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51.ウクブレストの戦女神
しおりを挟むウクブレストの他国への侵略が始まり、圧倒的な力で他国を侵略していく。
軍の指揮を取っているのは、王太子であるディスタルだった。
そして彼には、戦場で高らかに戦いの歌を歌う、赤い髪の戦女神が寄り添っているのだという。
「さすがですわ、ディスタル様。順調にウクブレストは勝利を収め続けていますわね」
「それは俺のセリフだ、スザンヌ。戦場の歌姫、俺の戦女神よ……」
ディスタルはそう言うと、スザンヌを抱き寄せた。
ディスタルとスザンヌは、攻め落とした国の玉座の前に居た。
「何度でも言おう。お前は素晴らしい。お前の力は、俺のためにあるようなものだ」
「ふふ、嬉しいですわ、ディスタル様。私たちの望むものは同じ……あなたの望みのために、私の力をお役立てくださいませ」
スザンヌの歌には兵の攻撃力を高める効果があり、彼女が戦場で歌うと、兵の士気が上がった。
士気が上がったウクブレスト軍は、まるで疲れを知らないかのように戦い続け、次々に勝利を収め続けていた。
「でも、ディスタル様の目的は、フレルデントでしょう? 直接フレルデントを狙わずに、他国の侵略する意味は? 遠回りではないですか?」
「それは……」
ディスタルの脳裏に、他国へに留学していた妹の言葉が蘇る。
『お兄様、フレルデントに手を出してはいけません! 私はいくつもの留学先で、それを学びました! あの国は、多分、何か特別なものに守られている国なのです!』
妹――ターニアの言葉に、ディスタルは苛立った。
そして、彼女を両親と共に王宮に閉じ込めて、他国への侵略を始めた。
ディスタルが最初に侵略した国は、ターニアが最初に留学先に選んだ国だった。
理由は、妹に妙な知識を植え付けた事への報復だった。
ディスタルにとってフレルデントという国は、田舎の小国でしかなかったのだ。
「もちろん、他国を侵略するのは、我が国の力を示すためだ。我が国の力の偉大さを知って、フレルデントが降伏を願い出てくるのを待っている」
「降伏しなければ?」
「侵略し手に入れた他国の兵と共に、フレルデントを包囲し、攻め入るだけだ」
「ふふ、素敵ですわ。では、あと二つほど他国を落としてから、フレルデントに向かいましょう。あのフレルデントのなよなよとした王太子、きっと震え上がってあなたにすり寄ってきますわ」
そう言ったスザンヌは楽しそうにに笑ったが、ディスタルは少し考え込んだ。
フレルデントの王太子、リカルド・フレルデントーー彼はディスタルにとって、友人であると共に、決して隙を見せない得体の知れない相手だった。
「ディスタル様? どうなさいました?」
「いや、何でもない……」
一瞬、ターニアの言葉とリカルドの姿が脳裏で重なり合ったような気がしたが、ディスタルはそれを打ち消した。
例えターニアの言う通り、あの国が得体が知れない国だとしても、大軍で攻め入ればひとたまりもないだろう。
もしくは、スザンヌの言うように、降伏して擦り寄ってくるかもしれない。
リカルドのそんな姿を想像し、ディスタルは満足そうに笑みを浮かべた。
「スザンヌ、明日も歌え、俺のために。そして俺は、この世界の覇者となる」
「はい、もちろんですわ、ディスタル様」
頷いたスザンヌは、高らかに歌う。
そしてディスタルは王座に向かい、腰に下げていた剣を抜くと、笑いながら玉座へと振り下ろした。
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