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第1章
プロローグ
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駅のホーム、憂いを含んだ表情でその女は一人立つ。
シワ一つないリクルートスーツで全身を固め、ただ電車を待ちながら、目前に感じる壁と後ろから迫る挫折の絶望に不安感を募らせる。
名は松葉井レイナ。 肩に掛けたバッグの中から伝わる振動が、そんな彼女の意識を引き戻した。
光を荒く反射する光沢ある黒いバッグの中を、まるで洗濯機の様にかき混ぜながら、底に眠っていたスマホを掘り起こした。
「あぁ、お母さん? うん……多分だめだと思う……」
母親に面接の状況報告をしながら、大学へ行く道を選ばなかった過去の自分の決断を後悔する。
大学へ行ってもやりたい事など無かった彼女だったが、目の前の試練の苦痛から逃げれるならそれでいいとも感じていた。
その時、地下を這う電車の迫力が北風となって彼女の切り揃えられた前髪を巻き上げた。
「うん、電車来たから切るね。 また後でかけるね」
電車に乗り、クロスシート座席に座ると彼女は頭を窓ガラスに預けた。 その前髪越しに伝わるガラスの冷たさを感じながら、彼女は反射する自分を無心でただじっと見つめる。
綺麗に束ねられたポニーテールが揺れ続ける悪路の中、いつの間にか見つめていた自分もぼやけ、瞼を透過して流れる街の光も忘れ、彼女は眠ってしまっていた。
三十分程かかる帰路は、眠りについた者の主観で見れば一瞬であり、彼女は刹那の内に目を覚ましていた。
「あれ……何処だろ、ここ」
重い瞼を擦り、徐々に定まり出したぼやける積層の視野であたりを見渡すと、そこは見慣れたホームでは無かった。
周囲は霧で覆われ、ほとんど景色を確認できない状況だったが、起き上がった彼女の足下の真っ白な土とそこに広がる赤い草原が別物の景色であると理解させる。
これが明晰夢という奴だろうか、そんなことを考えながら親切な駅員が自分を起こしてくれるはずだとか思っていた。 しかし彼女を起こしたのは鼻を歪ませる腐乱臭だけであり、その異常なまでにリアルな異臭が彼女に現実を痛烈に叩き付ける
「あれ、スマホは?」
記憶の中ではほんの数秒前まで握っていたはずだったが、今はスマホどころかあのカバンさえ見当たらない。
スマホを探す最中、彼女はさらなる異変に気付く。
「何この服……」
彼女が着ていたのは、リクルートスーツではなく中世の農民のような荒い布地のシャツとズボンだった。
髪も降ろされ、長髪の黒髪が風になびく。 頭から足の先まで、何もかもが変わってしまっていたのだ。
「誰かいませんか!?」
数回そう叫んだが、霧の中から微かにでも聞こえる声は一つもなかった。
とうとう泣き出しそうな潤んだ眼を何とか堪えていたが、防波堤の決壊はもう間近だった。
赤い草原白い土の続く一本道を方角も分からぬまま彼女は歩いた。
長く続く道の途中から徐々に霧は薄くなり始め、ベールを抜けると彼女は絶句した。
「なによこれ……」
そこにあったのは、無数に横たわるドラゴンと巨人の死骸、さらにそれを覆う様に生える異様な植物だった。
植物は変色し、ひとりでに動く。 至る所に生えた木は弾力性のぷにぷにとした肉のような質感で、血管は浮き上がり、肌色やピンク色をした気色悪い細身の木だった。 へその緒のような管が無数に伸びており、その先からは花を芽吹かせうねうねと動く。 そんな管が何本も生えた肉の木だった。
18年の人生を積み上げた彼女でさえ、不安感と嫌悪感を抱かせる光景であり、松葉井レイナは泣くことも忘れ、一人息を荒げ取り乱すだけだった。
シワ一つないリクルートスーツで全身を固め、ただ電車を待ちながら、目前に感じる壁と後ろから迫る挫折の絶望に不安感を募らせる。
名は松葉井レイナ。 肩に掛けたバッグの中から伝わる振動が、そんな彼女の意識を引き戻した。
光を荒く反射する光沢ある黒いバッグの中を、まるで洗濯機の様にかき混ぜながら、底に眠っていたスマホを掘り起こした。
「あぁ、お母さん? うん……多分だめだと思う……」
母親に面接の状況報告をしながら、大学へ行く道を選ばなかった過去の自分の決断を後悔する。
大学へ行ってもやりたい事など無かった彼女だったが、目の前の試練の苦痛から逃げれるならそれでいいとも感じていた。
その時、地下を這う電車の迫力が北風となって彼女の切り揃えられた前髪を巻き上げた。
「うん、電車来たから切るね。 また後でかけるね」
電車に乗り、クロスシート座席に座ると彼女は頭を窓ガラスに預けた。 その前髪越しに伝わるガラスの冷たさを感じながら、彼女は反射する自分を無心でただじっと見つめる。
綺麗に束ねられたポニーテールが揺れ続ける悪路の中、いつの間にか見つめていた自分もぼやけ、瞼を透過して流れる街の光も忘れ、彼女は眠ってしまっていた。
三十分程かかる帰路は、眠りについた者の主観で見れば一瞬であり、彼女は刹那の内に目を覚ましていた。
「あれ……何処だろ、ここ」
重い瞼を擦り、徐々に定まり出したぼやける積層の視野であたりを見渡すと、そこは見慣れたホームでは無かった。
周囲は霧で覆われ、ほとんど景色を確認できない状況だったが、起き上がった彼女の足下の真っ白な土とそこに広がる赤い草原が別物の景色であると理解させる。
これが明晰夢という奴だろうか、そんなことを考えながら親切な駅員が自分を起こしてくれるはずだとか思っていた。 しかし彼女を起こしたのは鼻を歪ませる腐乱臭だけであり、その異常なまでにリアルな異臭が彼女に現実を痛烈に叩き付ける
「あれ、スマホは?」
記憶の中ではほんの数秒前まで握っていたはずだったが、今はスマホどころかあのカバンさえ見当たらない。
スマホを探す最中、彼女はさらなる異変に気付く。
「何この服……」
彼女が着ていたのは、リクルートスーツではなく中世の農民のような荒い布地のシャツとズボンだった。
髪も降ろされ、長髪の黒髪が風になびく。 頭から足の先まで、何もかもが変わってしまっていたのだ。
「誰かいませんか!?」
数回そう叫んだが、霧の中から微かにでも聞こえる声は一つもなかった。
とうとう泣き出しそうな潤んだ眼を何とか堪えていたが、防波堤の決壊はもう間近だった。
赤い草原白い土の続く一本道を方角も分からぬまま彼女は歩いた。
長く続く道の途中から徐々に霧は薄くなり始め、ベールを抜けると彼女は絶句した。
「なによこれ……」
そこにあったのは、無数に横たわるドラゴンと巨人の死骸、さらにそれを覆う様に生える異様な植物だった。
植物は変色し、ひとりでに動く。 至る所に生えた木は弾力性のぷにぷにとした肉のような質感で、血管は浮き上がり、肌色やピンク色をした気色悪い細身の木だった。 へその緒のような管が無数に伸びており、その先からは花を芽吹かせうねうねと動く。 そんな管が何本も生えた肉の木だった。
18年の人生を積み上げた彼女でさえ、不安感と嫌悪感を抱かせる光景であり、松葉井レイナは泣くことも忘れ、一人息を荒げ取り乱すだけだった。
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