序列学園

あくがりたる

文字の大きさ
94 / 137
学園戦争の章《起》

第94話~開戦~

しおりを挟む
    馬で駆ければ学園内の御影みかげの部屋へは数分だ。
 カンナ、つかさ、光希みつきの3人は御影達と合流する為、御影の部屋へとやって来た。
 つかさが部屋の扉をノックした。

「どうぞ~、開いてるわよ~」

 まりかの声が聴こえたので扉を開け中に入った。
 カンナの視線は真っ先に斑鳩いかるがを見つけた。斑鳩は相変わらずの美しい顔立ちと雰囲気でカンナを心から魅了した。

「斑鳩さん、おはようございます。あの、御影先生は?」

 カンナはベッドに座っているまりかには目もくれず斑鳩にだけ話し掛けた。

「御影先生なら医務室に行ったぞ。あの人もちゃんと仕事に行かなきゃならいからな」

 斑鳩は優しく教えてくれた。

「カーンナーちゃーん!  私にも挨拶してよ~!  おはよ!」

 まりかの言葉をカンナは無視した。

「あのさ、カンナちゃん。許してもらえないのは分かってるけど、一言言わせてね」

 カンナは振り向きもせず耳だけ傾けた。また暴言でも吐くのかと思った。

「ごめんなさい」

 まりかの突然の謝罪にカンナは思わず振り向いた。
 まりかの目は確かに悪意はない。氣も穏やかだ。

「私は、あなたを許す事は出来ません。でも、復讐はしません。意味はないですから。ただ、仲良くは出来ないと思います。あなたの事を見ると、あなたが水音みおを殺した時の事を思い出してしまうから……。光希も同じ気持ちだと思います」

 光希は頷いた。

「カンナ……」

 つかさがカンナを見て呟いた。
 まりかは何とも言えない表情でカンナを見ていた。

「そうよね、あなたの友達を殺したんだもんね。私」

「あなたは罪を償ってください。例え学園の命令でやった事だとしても、あなたの感情は確かにそこに介在していた。殺したいという感情が。あなたは人を殺す事を楽しんでいましたよね??  水音の時もそうだった。舞冬まふゆさんの時もそうなんでしょ!?」

 カンナは言いながら感情が昂り涙を流している事に気が付いた。つかさも光希も斑鳩もカンナの涙を静かに見守った。光希の目にも涙が光っていた。

「罪を償う……本当なら、死罪になって然るべき。なのに、こうして生かして貰っている」

 まりかが何か決意したような顔をして一度言葉を止めた。
 突然、低い笛のような音が近くで鳴り響いた。

「角笛!?」

 つかさがその音の正体にいち早く気付いた。
 部屋の周りを2騎の馬が駆け回っているようだ。そのうちの1人が角笛を吹いていた。
 カンナとつかさと光希の3人が窓に近寄りブラインドを少しずらしてその2騎が誰なのか確認した。

「あれは……逢山あやま君と扶桑ふそう君じゃない?」

「うん、そう」

 つかさが2人の生徒の名を言うと光希が頷いた。

「序列33位、逢山東儀あやまとうぎと序列35位、扶桑匠登ふそうたくと。剣特の落ちこぼれ男子が何を騒いでいるのかしら?」

 まりかは2人の名を聞いても特に動じず序列まで丁寧に説明してくれた。

「俺達反逆者がここにいるって事がバレたんだろ?  遅かれ早かれ見付かるとは思っていたが、こうも早いとはな」

 斑鳩が立ち上がった。

「角笛を吹かれてるって事はほかの生徒に場所を知らせているって事よね。あの2人を速攻ぶっ倒して合流されるのを防ぎましょうか」

 つかさの豪天棒ごうてんぼうを握る手に力が入った。

「待って、御影先生の部屋にいるって事がバレたって事は御影先生自身も疑われるんじゃ!!」

「俺が行こう。澄川、斉宮いつきたかむら、お前達はここに待機。俺は外の2人を黙らせたらそのまま御影先生と合流してくる」

 斑鳩が上着を羽織り腰に闘玉とうぎょくを仕込んだポーチを着けた。

「いくらなんでも1人じゃ危険ですよ。カンナと私も一緒に行きます!  光希ちゃんはここでまりかさんを」

「駄目だ。畦地あぜちを篁1人に任せるのか?  俺は1人で大丈夫だ」

「あら?  私は逃げたり裏切ったりしないわよ。右手は使えないけど、ここにあなた達反逆者以外の生徒が来たらぶっ飛ばせばいいんでしょ?  脚の矢傷も心配ないわよ。神眼があれば余裕よ」

 カンナ達は目を丸くしてまりかを見た。

「何よ?  あなた達に捕まった時点で私は学園に見捨てられたわよ。どうせ私もあなた達共々反逆者認定を受けてるでしょうし。こうなったらあなた達に力を貸すわ。そして、この争いが集結した時、私はここから去り、響音ことねさんを探す」

