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地獄怪僧の章
第68話 巨獣の襲撃
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まだ昼間だというのに、鬱蒼と生い茂る木々のせいで辺りは薄暗く不気味な山道だった。
馬蹄だけが無音の山道に虚しく響いていた。
小隊のメンバーは皆その鬱々とした雰囲気に呑まれ一言も口を効かない。
カンナは先頭で響華を駆けさせてはいるが同じような景色の続く薄暗い山道に恐怖を覚えていた。
本当にこの道で合っているのか。一度地図で確認した道を走っているつもりではあるが、もし間違った道を走っていたら 引き返すことも出来ないだろう。そうこうしている間に光希が解寧の依代にされてしまうかもしれない。
カンナの手綱を握る手は汗でびっしょりだった。
「おい、カンナ。この道で本当に合ってるのか?」
燈の声が恐怖に支配されかけたカンナを現実に引き戻した。しかし、その問はカンナにとって自信のない返答しか出来ないものだった。
「う、うん」
カンナ後ろを走る燈に弱々しく答えた。
燈は明らかにカンナを疑っている目をしていた。
燈の大きな溜息が聴こえた。
カンナはその溜息は聴こえない振りをして前へ駆け続けるしかなかった。
「一旦止まろ」
響き続ける馬蹄を止めたのはつかさの声だった。
つかさは馬を降り燈に近付いた。
「火箸さん、カンナがどんな気持ちで先頭を走っているか分かりますか?」
「はぁ?」
燈は突然のつかさの質問に首をかしげた。
「つかさ? どうしたの? 急に」
カンナの呼びかけにつかさは答えず燈を睨み付けた。
「慈縛殿への道のりは宿で全員で一度確認しました。その通りにカンナは走っています。でも実際に足を踏み入れたらこの山はどこもかしこも同じ風景。私も不安だし、火箸さんも不安ですよね?」
「あぁそうだな。本当にこの道で合ってるのか。さっきから同じ所を走っているようでイラついてたんだよ」
カンナは茉里の方を見た。
黙ってつかさと燈の話を聴いていた。
「一番不安なのはカンナですよ。ずっと先頭で知らない山道を私達を先導して走ってくれてるんです。それなのにカンナを疑うような態度、溜息。そういうの、やめてもらえますか?」
カンナはつかさが何故一度全員を止めたのかようやく理解した。カンナを庇ってくれたのだ。
「火箸さん。あなたはチームの一員なんです。自分の事だけ考えるのはやめてください」
つかさの言葉は力強く、カンナの胸を打った。
燈は表情を消した。
「お前は、カンナの事ばかりだな」
「え?」
燈の言葉につかさは戸惑いの表情を見せた。そのつかさの表情は初めて見る。
「確かに、あたしは自分の事ばかりしか考えないで気持ちを表に出してしまうことがある。それは分かってる。直さなくちゃいけないことだとも思ってる。だから、さっきの態度は悪かったよ、カンナ。ごめんな」
燈は素直に謝罪の言葉を述べた。
つかさは素直過ぎる燈に言葉を失っていた。
「だけどな、つかさ。あたしからも言わせてもらうけど、お前はカンナの事ばっかりだ。別にそれが悪い事とは言わない。けど、それが今後この”チーム”に支障をきたさなければいいけどな」
燈が言った事がカンナはいまいちピンと来なかった。自分はいつもつかさは正しくて優しい友達だと思っていた。少し短気だが、それ以外は欠点のない完璧な人間だと思っていた。だから燈の言葉にカンナは心の中が掻き回されたような気持ちになった。
つかさは何も言い返せず立ち尽くしていた。
「あら、どうやら囲まれてしまったみたいですわね」
茉里が右手に弓懸を付けながら言った。
カンナもすぐに氣を放ち辺りを調べた。
「獣。人じゃない。数は……12」
つかさと燈も武器を構えた。
