曰く、様子のおかしい攻略対象は学園乙女ゲームを抜本的に掻き回す

しもたんでんがな

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卑怯な理

聖友誠は源愛の親友でありアガペーはフィリアの天敵

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「お前、下っ手くそだなっ」


友誠の第一印象は最悪だった。


俺はバスケが大好きだ。例え下手と言われようが、好きなものは好きだ。

前世の記憶を思い出した今となっては、そう思わされているだけでしかないかもしれない。それでも変わらず好きだと言い続けたいと思う。そもそも子供が何かに熱中する理由なんて本当に単純だ。それは前世の有無に問わず、俺の場合でも決して例外ではない。

俺の部屋は源愛の父である文義が学生時代からバスケをしていた影響で、物心のつく前からカラフルなボールで溢れ返っていた。沢山の色や柄のボールが跳ねると、まるでそれが笑っているように見えて、楽しそうで、混ざりたくて。その中でも一際目を引いた一番高く多く跳ねるオレンジ色の鮮やかなボールこそがバスケットボールだった。

これが俺とバスケの全く感動的ではない出会いだ。

その後、得意げにバスケットボールを跳ねさせる文義から花丸が楽しげにそれを奪い去る様を見て、俺にも出来ると思った。同時に、俺が一番バスケを楽しめる男になりたいと思った。

始めたのはそんな単純な理由だ。

文義の自転車の後ろに乗せられ、大きい公園まで行く。

それは都内では珍しい、本当に大きな公園だった。スケボーの練習場があったり、ドッグランがあったり、ランニングコースまである。

因みに文義の自転車は、電動ファットバイクにチャイルドシートを付けた特別仕様だ。それは成人式の改造バイクをニュースで見て俺が憧れてしまった為に、ただの公務員である文義が考えた苦肉の作だった。タイヤがバイク並みに太く、細身の父が漕ぐとそのギャップも相まって凄く格好が良く見える。本人は全く気が付いていないが文義は完全に公園のアイドルになっていた。

親子お揃いのバッシュを履き、俺の背よりも遥かに高いコートに文義の肩車でシュートを決める。オレンジのボールが青い空を切る感覚は何度体感しても心地が良かった。季節問わず止まらなくなった汗を拭いながら、同じ空間にいる先刻友達になったばかりの名前も知らない人達とハイタッチをする。バスケをする度、俺の中の何かが広がった。

―――パチンッ

空が乾く程によく通る音。若干湿った色の異なる手と手が合わさる。そのどれもが過分な熱を持ち、俺の心を踊らせた。ついさっきまで全くの他人だったのに、バスケを通じて一瞬で仲良くなれる。なんて事のない、ただのボールが沢山の出会いをくれる。ただのボールが跳ね上がるだけで、まるで世界が変わって見えた。


そんな時間が俺は大好きだ。


保育園の年長になると、地域の小さなバスケチームに所属した。運動クラブでは珍しく、年齢制限も性別の規制もない。地域の交流を目的につくられたそこは、文義もプライヤーとして所属している。俺が通い詰めるようになってからは、いつの間にか気合を漲らせた祖父もボランティアとして参加するようになっていた。

体育館で行われるバスケとは違い、どちらかと言うとストリートバスケに近いそれは変に畏っていない分、どこか荒々しく、まるで踊っているかのようにプレイヤーが跳ね回る。俺と同い年くらいの小学生、定年したおじいちゃん、社会人になってまた趣味として始めた会社員、旅行で偶々立ち寄った外国人。一つのボールが、俺に人とのあたたかい関わりをくれた。そして皆が俺の友達あるいは師匠になってくれた。

大人に混じって練習をするようになった俺の日々は一変する。

相手の動きを予測して個として動かなくてはならないバスケは、相手が慮ってしまい思うように喋れなくなっていた俺に新たな気づきを与えた。

それまでは相手の気持ちをまま受け取っていた。言われた言葉が、その言葉以上の意味をなさないと思っていた。しかし言葉には感情がのる。嘘も虚勢も謙遜も、人に思考とは誤った言葉を吐かせる。

チームに所属して試合の数をこなすうち、俺は言葉以外にも仕草や顔色で他人の気持ちを考えられるようになった。

今までは互いに一方通行だった他人とのコミニュケーションに少し肩の力を抜けるようになった俺は、益々バスケにのめり込むようになっていった。

その後も俺は、膝や肘にキャラクターの絆創膏を増やしながら、ボールをただ一点目がけ打ち込み続けた。会話を苦手とした俺にもってこいのスポーツだと気が付いたのか、最初は心配で渋々チームの所属を許可した母と祖母も、いつの間にか積極的に応援してくれるようになった。

話さない俺が楽しそうにしている様が余程嬉しかったのか、大事な試合の前には昼ご飯を持って、わざわざ見に来てくれるようにまでなっていた。

「いとしいいっ」

「母さああんっ」

―――ドゴッ

油断は禁物。

区立の小学生に上がってしばらく経った頃、方々から「まだ小さいのにとても才能のある子いる」「バスケ界のギフテッド」なんて声を耳にするようになった。一瞬、俺だろとも思ったがどうやら違うらしい。その時の俺は完全に図に乗っていたと思う。無口キャラの俺は勿論、口には出さなかったが自分が上手すぎると思い込んでいた。ただの上手いではない、上手すぎると思って疑っていなかった。