 まりかが反逆者として制裁の対象になっている事はまだ伝えていなかったがどうやら全て悟っているようだ。

「響音さんを探す?」

 カンナが聞いた。

「あの人にも謝ってこないと、死んでも死にきれないわ。別に伽灼かやに言われたからじゃないわよ?  私の意思だからね?」

 まりかはとても穏やかな表情で言った。

「そうか。畦地も闘えるんなら安心だな。それじゃあ、澄川、一緒に来い。斉宮と篁は畦地と待機。いいな」

「え……!?」

 つかさはその命令に顔が曇った。

「わ、私はカンナと一緒に」

「駄目だ。斉宮、お前はここにいてくれ。お前には畦地と篁の2人を守って欲しい」

「いや、だから私は大丈夫だって」

 斑鳩はまりかの傍に近付き、まりかの包帯が巻かれた右腕をそっと掴んだ。

「お前は負傷してるんだ。この後ここに、影清かげきよさんや美濃口みのぐちさんが来たらどうするんだ?  響音さんに謝るんだろ?  それまでは生きててもらわなきゃいけないからな」

「う、うん」

 まりかは頬を染め斑鳩の真剣な瞳を見詰めていた。
 カンナは少しムッとして斑鳩とまりかから目を逸らした。ふとつかさを見るとつかさは納得のいかないという表情をしていた。

「頼んだぞ、斉宮、篁」

「はい」

 光希は素直に返事をしたが、つかさはとても不服そうだった。光希はつかさの事を静かに見ていた。

「つかさ、御影先生と合流したらすぐ戻るからさ」

「うん。カンナ。気を付けてね」

 つかさの言葉に笑顔で頷くと斑鳩と共に部屋の外に出て行った。



「やっぱりあの馬、澄川さんのだったんだな。斑鳩さんもいるのは予想外だったけどよ」

 馬上の逢山東儀が角笛を口から放して言った。
 どうやら部屋の後ろに繋いでいた愛馬の響華きょうかを見て気付かれてしまったらしい。

「邪魔をするなお前達。怪我したくなかったらさっさと消えろ」

 斑鳩が闘玉の入ったポーチに手を突っ込んで逢山と扶桑の動きを見た。
 カンナも少し様子を見る事にした。

「まぁ、俺達じゃあんた達に勝てないから手は出さないぜ。代わりに援軍を呼んだからすぐにここがばれる。あんた達こそ、怪我したくなかったら俺達と一緒に総帥の所に行こうぜ」

 モヒカンのような髪型の強面の逢山はニヤニヤとしながら言った。隣の扶桑は特に何も喋らない。2人ともとても若く見える。
 カンナは斑鳩を見た。身体中包帯が巻かれていて完全には怪我は治っていないだろう。

「斑鳩さん、大丈夫ですか?  ここは私が」

 カンナが声を掛けた時には逢山と扶桑は馬から落ちていた。

「大丈夫だ、殺してはいない。こいつらも学園の指示通り動いてるだけだろう。従わなければ俺達と同じ反逆者だからな。行くぞ、澄川」

 斑鳩は馬の腹を蹴った。カンナも響華の腹を蹴った。逢山と扶桑が倒れている横を通り過ぎる時、普段斑鳩が使う大きさの闘玉より遥かに大きな闘玉が2つ転がっているのを見た。なるほど、玉の大きさと投擲の際の力加減で殺すか生かすかを調節したのだろう。
 カンナは斑鳩の隣に並んで駆けた。
 斑鳩の横顔はとても勇ましく見えた。




 角笛の音が聴こえた。
 千里せんりは矢を蔦浜つたはまに向けたまま辺りを見回した。
 キナもキョロキョロとしている。
 すると千里とキナの後ろから馬に乗った茉里まつりが1騎で駆けて来た。

新居にいさん!  こんなところにいたのですね。先程大講堂で集会がありまして総帥が反逆者を見付けたら角笛を吹けと仰られましたの」

「じゃあ、今の角笛は」

「ええ、反逆者が見付かったのですわ。さ、早くこちらに乗ってください」

 茉里は千里を自分の馬に乗せ、すぐにその場から駆け去ってしまった。
 残された御影、蔦浜、キナは気まずそうに顔を見合わせた。

「置いていかれたな、かかえ

 蔦浜が苦笑しながら言った。

「ま、まあ、いいさ。私は一応、お前を見張る事にするよ、蔦浜」

 そのキナの言葉に蔦浜は顔を歪めた。

「お前はさ、俺の事好き過ぎんだろ。監視するつもりかよ、気持ち悪いな」

「ざけんな!  お前みたいな変態好きなわけないだろ!!  ぶっ飛ばすぞ!!」

 キナは顔を赤くしながら蔦浜の胸ぐらを掴んだ。

「いや、ちょ、ちょっと待てよ、お前、ホント、何で顔赤いんだよ」

「し、知らねーよ!  暑いんだよ馬鹿!!」

 キナは蔦浜の胸ぐらから手を離すと背を向けてうずくまり顔を手で覆った。

「可愛いわね、この子」

 御影がにこにこしながら蔦浜に言った。

「じょ、冗談じゃないっすよ、こんな凶暴な女……ってか、どうするんですか、こいつ」

 御影の耳元で蔦浜は囁いた。
 御影もキナの扱いに困ったようで両手を広げ首をかしげた。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...