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72.友との別れ
しおりを挟む「リカルド様、お兄様!」
引き渡し場所に指定した、戦いがあった国境までディスタルを迎えに来たのは、ターニアだった。
「ターニア、君が来たのかい?」
「はい……あの、リカルド様、この度は愚兄がご迷惑をかけ、申し訳ありませんでしたっ」
ターニアはそう言うと、勢いよく頭を下げた。
リカルドは、事が事だけに、気にしなくてもいいよとも言えず、ただ苦笑する。
「もう既にお聞きかもしれませんが、両親と共に王宮の一室に閉じ込められていたところを、ステファン様に助けていただきました。本当に、なんとお礼を言っていいか……」
「いや、無事で良かったよ。アリアも心配していたからね」
「おい、ターニア、行くぞ」
リカルドとターニアの話を、ディスタルが遮った。
ターニアは勝手なディスタルを睨みつけたが、ディスタルは何も感じないらしく、
「じゃあな、リカルド」
と言うと、一人でさっさと馬車に乗り込んでしまう。
「あぁ、ディスタル。ターニアも、元気で。これ、ディスタルの手枷の鍵だから」
リカルドが小さな鍵をターニアに渡すと、彼女を急かすように、ディスタルがまた声をかけた。
「おい、ターニア、行くぞ!」
「もう、お兄様ったら! リカルド様、では、失礼いたします」
ターニアは、何度もリカルドに頭を下げて、申し訳なさそうに馬車に乗り込む。
動き出した馬車を見送り、リカルドは深い息をついた。
フレルデント王宮に戻ったリカルドは、ディスタルを迎えに来ていたのはターニアで、元気そうだったという事をアリアに伝えた。
アリアは、良かった、と呟いたが、その表情は安心したようなものではなく、どこか不安そうな表情をしていた。
「どうかしたかい?」
「リカルド様、あの……ウクブレストでは、まだ何か起こっているのでしょうか?」
「どうして、そう思うんだい?」
「それは……ディスタル様が、別人のように変わられたから……。それに、あの時……私はディスタル様から逃げるのに必死だったのですが、後から考えると、おかしな事が多くて……」
「おかしな事?」
「ディスタル様が私を攫って逃げていた時、ディスタル様は何かに気付いて、驚いたように馬を止めて、どういう事だ、と呟かれたのです。そしてその時にディスタル様が見ていた方向は、ウクブレスト王宮がある方向でした」
アリアは一度言葉を切ると、少し考え込んで、続けた。
その時の事を、必死に思い出そうとしているようだった。
「それからすぐに、コウリンとカゲツヤが現れたから、ディスタル様は突然現れたドラゴンに驚かれたのかとも思ったのですが、それは違うような気がします。それに、私を助けてくれた時にコウリンとカゲツヤは、ひどい怪我を負っていました。一体、誰が二匹のドラゴンを、あんなに傷つけたのでしょう?」
「なるほど、ね」
アリアの言葉を最後まで聞き、リカルドは頷いた。
おっとりとしているようで、かなり鋭いと思う。
だが、リカルドはもう彼女をウクブレストに関わらせたくなかった。
「アリア……もしもウクブレストで何かが起きていたとしても、それはもうウクブレスト側の問題だ。我々フレルデントには関係ない事なんだよ。戦いも、終わった事だしね」
リカルドが諭すように言うと、アリアは素直に頷いた。
「それに、確かにディスタルは、人が変わったようだったかもしれないけれど、君があいつを気にするのは、妬けるな。僕より、あいつの方が良かったのかい?」
ウクブレストからアリアの意識をそらせるために口にした事だったが、半分は本心だった。
アリアはディスタルの婚約者だったのだ。
態度の変わったディスタルを目の当たりにして、心が揺らいだのではないかと思ってしまう。
「リカルド様、それは、ないです。ただ、最後にお話した時のディスタル様の変わりようが、気になってしまっただけで……」
「そう、良かった」
リカルドは安心したように息をついた。
「アリア、いろいろとあったけれど、ウクブレストとディスタルの事は、もう忘れてほしい。そして僕らは、幸せになろう」
「はい、リカルド様」
リカルドは彼女の意識を自分に向けられた事を安堵しつつ、もう会う事もないだろう友を想い、アリアを引き寄せ、抱きしめた。
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