序列学園

あくがりたる

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虎狼の章

第49話 私に体術を教えてください

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 医務室のベッドの上でカンナは寝かせられていた。
 医務室にはここまで運んで来てくれた斑鳩いかるがと女医の御影みかげがいるだけだった。
 御影はカンナに近付き上着を脱がせ、シャツをめくろうとして斑鳩の方を見た。

「ねぇ斑鳩君。カンナちゃん脱がせるんだけど、まだそこにいるつもり?」

 御影は意地悪な言い方で斑鳩をからかった。

「出て行きます。後は宜しくお願いします。御影先生」

 斑鳩は御影に一礼すると医務室から出て行った。

「斑鳩君は紳士ね。カンナちゃんよくあんないい男捕まえられたわね。学園でもかなりの人気なのよ?」

「え!? いや、捕まえてないです! ただ同じクラスなだけです」

 カンナは御影が勘違いしているようなので首を振って否定した。

「そう……でもカンナちゃん、顔赤いのよね」

「え!? 違う! 違います! 多分あれです身体のダメージで熱が……」

 御影は目を細めてカンナを見詰めた。

「まぁいいわ。そのうち分かることだわ」

 そう言うと御影はカンナのシャツを胸の上まで捲った。カンナの下着を着けた胸があらわになった。

響音ことねちゃんと闘った後もあなたの身体を診たけど……カンナちゃんて凄く美乳よね。羨ましいわ」

「あのぉ……」

 御影がカンナの胸をしげしげと見て感想を述べたのでカンナは恥ずかしさで口を尖らせた。

「ごめんなさい、つい見とれてしまったわ。あらぁ……久壽居くすい君も酷いことするわ。左胸が腫れてるわね。……えっと……氣が使えないんだっけ?」

「……はい」

 御影の眉間の皺を見ながらカンナは小さく答えた。

「恐らくだけど、その氣を使う為のツボを突かれてるんじゃないかな? それがこの左胸、心臓の真上の腫れ」

「そうです。体内の氣の大元おおもとのツボ『鼓動穴こどうけつ』を突かれました」

「手足が動かない理由は身体中の打撲から来たダメージだと思うわ。骨には異常はなさそうだからそれは寝れば治るとして、氣については私は解らないわ。|栄枝さかえだ先生なら詳しいと思うから診てもらいましょうか。ちょっと呼んでくるわ」

 そう言うと御影はカンナから離れようとした。

「待ってください!」

 カンナは御影を呼び止めた。

「何? カンナちゃん」

 御影は振り返り尋ねた。

「氣は……暫く使えなくていいです。それに身体が動くようになれば自分で鼓動穴を突けますから」

 御影は意外そうな顔でカンナを見詰めていた。

「そう……カンナちゃんがいいって言うならそれでいいけど……」

 御影は胸の腫れに薬を塗り、今度は背中を向けさせ打撲の傷にも薬を塗った。

「私……久壽居さんに『氣』に頼り過ぎって言われたんです。だから暫くの間氣を使えない状態で自分の基礎体術だけを磨きたいんです。氣が使えたら…私また氣に頼ってしまうかもしれないし……」

 カンナは悔しさで顔を歪めた。
 御影は頷いた。

「分かったわ、カンナちゃん。それじゃあ今日はそこで休んでいきなさい。動けるようになったら勝手に帰っていいわよ。それにしても健気ね。そんなにボロボロになってまで上を目指すなんて」

「私は……体術で誰にも負けたくないんです!」

 その言葉に御影はニコリと微笑んだ。




 結局その日は医務室で寝てしまっていた。
 目が覚めた時には朝で医務室の窓から朝の日差しが射し込んでいた。
 カンナはゆっくりと上体を起こした。まだ背中を地面に叩き付けられた時の痛みがあるが動けるまでには回復していた。
 カンナが辺りを見回すと、御影が自分の机に突っ伏したままで眠っていた。一晩中付いていてくれたのだろう。
 カンナはベッドから降り、御影の横に近付くと気配を察知したのか御影はゆっくりと目を開けた。