「よし、それじゃあこの”戒紅灼”の試し斬りをさせてもらおうか」
燈は背中に背負っていた戒紅灼を抜き放った。その瞬間、茂みから1頭の3メートルはあろうかという巨大な獣が燈目掛けて飛び掛って来た。
燈は咄嗟に戒紅灼をその獣の左脇の所から右へ振った。
その獣は両断され上半身だけ燈の後ろへ突っ込み地面に落ちた。
「なんて切れ味だよこれ!」
燈は興奮して戒紅灼の刀身を見た。
刀身に付いた血は刀身が発する熱で数秒で蒸発してしまった。
茂みからは1頭目が殺されたのを皮切りに1頭、また1頭と大きな獣が姿を現しこちらの様子を窺っている。
「狼……? にしては随分と大きいですわね。これが、青龍山脈の怪物ってことですわね」
茉里が弓に矢を番えながら言った。
「カンナ、下がってて、私達が片付ける!」
つかさはカンナの前に出て真っ赤な棒を構えた。
あの巨大な獣にあんな細いただの棒が通用するとは正直思えなかった。しかし、つかさはかつて、巨大な熊をあの棒で仕留めている。
獣の唸り声が聴こえる。
その口からは大きな牙が剥き出しになっており涎を滴らせていた。
そして大きな爪。人間如きの身体なら一瞬でバラバラにされてしまうだろう。
「おらおら! かかって来いよ! 犬畜生がぁぁ!!」
燈の大声に呼応するかのように狼達は一斉に襲い掛かってきた。
つかさの方に2頭。
つかさは1頭目の噛み付きをひらりと躱し、前脚に棒を打ち込む。そして2頭目の噛み付きも躱し回転しながら2頭目の横っ面に棒を叩き込んだ。打ち込まれた狼の牙は見事に打ち砕かれ花びらのように宙を舞った。
怯んで倒れた2頭目の頭に飛び乗り、つかさは脚を高く上げまた棒と共に回転。その勢いで棒を牙のない狼のこめかみに打ち込む。
「破軍棒術・崩頭鬼!」
こめかみを叩かれた狼は横に崩れるように倒れ絶命した。
すぐにもう1頭の前脚を打たれた狼がつかさに襲い掛かった。
つかさはまた噛み付きを交わし回転し跳躍。片脚を高く上げまたこめかみに棒を打ち付けた。
狼はよろよろとふらつき地面に崩れた。
つかさに襲い掛かった2頭の巨大な狼は僅か数十秒で沈黙した。
カンナはつかさの圧倒的な棒術の強さに心を奪われた。
その間にも戒紅灼を振り回す燈は馬に乗ったまま4頭もの巨大な狼を切り捨てていた。
「可哀想だからなるべく苦しまないように眠らせてあげますわ」
茉里は弓を構え弦を引き絞ると次から次へと迷わず矢を放っていった。
視認出来ていた3頭の眉間には矢が付きたってその場に崩れ落ちた。
茉里はさらに茂みの中でちらりと見えた2頭の狼にも矢を放った。
その狼は茂みからゆっくりと出て来て2頭とも眉間に矢を立てたままうめき声を上げて倒れてしまった。
カンナは何もせずにただ3人の闘いぶりを見ていただけだったが、周りには感知した12頭の巨大な狼が秒殺され倒れていた。
「終わったぜ、隊長。行こうか」
燈はほんの少しだけ獣の返り血を浴びているだけだった。切り捨てられた狼達の切断された身体は傷口が焼けてしまい血がそれほど出ていなかった。
「カンナ、怪我はない?」
つかさは馬に跨り、カンナに近付き怪我の心配をしてくれた。
「大丈夫だよ、ありがとうつかさ。つかさこそ怪我はないの? 後醍院さんも燈も」
「あたしは無傷だよ」
「わたくしも問題ありませんわ」
燈と茉里はいつも通りに余裕な表情で答えた。
「私も大丈夫」
つかさも大丈夫そうだ。
「私、3人が一緒で本当に心強いよ。必ずこの4人で光希を助け出そう!!」
カンナの言葉につかさ、燈、茉里は声をそろえて応えた。
4人はまた不気味な山道を馬で駆け始めた。
****
鬱蒼と生い茂る木々の山道も青幻の斥候部隊の2番手である単興にとっては庭のようなものだった。
青龍山脈の蔡王と瀋王の元へは単興が毎回行き来をして連絡を取っている。青幻の麾下で最も青龍山脈に詳しいのは自分だと思っていた。例え日が沈んでしまっても迷うことはないだろう。
