孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ

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第57話

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「へぇ~、キミすごいねぇ~!」

 少し離れた場所で止まって、双子と転入生のやり取りを見ていたが、そろそろ動いた方が良いだろうと思い、そんな風に言い放ちながら会長の横を通り過ぎた。

「なっ、誰だお前!!!!」

 近くに寄ると、よりその姿の異様さが明確になる。俺は素の写真を見ているから知っているが、それ以外の人にも簡単に変装だと判るであろうお粗末具合だ。
 
 ─いや、此処華織学園にいるのは、容姿至上主義のお坊ちゃま達ばかりだ。だから逆に分からないかもしれない。

 何故なら、優れている容姿を隠す意味が彼らのほとんどには理解できないからだ。彼らには、容姿が優れているのは利点になりはすれ、決して不利にはならないと、そういう何処か歪んだ常識が幼少期から植え付けられている。
 
「ん~俺ぇ?」

「そうだ!!!あ、オレは柳瀬春人!!!春人って呼べよなっ!!!!で、お前の名前はなんだ?!!教えろっ!!!!!!」


「会計様になんていう口の利き方をするんだ!!!」

「永瀬様達もあんなのから早く離れて下さいぃ!穢れるぅぅ!!」

「なんか少し違う気がするけど待ちに待った王道ついにktkr!!」


 途端にざわめきだす周囲の生徒達。つい先程までは、初対面で双子を見分けたその観察眼に関心して、一部興味が含まれた視線も混じっていたというのに。
 
 少しでも対応を間違えた途端にこれだ。
 今思えばこの学園の外部生が異様に少ないのは、今の転入生のように対応を間違えた外部生異物を大勢で糾弾きゅうだんし、自主退学に追い込んできたからなのだろう。あと、権力の有無と強さも関係しているのだと思う。


「水無月だよぉ~。2年だからキミよりも年上だねぇ」 

「名字だけじゃなくて名前も教えろよっ!!!!あと、キミじゃなくて春人って呼べよな!!!!!」

 ふーん、年上の部分は無視か…。
 なるほど。確かに転入生は、副会長にとって好ましい人間とは真逆のタイプみたいだ。嫌ってるのも納得だな。

「ごめんねぇ、俺仲良しな子しか名前で呼ばない主義なんだぁ」

 何となく転入生のことを名前で呼ぶのが嫌で、あえてそう言ってみる。名前を教えろコールは、軽くスルーした。時間の問題だが、多分教えたら面倒なことになる気がする。

「へぇ、お前そんな主義抱えてんのか?」

 初耳だ、とニヤニヤ笑いながら会長がこちらに近づいてきた。その後ろには、まるで何かからか隠れるかのように身を頑張って小さくして着いてきている慶の姿もあった。会長よりも慶の方が背丈は高いため、全く隠れられていないが。

「な…っ!お前すっごくイケメンだなっ!!!?」

「俺様がイケメンなのは当たり前だ」

 そこで嫌味に聞こえないのが会長なんだよな…と、無駄に整った顔面を見て思った。同じことを思ったのか、食堂内にいるうち数名の生徒が少し遠い目をしていた。恐らく、その生徒達は数少ないノンケ達だろう。

「ちょっと会長ぉ、今俺が転入生と話してたんだけどぉ~?」

 ね~?、と同意を求めるかのようにろくに目も見えない転入生の顔を下から除き込み、ちょこんと首を傾げる。
 金色の細い束が、サラリと頬を滑って目の前を横切った。

「それはすまねぇな。が、別にいいだろ?俺は少し、こいつに興味が出てきたんだよ」

「ふぅ~ん?ま、別にいいけどさぁ」

「おいっ、オレを除け者にするなんてヒドイんだぞ!!!!!なっ!!!そう思うだろ玲夏れいか爽太そうた恋春こはるっ!!!!けどまあオレは優しいからな!!!謝ったら許してやるよ!!!!あ、あと、お前誰だよ!!!!名前教えろよなっ!!」

 なるほど、これが自分優しいだろアピールか…。正直、もう今の段階で転入生とは関わりたくないと思ってきた。疲れるし、第一厄介そうな気配しかしない。

「…ぅ、さい…」

 相変わらず会長の背後にいる慶がそう呟いたのが聞こえた。

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