「おはよーカンナちゃん……身体どう?」

 御影は机に突っ伏したまま欠伸をしながらカンナに話し掛けてきた。

「まだ少し痛いですが、もう動けるので大丈夫です。御影先生、ありがとうございました」

 カンナは深々と頭を下げて御影にお礼を述べた。

「お大事にねー」

 御影はカンナに手を振りながらまた眠りに堕ちた。
 カンナは少し微笑み、そして静かに部屋を後にした。




 久壽居はもう学園を去った後だった。
 そしてこれを機に学園を離脱した。
 生徒たちの序列の変動はない。5位以上の上位序列が離脱した際はその序列を空席のままにするようだ。つまり序列3位が空席となった。
 カンナは医務室からそのまま体得師範の重黒木じゅうくろきの部屋を訪れその事を聞かされた。

「どうした。久壽居に勝ち逃げされたのが不満か、澄川すみかわ

 カンナが寂しそうな目をしていたので重黒木が言った。

「いえ。ただ、せっかく知り合えたのにもう接点がなくなっちゃったなぁと思いまして」

「今度会う時にお前の体術で久壽居を倒してやったらどうだ? それが今のお前がやるべきことだと思うぞ」

「はい! もちろんそのつもりです!」

 カンナの決意していた想いを、重黒木は見透かしたように言った。
 重黒木は自分の深い椅子に座ったままカンナを見た。

「それで、俺に稽古を頼みに来たんだろ?」

「流石師範。お見通しでしたか」

 重黒木は無表情だった。いつも冷静で寡黙な男である。

篝気功掌かがりきこうしょうは『氣』を使うことで一撃必殺を可能にする。一撃で倒せる分、何十人何百人でも倒すことが出来る。では澄川。久壽居のような氣が効かぬ相手、若しくは篝気功掌の弱点を突いてくる相手の場合どうする?」

 カンナは重黒木の問に俯いた。

「正直、そんな相手が存在するとは思っていませんでした。でも久壽居さんと闘ってみて私が『氣』を使わなければ並の体術使い以下だと言うことを嫌というほど思い知らされました。悔しくて悔しくてたまりませんでした。だから私は、氣を使わずに己の体だけで闘う術を磨こうと思い、本日伺ったのです。重黒木師範。どうか私に稽古を付けてください!」

 カンナは深々と頭を下げた。
 重黒木は相変わらずの無表情でカンナを見ていた。

「氣を使わないということは、篝気功掌を捨てるということか?」

「違います!」

 重黒木の問にカンナは瞬時に否定した。

「『氣』と『たい』を極めてこそ篝気功掌の真髄。どちらも篝気功掌には必要不可欠なもの。私はまず、基本に還り『体』を極めようと思いました。今私は『鼓動穴』というツボを突かれていて氣を使えません」

「なるほどな。ようやくお前は篝気功掌に向き合う気になったということか。良かろう。体術は教えてやる。『氣』については俺は分からんぞ?」

「体術を教えて頂ければそれで十分です! 私に体術の基本から教えてください!」

 これまで体術なら誰にも負けないと思ってきた。父以外の者に体術で負けたことはなかった。しかし、久壽居には全く歯が立たずに負けた。悔しさで涙が溢れた。もうそんな思いはしたくない。

 ──体術では絶対に負けない──

 その想いはもう崩したくない。その為ならつまらないプライドなど捨ててやる。

 ──私に体術を教えてください──

 今なら言える。この言葉。自分は弱かった。強くなりたい。
 カンナの真剣な眼差しに重黒木は頷いた。

「澄川。だが今日はもう少し休め。稽古は明日からだ。そんな身体では俺の稽古には耐えられん。明日の朝、学園の体術訓練場に来い。明日からは授業があるからその前に付き合ってやる」

「わかりました。師範」

 カンナは一礼し部屋を出た。
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