この時ばかりは、せっかく培ってきた観察眼も老眼と乱視とドライアイをトリプルでくらったように、まるで本領を発揮しなかった。

要因を探ると、出会う人間全員が断る毎に褒めてくれたという事が過分にあった。「凄いね」「上手だね」方々から褒められる度、ブリキ人形のように鼻がニョキニョキと伸び、気が付いた時には完全に天狗に成り果てていたのだ。それは簡単には引き返せない程にみるみるうちに天高くへと登って行った。しかし注意をしてくれる人は誰も居なかった。それもその筈、俺はちょっとやそっとじゃ話さなかったのだから。

故に誰にも俺の内なる邪悪を悟られる事がなかった。

しかしそれは確実に表情へと現れる。その証拠に当時コートで撮られた集合写真に写る俺、もとい僕の微笑みには過分な含みが駄々漏れていた。それは鈍い俺でも見て取れる程に目も当てられない姿をしていた。幸い僕にもその自覚があったようで、今では例の仄暗い集合写真は自室のベッドの骨組みの最奥に捩じ込んである。俺の領分ではどうにもならなかった過去の僕を思い出し堪れず悶絶をする。「客観的に見る」「視点を変えると見える世界が変わってくる」自己啓発本でよく見る言葉。確かに変わった。いや、変わりすぎてしまった。

人格の違いはあれど根本のズレがあまり無い僕の趣向や思考は、俺に喉の奥から込み上げてくるような圧の掛かった羞恥を与えた。結論を言うと、俺の脳は幼稚園児と変わらないと言う事だ。僕が大人びていたのか、俺が自身で思っていたよりも遥に餓鬼だったのか。答えは言わずもがな、後者だ。

冷静に振り返れば、ベンチから立ち上がっただけでも褒められていたくらいだ。自分でも反省する必要があると思う。痛い。痛すぎる。そんな事も相まって当時の俺は、大人ならともかく子供に注目を奪われるなんて到底容認できる事ではなかった。

試合さえ出来れば、絶対に俺が勝つのに。俺の方がギフテッドなのに。口が回らない分、頭の中はグルグルと色んな感情が渦巻き、邪悪を濃くしていった。

俺と同い年。黒髪。隣町の学校に通っている。聞こえてくる情報はどれもありきたりなものばかり。俺はまだ見ぬギフテッドに並々ならぬ嫉妬を拗らせていたのだ。



―――ガコンッ

ある日そんな俺の逆立った心情を察したのか、気付けばいつの間にか庭に出来ていたバスケコートの真新しいゴールリングに豪快なシュートを外した昼下がり。俺を嘲笑うかのように大きく跳ね転がるボールへと花丸が戯れ回る中、文義が少し遠慮がちに提案をした。

「愛、ジュニアのクラブチームの試験を受けてみないか?」

思えば、それが俺の世界が更に広がった瞬間だった。

文義曰く、そこには小学校の低学年ではマイナースポーツのバスケを習っているキッズプレイヤーがうじゃうじゃいるらしい。しかも試験は子供だからと容赦は一切無く、試験官も皆プロで活躍しているプレーヤーが担当すると言う。審査官の中にはリーグ上位のプレイヤーまでいると言う。つまりその試験会場にはバスケが好きな人間しか存在しないのだ。その話だけでも俺の気持ちはふわふわと浮き足立った。

「······!?」

俺が通っている公立の小学校では、5年生以上になってから体育の授業でバスケが始まる。因みに何故公立に通っているかと言うと、自宅から7分以内に行けるうえ、敷地内には大きな池や山があったり、校内では色鮮やかなオウムを飼育していたり、なんかイカしていたからという理由でしかない。この年代の子供はビジュアルが全てだ。それは源愛も例外ではなかった。祖父母と母は私立一択だったが、制服の短すぎるズボンがどうしても許せなかった。俺は、当時の僕の決断に全力拍手を贈りたい。あのズボンに関しては未だに存在意義が分からない。

「······!!」

俺の学校ではバスケットボールの貸し出し自体も硬くて危険だからと低学年では禁止されていた。なにより身体が小さいとゴールコートが体格と合わず、突き指などをしやすい。俺が言えた義理ではないが、骨も思いの外すぐに折れてしまう。

そんな事も合間って、入学したての時はクラスメイトに「バスケって何?」と聞かれるほど、バスケはマイナーなスポーツだった。だからか俺は文義の「うじゃうじゃいる」という言葉に浮かれた。バスケが好きな子供がうじゃうじゃいる。話しが合う子供がうじゃうじゃいる。俺にも友達がうじゃうじゃ出来る。っかもしれない。

小学校生活が始まってから約3ヶ月、俺には一人も友達が居なかった。何をしても微笑んでいるだけだったのだから当然と言えば当然だが、クラスでは俺を置いて早々に気の合うグループで分かれていた。俺は話しかけても何も答えない、ボッチのヤヴァイ奴カテゴリに分別されている。








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