅実な生活をしているといっていいほどだった。
 だが、それを告げたとしても、スザンヌは納得しないと思った。
 この娘の言動は何かおかしい。
 狂っているのではないかと思う。
 ディスタルは、この狂っているかもしれない娘を、本当に自分の妻にするつもりなのだろうか?
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