孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ

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第56話

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「こっちが奏で、こっちが楓だろ!!!!!!」

 転入生は最初に右を、次に左を指しながら、マイク要らずの大声で、何を当たり前のことをと言わんばかりの声音こわねをしてそう言った。

 …驚いた、見事に正解だ。

「「大正解!!」」

「ほんとすごーい!」

「びっくりだよ!」

 双子もアッサリと見破られたことに驚いている。大きな黒色の瞳をまるく見開いて、顔にはほんの僅かな歓喜と哀愁が見え隠れしている。しかしそれは、他の生徒が気付かない内に跡形もなく消されてしまった。

 気付いたのは恐らく、現在2階席にいる副会長以外の生徒メンバー。そして、すぐ近くにいた転入生達。もし双子の親衛隊隊長がこの場にいれば、その人もだっただろう。


 双子は、実に瓜二つなイタズラっぽい笑顔を浮かべると、同じタイミングでお互いの両手を合わせた。

「「…でも、まぐれの可能性もあるからね!」」

 まぁ、それはそうだ。当たる確率は二分の一。正直一回だけでは、見分けたのではなくまぐれで当てた可能性が高い。

「「じゃあ、第2ラウンド目いっくよー!」」




 ─その後も同じ事を何十回と繰り返して。


 ゲームが始まって、現在50回目。そろそろこれで最後だろう。流石の双子も、回り過ぎて少し頭がふらふらしてきている。終わってから倒れなければいいのだが。


「「どっちがどっちでショー!」」

「上が楓で、下が奏だろっ!!!こんなの簡単だぞ!!!!!」

 転入生は見事に全問正解を果たしていた。

 ここまでくると、転入生はまぐれで当てているのではなく、ちゃんと2人を見分けていると認めざるを得ない。

 因みに今の双子の体制は、転入生が言ったように奏の上に楓がいるという、所謂いわゆる肩車状態だ。

 残像しか見えないような高速回転しながら、流れるように肩車をするその手腕はお見事としか言えない。これはこの2人だからこそ可能となる技だろう。もはや人外。


「かえ、で…か、なで…すご…」

「いつ見てもすげぇなコイツら」

 会長と慶に至っては、双子を見分けた転入生ではなく、双子が軽々とこなす技の方に目がいっている。俺以外の生徒会メンバーは小等部からの付き合いらしいが、そんな2人でも目を見張る程というのがすごい。

 
「「君すごいねー!事前情報無しの初対面で、僕らを見分けたのは君が初めてだよ!!なんで分かったの?」」

 楓が奏の肩から飛び降りてから、全く同じ表情をして問う。瞬きの瞬間も、呼吸のタイミングまでもが同じ。こういう時は一瞬、どちらがどちらだか分からなくなる。

「君じゃなくて春人って呼べよなっ!!!それに当たり前だろ!!だって2人とも全然違うんだからな!!!!!」

 全然違う…?そんな事はないと思うが。

 客観的に見て、顔や背丈、身体つき、瞳や髪の色なんてほぼ同じだ。しかも、その髪の痛み具合や光沢の付き方までもが。




 まるで、双子のうちの片方が、もう片方を真似して作られでもした、精巧な人形のように。




「~~ッ!!!!」

「僕、ハルのこと気に入ったよ!!」

 楓は転入生に飛び付いた。気にならない程のを空けた後、それに続いて奏も飛び付く。

 丁度こちらに背を向けるような格好となったため、その時の双子がそれぞれどのような表情をしていたのか、俺達には分からなかった。




 
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