単興は蔡王・瀋王兄弟の元へと抜け道を駆使して早々に到着した。途中で”狼獄”という巨大な狼の群れに出くわしたが何度も青龍山脈を行き来する単興は襲われる事はなかった。
薄暗い山道は突然拓けた場所に出た。木材だけで強固に作られた巨大な砦が目の前に現れた。
”蔡王の城”。そう呼ばれている場所だ。ここには蔡王が古くから独自の軍隊を従え住み着いていた。瀋王はまた別の場所に砦を構えている。兄弟といえど共にいるわけではないのだ。
単興が砦の入口に馬を寄せると、すぐに蔡王の部下に中へ案内された。
部下は蔡王のいる広間に単興を連れて来た。
「何の用だ、単興」
蔡王は王と名乗るだけあって煌びやかな衣装と装飾品を身に纏っており、美しささえ感じる顎髭を右手で撫でながら少し高い位置にある玉座に堂々と座っていた。その身体は鍛え抜かれていることが一目で分かるほど屈強である。
「青幻様から書状を預かって参りました」
単興は懐から青幻の直筆の書状を差し出すと、近くにいた蔡王の部下がそれを受け取り、蔡王へと渡しに行った。
蔡王は書状を読み終わると玉座の肘置きに片肘を置いた。
「学園の生徒4人を潰す為にわざわざ儂の軍隊を動かせだと?」
蔡王が苛立ったのはすぐに分かった。
「学園の生徒はあの割天風が鍛えた者達です」
「しかし所詮は4人なのだろ? そんなに重要な事なら青幻が自分でやれば良い。それか瀋王にでも頼んでおけ」
蔡王は頑なに軍隊を出すことを拒んだ。
「その4人の中には珍しい武術の使い手がおりまして……」
「何? 珍しい武術じゃと?」
かかった。単興は表情を変えないように心の中でしめしめと思った。
「篝気功掌と御堂筋弓術です」
蔡王はその武術の名を聞いて目の色を変えた。
「その2つの武術は、使い手が全員殺されたと聞いたが……まさか生き残りがいたのか!?」
「恐らく、割天風がその者達を学園で養っているのはその希少価値が故でしょうな。ああ、蔡王様。この件は瀋王様に頼めばよかったのでしたか?」
単興の言葉に蔡王はいきなり立ち上がった。
「瀋王には知らせなくて良い。犀獄部隊を出す!」
蔡王の命令に周りの部下達は一斉に動き始めた。
「有難うございます。蔡王様」
単興は一礼すると勝手に広間を出て行った。
しかし蔡王はもう単興を見ていなかった。
馬蹄だけが無音の山道に虚しく響いていた。
小隊のメンバーは皆その鬱々とした雰囲気に呑まれ一言も口を効かない。
カンナは先頭で響華を駆けさせてはいるが同じような景色の続く薄暗い山道に恐怖を覚えていた。
本当にこの道で合っているのか。一度地図で確認した道を走っているつもりではあるが、もし間違った道を走っていたら 引き返すことも出来ないだろう。そうこうしている間に光希が解寧の依代にされてしまうかもしれない。
カンナの手綱を握る手は汗でびっしょりだった。
「おい、カンナ。この道で本当に合ってるのか?」
燈の声が恐怖に支配されかけたカンナを現実に引き戻した。しかし、その問はカンナにとって自信のない返答しか出来ないものだった。
「う、うん」
カンナ後ろを走る燈に弱々しく答えた。
燈は明らかにカンナを疑っている目をしていた。
燈の大きな溜息が聴こえた。
カンナはその溜息は聴こえない振りをして前へ駆け続けるしかなかった。
「一旦止まろ」
響き続ける馬蹄を止めたのはつかさの声だった。
つかさは馬を降り燈に近付いた。
「火箸さん、カンナがどんな気持ちで先頭を走っているか分かりますか?」
「はぁ?」
燈は突然のつかさの質問に首をかしげた。
「つかさ? どうしたの? 急に」
カンナの呼びかけにつかさは答えず燈を睨み付けた。
「慈縛殿への道のりは宿で全員で一度確認しました。その通りにカンナは走っています。でも実際に足を踏み入れたらこの山はどこもかしこも同じ風景。私も不安だし、火箸さんも不安ですよね?」
