序列学園

あくがりたる

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学園戦争の章《承》

第110話~接触、師範勢~

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 槍や薙刀、棒などの武器を持った生徒達が馬を駆けさせていた。
 斉宮いつきつかさを先頭に5人の生徒達が標的である馬術師範の南雲なぐも大甕おおみかのいる学園の大厩舎だいきゅうしゃに向かった。
 大厩舎に着いたのは昼前だった。
 学園の大厩舎は、学園で使用する馬を100頭入れておける程の巨大な建物で、馬の世話はいつも南雲と大甕がやっていた。生徒達は交代制でその世話を手伝う事になっている。もし、生徒達の馬が病気や怪我で使えなくなった時などはこの大厩舎から新たな馬を連れていけるのだ。
 学園内で馬の事に関しては南雲、大甕両師範以上に詳しい者はおらず、生徒達は馬の事となるとすぐに2人に相談に行っていた。彼らからは馬に対する愛情がヒシヒシと感じられた。いつも必ずどちらかの師範は大厩舎にいた。雨の日も雪の日も、朝から晩まで。そして、馬が子を宿し出産が近い時は馬術の授業は中止になり、南雲と大甕は一日中子を取り上げて親が世話を始めるまで付きっきりになるのだ。

 槍特生そうとくせい達は誰も言葉を発しなかった。2人の師範の馬を想う気持ちは本物だと知っているのだ。馬を学園の陰謀の道具に利用していたと考える事など到底出来ない。もしかしたら、南雲、大甕両師範だけは学園に利用されていただけなのかもしれないと思いたかった。

 大厩舎に到着するまで敵と遭遇する事はなかった。それは、まりかが2人の師範の位置を教えてくれた時に、他の敵戦力との位置関係も詳しく教えてくれたからだ。
 正直つかさは、まりかを信用していなかった。しかし、この作戦はまりかを信用する事が前提になって立てられたものだった。ただ、鏡子きょうこ神技しんぎ神鏡しんきょうを使い、まりかの本心を読み取り、紛れもなくこちら側に従う意思があったという事で信用せざるを得なくなったのだ。
 確かに、まりかの神眼しんがんの力は圧倒的な戦力を持つ学園側に対しては必要不可欠だった。

「この中に、南雲、大甕両師範がいるわけだな。畦地あぜちさんの話では」

 序列16位の東堂とうどうが言った。東堂もまりかの事を信用していない口ぶりだった。

「つかささーん、畦地さんが私達を嵌めようとしてるって事はないですかねー?」

「以前のまりかさんなら有り得たわね。でも、今は違う。そう思って行動しないと私達が全体の作戦を潰す事になるわよ、綾星あやせ

 つかさも思っていた事を綾星が口にしたのでつい強めに否定した。綾星は頬を膨らませて不機嫌そうだった。

「ま、相手はあの馬術師範の南雲師範と大甕師範だ。気を引き締めてかからないと本当に死にますからね。大丈夫か?仲村渠なかんだかり十朱とあけ摂津せっつ

 東堂は後ろにいる3人の男達に言った。

「俺は大丈夫っすよ、東堂さん!  問題は村当番の経験もない十朱と摂津でしょ!」

 仲村渠はさらに自分の後ろにいる2人の若い男を指差して言った。十朱と摂津は2人とも苦笑いしていた。

「そうね。私も心配だけど、昨日御影みかげ先生の部屋を奇襲された時のあなた達の動きはとても良かったと思うわよ。十朱君も摂津君も初めての実戦とは思えない機敏な動きだった」

 つかさに褒められ、十朱と摂津は赤面して鼻の下を伸ばしていた。

「それは東堂さんの指揮のお陰っすよ!  俺も含め、十朱も摂津も、東堂さんに就いて駆けただけっす。おい!  十朱、摂津。自惚れんなよ!  気合い入れろ!!」

 仲村渠に叱責され、表情を緩めていた十朱と摂津はまたキリッとした顔付きに戻った。

「それにしても、どうして今回村当番が2人ともうちのクラスなのかしらねー。馮景ふうけい瀬木泪せきるい君がいれば完璧なフォーメーションを組めたのに」

「大丈夫ですよ、つかささん。俺達の絆は他のクラスよりも強固ですから!  チームワークでさっさと終わらせましょう!」

 東堂が言うと皆頷いた。

「それじゃあ、まずは私と綾星が中に入って南雲師範と大甕師範の説得をしてみる。成功なら綾星が外の皆に知らせに行く。失敗なら私が号令を掛けるから東堂君に続いて皆中に突撃して」

「了解!!」

「恐らくその突撃で2人を倒せるはず。出来れば殺したくない。生きて捕縛しましょう」

 つかさの作戦を聞き終わると全員持ち場についた。
 つかさと綾星は馬を降り、大厩舎の中に入って行った。

 100頭もの馬が柵の中に綺麗に収まっていた。この光景はいつも通りの光景である。つかさもこの学園に来た時にここで自分の馬を手に入れた。その時、馬を選ぶコツを教えてくれたのが南雲だった。南雲は丁寧に馬について延々と話してくれた。それからつかさは、馬の具合が悪い時はすぐに南雲の所へ相談に行った。南雲は親身になって馬を診てくれた。
 そんな男が今つかさ達の敵になっている。そういう状況が未だに信じられなかった。きっと話し合いで解決してみせる。
 つかさは強くそう思った。
 大厩舎の真ん中辺りに2人の黒いローブを纏った騎乗した人影があった。
 ローブ。つかさはその出で立ちに違和感を感じた。普段そんなものを来ている師範を見た事がない。顔を確認しようとしてもフードを被っているので確認できない。しかし、2人が手にしている武器は紛れもない南雲、大甕両師範の得物だ。一際美しい装飾の施されている南雲の大薙刀と一度見たら忘れない刃が波打っている形状の矛、蛇矛だぼうを見間違うはずはないのだ。

