序列学園

あくがりたる

文字の大きさ
50 / 137
虎狼の章

第50話 闇に舞う赤い花びら

しおりを挟む
****

 
 舞冬まふゆ割天風かつてんぷうの執務室の天井裏に侵入していた。
 隠密で動くのは身軽で素早い舞冬にとっては得意中の得意だった。しかし、得意武器の方天戟ほうてんげきだけは大き過ぎて隠密行動には向かない為腰に挿した短刀だけを持って行動する。
 割天風と言えど、気配を殺す事に長けた舞冬の気配は感じ取ることは出来ないはずだ。
 舞冬は息を潜め天井の板の隙間から割天風の様子を窺った。
 外は日が沈んで間もなく、部屋にはランプのあかりともってゆらゆらと割天風の影を揺らしていた。
 割天風は何やら資料を見ているようだが内容までは見る事が出来ない。

「なかなか思うようにはいかんのぉ。久壽居が抜けた今使えるのは瞬花しゅんかとまりかくらいじゃのぉ」

 割天風の部屋には今他に人はいない。
 独り言。
 舞冬は首を傾げた。
 今の言葉はどういう意味だろう。
 すると部屋に誰かが入って来た。
 腰に2本の刀を佩いた女。畦地あぜちまりかだ。
 舞冬はまりかの動向も注意深く見た。
 しかし、まりかは部屋に入ると割天風の前で立ち止まり動かなくなってしまった。
 舞冬は息を呑んだ。

「総帥……」

 まりかが静かに言った。
 割天風は何も言わず手に持っていた資料を机の上に置いた。

「何人だ」

「1人」

 舞冬はまさかと思った。
 その時まりかが急に天井裏に隠れていて見えないはずの舞冬の方を見た。
 目が蒼く光っている。

 ────神眼しんがん!?────

 まりかは微笑んでいる。
 舞冬は舌打ちをしてすぐに天井裏から脱出し割天風の執務室から離れた。

「殺すなよ、まりか」

「殺しちゃうかもです」

 まりかは笑顔で部屋を出た。



 辺りは日も沈んだ暗闇である。
 舞冬は走った。
 怖くなった。
 割天風の言葉の意味は解らない。しかし良くない事だという事は何故だか感じた。
 そして何より畦地まりかに盗み聴きしていた事がバレた。
 舞冬はとにかく走った。近くの木立こだちに逃げ込んだ。とりあえずここで騒ぎが起こるかどうか様子を見よう。
 舞冬は呼吸を整える為深呼吸をした。

「舞冬。逃げ切ったつもりなのー?」

 舞冬の首元にはやいばが突き付けられていた。
 いつの間に背後を取られたのだろうか。
 舞冬は背筋が凍った。

「畦地まりか……!!」

「はーあーい?」

 まりかはいつも通り舐めた返事を返して来た。

「私を……殺すの?」

 背後にいるまりかに問い掛けた。

「そうしたいんだけど、総帥が殺すなってさぁ。私あなた嫌いだから殺してもいいんだけどさ」

 まりかは舞冬の首に刀を押し付けてきた。

「総帥は何を企んでるの!?」

「本当にあなたって馬鹿よね! 教えるわけないじゃない。詮索しなければ平和に暮らせたのにね。どいつもこいつも」

「斑鳩さんのこと!?」

「あら。そこまで気付いてるんだ。やっぱり、殺しちゃうかな!!」

 舞冬の首に突き付けられた刀が動く瞬間、舞冬は身を屈め、まりかの脇腹に肘を入れて吹き飛ばした。

「うっ!?」

 舞冬はすぐに反転し逃げ去った。

「待ちなさい!!! 臆病者!!! 私に手を出して……!! 絶対殺す!!!」

 舞冬は一心不乱に走った。
 逃げているうちに森の奥へ奥へと入って行った。
 後ろからはまりかが追って来ている。
 逃げなければ……殺される。
 足場が悪い森の中を必死に走り抜ける。
 追い掛けてくるまりかは笑っていた。
 狂っている。
 目の前が拓けた。
 海が見える。
 東の岩壁。
 とうとう追い詰められた。

「そうねぇ。1つだけ、あなたが助かる方法を教えてあげるわ」

 行く手を阻む海を見て次の手を考えていた舞冬の背後からまりかがにこにこしながら近付いてきた。

「舞冬。私の奴隷になりなさい」

「は?」

「私に忠誠を誓うなら命だけは助けてあげる。どうする? 死ぬ? ひざまずく?」

「私があなたの足の指の間でも舐めればいいの?」

「そこまで指定はしてないけど、まぁそんなところね」

「とんだ変態さんなのね、まりかさん。可愛い顔して気持ち悪いわ」

 舞冬は両手を広げ首を振った。

「そう……あなたに変態と言われるなんて夢にも思わなかったわ。じゃああなたはただでは殺さずにすんごく苦しめていたぶってあげる。私、変態だから」

 まりかは言い終わらぬうちに舞冬に斬りかかった。
 舞冬は腰の短刀を抜き刀を受けた。
 まりかの1本の刀を弾いてもまた別のもう1本が襲って来る。
 舞冬は素早い身のこなしでまりかの二刀流を受けていく。

「まさかとは思うけど、剣で私を倒せると思ってないわよね? ってか、響音のクズに102回も負けてる時点で私に勝てるわけないじゃないの」

 舞冬の後ろ回し蹴りがまりかの左肩に当たった。まりかは少しバランスを崩したがすぐに体制を立て直した。

「響音さんを馬鹿にしないでよ!」

 舞冬はまりかの2本の刀を上手く弾きつつまりかの腹に蹴りを入れた。
 まりかは僅かによろめいただけだった。

「あーー!! もーーー!! 痛い!! ムカつく!!」

 まりかが苛立って叫んだ。
 舞冬が斬込む。
 しかしまりかの身体に舞冬のやいばは届かない。

 ────方天戟ほうてんげきさえあれば────

「方天戟さえあれば?」

 舞冬は心の中で思った事を言い当てられ動揺した。
 まりかの眼は不気味な紋様を浮かべ蒼く光っている。

「方天戟さえあれば私に勝てたかも? って?」

 まりかは舞冬の身体に蹴りを入れた。
 舞冬がよろめいた。

「無理に……決まってんでしょおおおがぁぁぁあ!!!」

 バランスを崩した舞冬にまりかが怒声を上げながら2本の刀を振った。
 舞冬の身体からは鮮血。宵闇に不気味に舞った。
 僅かに後ろに跳んで躱した筈だった。しかしその行動が自ら地面のない場所へと跳んだ事を舞冬は自分の舞い散る赤い花びらのような血を見ながら悟った。

「あなたは血を吹き上げる姿がお似合いね。舞冬」

 舞冬の視界はまりかの笑顔を捉えそして真っ暗な空へ……。

「しくじっちゃったな……」

 呟いた舞冬は誰も探しに来ないであろう真っ暗な海に落ち、そして沈んでいった。

****
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...