「あぁそうだな。本当にこの道で合ってるのか。さっきから同じ所を走っているようでイラついてたんだよ」
カンナは茉里の方を見た。
黙ってつかさと燈の話を聴いていた。
「一番不安なのはカンナですよ。ずっと先頭で知らない山道を私達を先導して走ってくれてるんです。それなのにカンナを疑うような態度、溜息。そういうの、やめてもらえますか?」
カンナはつかさが何故一度全員を止めたのかようやく理解した。カンナを庇ってくれたのだ。
「火箸さん。あなたはチームの一員なんです。自分の事だけ考えるのはやめてください」
つかさの言葉は力強く、カンナの胸を打った。
燈は表情を消した。
「お前は、カンナの事ばかりだな」
「え?」
燈の言葉につかさは戸惑いの表情を見せた。そのつかさの表情は初めて見る。
「確かに、あたしは自分の事ばかりしか考えないで気持ちを表に出してしまうことがある。それは分かってる。直さなくちゃいけないことだとも思ってる。だから、さっきの態度は悪かったよ、カンナ。ごめんな」
燈は素直に謝罪の言葉を述べた。
つかさは素直過ぎる燈に言葉を失っていた。
「だけどな、つかさ。あたしからも言わせてもらうけど、お前はカンナの事ばっかりだ。別にそれが悪い事とは言わない。けど、それが今後この”チーム”に支障をきたさなければいいけどな」
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「よし、それじゃあこの”戒紅灼”の試し斬りをさせてもらおうか」
燈は背中に背負っていた戒紅灼を抜き放った。その瞬間、茂みから1頭の3メートルはあろうかという巨大な獣が燈目掛けて飛び掛って来た。
燈は咄嗟に戒紅灼をその獣の左脇の所から右へ振った。
その獣は両断され上半身だけ燈の後ろへ突っ込み地面に落ちた。
「なんて切れ味だよこれ!」
燈は興奮して戒紅灼の刀身を見た。
刀身に付いた血は刀身が発する熱で数秒で蒸発してしまった。
茂みからは1頭目が殺されたのを皮切りに1頭、また1頭と大きな獣が姿を現しこちらの様子を窺っている。
「狼……? にしては随分と大きいですわね。これが、青龍山脈の怪物ってことですわね」
茉里が弓に矢を番えながら言った。
「カンナ、下がってて、私達が片付ける!」
つかさはカンナの前に出て真っ赤な棒を構えた。
あの巨大な獣にあんな細いただの棒が通用するとは正直思えなかった。しかし、つかさはかつて、巨大な熊をあの棒で仕留めている。
獣の唸り声が聴こえる。
その口からは大きな牙が剥き出しになっており涎を滴らせていた。
そして大きな爪。人間如きの身体なら一瞬でバラバラにされてしまうだろう。
「おらおら! かかって来いよ! 犬畜生がぁぁ!!」
燈の大声に呼応するかのように狼達は一斉に襲い掛かってきた。
つかさの方に2頭。
つかさは1頭目の噛み付きをひらりと躱し、前脚に棒を打ち込む。そして2頭目の噛み付きも躱し回転しながら2頭目の横っ面に棒を叩き込んだ。打ち込まれた狼の牙は見事に打ち砕かれ花びらのように宙を舞った。
怯んで倒れた2頭目の頭に飛び乗り、つかさは脚を高く上げまた棒と共に回転。その勢いで棒を牙のない狼のこめかみに打ち込む。
「破軍棒術・崩頭鬼!」
こめかみを叩かれた狼は横に崩れるように倒れ絶命した。
すぐにもう1頭の前脚を打たれた狼がつかさに襲い掛かった。
つかさはまた噛み付きを交わし回転し跳躍。片脚を高く上げまたこめかみに棒を打ち付けた。
狼はよろよろとふらつき地面に崩れた。
つかさに襲い掛かった2頭の巨大な狼は僅か数十秒で沈黙した。
カンナはつかさの圧倒的な棒術の強さに心を奪われた。
その間にも戒紅灼を振り回す燈は馬に乗ったまま4頭もの巨大な狼を切り捨てていた。
「可哀想だからなるべく苦しまないように眠らせてあげますわ」
茉里は弓を構え弦を引き絞ると次から次へと迷わず矢を放っていった。