「南雲師範、大甕師範。お2人にお話がございます」

 つかさは豪天棒ごうてんぼうを握り締めたまま、綾星と共に2人の師範に近づいて行った。




 茉里まつりは8人の弓特生を引き連れて学園の中央部へやって来た。この場所からなら学園のどの場所へ行くにも一本道になっている。
 弓特生達は槍特師範の東鬼しのぎと、体特師範の重黒木じゅうくろきの説得又は捕縛が言い渡されている。2人の師範は別々の場所にいるので茉里も弓特を2手に分けることにした。

「わたくしと矢継やつぎ君と新居にいさん、櫛橋くしはしさんは重黒木師範を。アリアさんはマリアさんと水無瀬みなせさん、蓬莱ほうらいさん、涼泉すずみさんの5人で東鬼師範の元へ行ってもらえますか?」

「了解しましたー!  殺しちゃダメなんですよねー?」

 序列17位、桜崎さくらざきアリアが右手を挙げて言った。学園最年少の少女だが、姉のマリアよりも弓の腕前はずば抜けており、序列に強い執着を持っている。”弓特の神童”と称される程の逸材である。髪をツインテールにしており、同じ髪型で歳も近い篁光希たかむらみつきに勝手に対抗心を燃やしているようだ。

「極力、殺さないでください。殺すだけの任務なら、わたくし達がチームで動く必要はありません。暗殺ならわたくしとアリアさんが一人ずつ、遠くから狙撃するだけで事足りるのですから」

「あはは!  確かにそうだねー!  じゃあ、頑張ろうね!  お姉ちゃん!」

「あ、うん……出来れば僕も、戦闘は避けたいから頑張るよ~」

 元気なアリアに対して、姉のボクっ子マリアは不安げな様子で弱々しく答えた。
 序列27位のマリアは消極的で平和主義者だ。弓の腕は下位の弓特生よりはいいくらいで特別目立った才能はない。だが、マリアはアリアを動かす上では絶対に欠かせない存在だった。妹のアリアは自分より上位の言う事しか聞かず独断専行してしまうという欠点がある。それを下位序列で唯一制御出来るのが姉のマリアなのだ。茉里がアリアと別のチームになる以上、マリアにアリアのサポートをしてもらうしかないのだ。ただ、アリアはマリアの言う事ならば、鏡子や茉里以上に従順に従う。いわゆる、重度のシスコンという面もあるのだ。マリアがチームにいればアリアを任せてしまった方がいい。マリアに関しては茉里の言う事には絶対服従の姿勢なのだ。

「では、マリアさん。そちらのサポートは任せましたよ。やむを得ない場合以外は殺してはいけませんからね」

「はい。心得ました」

「よーし!  じゃあ!  皆出発だよー!  私に就いて来てーー!!」

 アリアは遠足でも行くかのように楽しそうに声を上げ4名の弓特生を連れ、東鬼のいる東の森の方へ馬を駆けさせた。

後醍院ごだいいんさん。あれ、本当に大丈夫ですかね?  不安でしかないのですが」

 茉里の隣にいた弓特唯一の男、序列23位、矢継玲我やつぎれいがが弓のつるを弾きながら不快そうに言った。

「大丈夫ですわ。マリアさんが御一緒ですから」

 茉里の自身に満ちた言葉に矢継は苦笑して頷いた。

「それでは、私達も重黒木師範の元へ参りましょうか」

 茉里が号令を掛けると、3人の弓特生は茉里に続いて駆け出した。




 西の岬のところに重黒木は一人で馬に乗っていた。いや、正確には重黒木かどうかは分からない。いつもは着ていない黒いローブを身に纏い、頭にはフードを被っている。それに濃い霧が立ち込めていて視界も悪い。
 茉里率いる弓特部隊は小高い崖の上で腹這いになって身を隠しながら、その重黒木と思しき人物を観察していた。

「畦地さんの情報だと、あれが重黒木師範て事になるけど、顔が見えねーな。確かに背格好は同じだが……これ、畦地さんにまた嵌められたって事はないか?」

 矢継が独り言のように言った。

「確かに、重黒木師範かどうか確認は出来ませんが、畦地さんの潔白は、鏡子さんの”神技・神鏡”によって晴らされたのですから疑う余地はありませんわよ?」

「そうですね」

 矢継は納得したのか分からないが首を縦に振った。

「どうします?  茉里さん。本人かどうか確認しないと」

 千里が言った。

「わたくしが下に降りて説得してきます。もし、失敗した場合、わたくしが右手を挙げますのでその時は躊躇わず師範の手脚に矢を射掛けてください。わたくしの弓はここに置いていきます」

 そう言って茉里は立ち上がるとすぐに華麗な身のこなしで崖を降りていった。
 茉里は重黒木と思しき人物の横から堂々と近づいて行った。

「重黒木師範ですか?  こんな所で何をなさっているのです?」

 茉里に気付いていたのか、その人物は特に驚く事もなく、ゆっくりと茉里の方を見た。
 そして、茉里の目に、その人物の顔が写った。
 
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