視認出来ていた3頭の眉間には矢が付きたってその場に崩れ落ちた。
茉里はさらに茂みの中でちらりと見えた2頭の狼にも矢を放った。
その狼は茂みからゆっくりと出て来て2頭とも眉間に矢を立てたままうめき声を上げて倒れてしまった。
カンナは何もせずにただ3人の闘いぶりを見ていただけだったが、周りには感知した12頭の巨大な狼が秒殺され倒れていた。
「終わったぜ、隊長。行こうか」
燈はほんの少しだけ獣の返り血を浴びているだけだった。切り捨てられた狼達の切断された身体は傷口が焼けてしまい血がそれほど出ていなかった。
「カンナ、怪我はない?」
つかさは馬に跨り、カンナに近付き怪我の心配をしてくれた。
「大丈夫だよ、ありがとうつかさ。つかさこそ怪我はないの? 後醍院さんも燈も」
「あたしは無傷だよ」
「わたくしも問題ありませんわ」
燈と茉里はいつも通りに余裕な表情で答えた。
「私も大丈夫」
つかさも大丈夫そうだ。
「私、3人が一緒で本当に心強いよ。必ずこの4人で光希を助け出そう!!」
カンナの言葉につかさ、燈、茉里は声をそろえて応えた。
4人はまた不気味な山道を馬で駆け始めた。
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鬱蒼と生い茂る木々の山道も青幻の斥候部隊の2番手である単興にとっては庭のようなものだった。
青龍山脈の蔡王と瀋王の元へは単興が毎回行き来をして連絡を取っている。青幻の麾下で最も青龍山脈に詳しいのは自分だと思っていた。例え日が沈んでしまっても迷うことはないだろう。
単興は蔡王・瀋王兄弟の元へと抜け道を駆使して早々に到着した。途中で”狼獄”という巨大な狼の群れに出くわしたが何度も青龍山脈を行き来する単興は襲われる事はなかった。
薄暗い山道は突然拓けた場所に出た。木材だけで強固に作られた巨大な砦が目の前に現れた。
”蔡王の城”。そう呼ばれている場所だ。ここには蔡王が古くから独自の軍隊を従え住み着いていた。瀋王はまた別の場所に砦を構えている。兄弟といえど共にいるわけではないのだ。
単興が砦の入口に馬を寄せると、すぐに蔡王の部下に中へ案内された。
部下は蔡王のいる広間に単興を連れて来た。
「何の用だ、単興」
蔡王は王と名乗るだけあって煌びやかな衣装と装飾品を身に纏っており、美しささえ感じる顎髭を右手で撫でながら少し高い位置にある玉座に堂々と座っていた。その身体は鍛え抜かれていることが一目で分かるほど屈強である。
「青幻様から書状を預かって参りました」
単興は懐から青幻の直筆の書状を差し出すと、近くにいた蔡王の部下がそれを受け取り、蔡王へと渡しに行った。
蔡王は書状を読み終わると玉座の肘置きに片肘を置いた。
「学園の生徒4人を潰す為にわざわざ儂の軍隊を動かせだと?」
蔡王が苛立ったのはすぐに分かった。
「学園の生徒はあの割天風が鍛えた者達です」
「しかし所詮は4人なのだろ? そんなに重要な事なら青幻が自分でやれば良い。それか瀋王にでも頼んでおけ」
蔡王は頑なに軍隊を出すことを拒んだ。
「その4人の中には珍しい武術の使い手がおりまして……」
「何? 珍しい武術じゃと?」
かかった。単興は表情を変えないように心の中でしめしめと思った。
「篝気功掌と御堂筋弓術です」
蔡王はその武術の名を聞いて目の色を変えた。
「その2つの武術は、使い手が全員殺されたと聞いたが……まさか生き残りがいたのか!?」
「恐らく、割天風がその者達を学園で養っているのはその希少価値が故でしょうな。ああ、蔡王様。この件は瀋王様に頼めばよかったのでしたか?」
単興の言葉に蔡王はいきなり立ち上がった。
「瀋王には知らせなくて良い。犀獄部隊を出す!」
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