110 / 137
学園戦争の章《承》
第110話~接触、師範勢~
しおりを挟む
槍や薙刀、棒などの武器を持った生徒達が馬を駆けさせていた。
斉宮つかさを先頭に5人の生徒達が標的である馬術師範の南雲と大甕のいる学園の大厩舎に向かった。
大厩舎に着いたのは昼前だった。
学園の大厩舎は、学園で使用する馬を100頭入れておける程の巨大な建物で、馬の世話はいつも南雲と大甕がやっていた。生徒達は交代制でその世話を手伝う事になっている。もし、生徒達の馬が病気や怪我で使えなくなった時などはこの大厩舎から新たな馬を連れていけるのだ。
学園内で馬の事に関しては南雲、大甕両師範以上に詳しい者はおらず、生徒達は馬の事となるとすぐに2人に相談に行っていた。彼らからは馬に対する愛情がヒシヒシと感じられた。いつも必ずどちらかの師範は大厩舎にいた。雨の日も雪の日も、朝から晩まで。そして、馬が子を宿し出産が近い時は馬術の授業は中止になり、南雲と大甕は一日中子を取り上げて親が世話を始めるまで付きっきりになるのだ。
槍特生達は誰も言葉を発しなかった。2人の師範の馬を想う気持ちは本物だと知っているのだ。馬を学園の陰謀の道具に利用していたと考える事など到底出来ない。もしかしたら、南雲、大甕両師範だけは学園に利用されていただけなのかもしれないと思いたかった。
大厩舎に到着するまで敵と遭遇する事はなかった。それは、まりかが2人の師範の位置を教えてくれた時に、他の敵戦力との位置関係も詳しく教えてくれたからだ。
正直つかさは、まりかを信用していなかった。しかし、この作戦はまりかを信用する事が前提になって立てられたものだった。ただ、鏡子が神技・神鏡を使い、まりかの本心を読み取り、紛れもなくこちら側に従う意思があったという事で信用せざるを得なくなったのだ。
確かに、まりかの神眼の力は圧倒的な戦力を持つ学園側に対しては必要不可欠だった。
「この中に、南雲、大甕両師範がいるわけだな。畦地さんの話では」
序列16位の東堂が言った。東堂もまりかの事を信用していない口ぶりだった。
「つかささーん、畦地さんが私達を嵌めようとしてるって事はないですかねー?」
「以前のまりかさんなら有り得たわね。でも、今は違う。そう思って行動しないと私達が全体の作戦を潰す事になるわよ、綾星」
つかさも思っていた事を綾星が口にしたのでつい強めに否定した。綾星は頬を膨らませて不機嫌そうだった。
「ま、相手はあの馬術師範の南雲師範と大甕師範だ。気を引き締めてかからないと本当に死にますからね。大丈夫か?仲村渠、十朱、摂津」
東堂は後ろにいる3人の男達に言った。
「俺は大丈夫っすよ、東堂さん! 問題は村当番の経験もない十朱と摂津でしょ!」
仲村渠はさらに自分の後ろにいる2人の若い男を指差して言った。十朱と摂津は2人とも苦笑いしていた。
「そうね。私も心配だけど、昨日御影先生の部屋を奇襲された時のあなた達の動きはとても良かったと思うわよ。十朱君も摂津君も初めての実戦とは思えない機敏な動きだった」
つかさに褒められ、十朱と摂津は赤面して鼻の下を伸ばしていた。
「それは東堂さんの指揮のお陰っすよ! 俺も含め、十朱も摂津も、東堂さんに就いて駆けただけっす。おい! 十朱、摂津。自惚れんなよ! 気合い入れろ!!」
仲村渠に叱責され、表情を緩めていた十朱と摂津はまたキリッとした顔付きに戻った。
「それにしても、どうして今回村当番が2人ともうちのクラスなのかしらねー。馮景と瀬木泪君がいれば完璧なフォーメーションを組めたのに」
「大丈夫ですよ、つかささん。俺達の絆は他のクラスよりも強固ですから! チームワークでさっさと終わらせましょう!」
東堂が言うと皆頷いた。
「それじゃあ、まずは私と綾星が中に入って南雲師範と大甕師範の説得をしてみる。成功なら綾星が外の皆に知らせに行く。失敗なら私が号令を掛けるから東堂君に続いて皆中に突撃して」
「了解!!」
「恐らくその突撃で2人を倒せるはず。出来れば殺したくない。生きて捕縛しましょう」
つかさの作戦を聞き終わると全員持ち場についた。
つかさと綾星は馬を降り、大厩舎の中に入って行った。
100頭もの馬が柵の中に綺麗に収まっていた。この光景はいつも通りの光景である。つかさもこの学園に来た時にここで自分の馬を手に入れた。その時、馬を選ぶコツを教えてくれたのが南雲だった。南雲は丁寧に馬について延々と話してくれた。それからつかさは、馬の具合が悪い時はすぐに南雲の所へ相談に行った。南雲は親身になって馬を診てくれた。
そんな男が今つかさ達の敵になっている。そういう状況が未だに信じられなかった。きっと話し合いで解決してみせる。
つかさは強くそう思った。
大厩舎の真ん中辺りに2人の黒いローブを纏った騎乗した人影があった。
ローブ。つかさはその出で立ちに違和感を感じた。普段そんなものを来ている師範を見た事がない。顔を確認しようとしてもフードを被っているので確認できない。しかし、2人が手にしている武器は紛れもない南雲、大甕両師範の得物だ。一際美しい装飾の施されている南雲の大薙刀と一度見たら忘れない刃が波打っている形状の矛、蛇矛を見間違うはずはないのだ。
「南雲師範、大甕師範。お2人にお話がございます」
つかさは豪天棒を握り締めたまま、綾星と共に2人の師範に近づいて行った。
茉里は8人の弓特生を引き連れて学園の中央部へやって来た。この場所からなら学園のどの場所へ行くにも一本道になっている。
弓特生達は槍特師範の東鬼と、体特師範の重黒木の説得又は捕縛が言い渡されている。2人の師範は別々の場所にいるので茉里も弓特を2手に分けることにした。
「わたくしと矢継君と新居さん、櫛橋さんは重黒木師範を。アリアさんはマリアさんと水無瀬さん、蓬莱さん、涼泉さんの5人で東鬼師範の元へ行ってもらえますか?」
「了解しましたー! 殺しちゃダメなんですよねー?」
序列17位、桜崎アリアが右手を挙げて言った。学園最年少の少女だが、姉のマリアよりも弓の腕前はずば抜けており、序列に強い執着を持っている。”弓特の神童”と称される程の逸材である。髪をツインテールにしており、同じ髪型で歳も近い篁光希に勝手に対抗心を燃やしているようだ。
「極力、殺さないでください。殺すだけの任務なら、わたくし達がチームで動く必要はありません。暗殺ならわたくしとアリアさんが一人ずつ、遠くから狙撃するだけで事足りるのですから」
「あはは! 確かにそうだねー! じゃあ、頑張ろうね! お姉ちゃん!」
「あ、うん……出来れば僕も、戦闘は避けたいから頑張るよ~」
元気なアリアに対して、姉のボクっ子マリアは不安げな様子で弱々しく答えた。
序列27位のマリアは消極的で平和主義者だ。弓の腕は下位の弓特生よりはいいくらいで特別目立った才能はない。だが、マリアはアリアを動かす上では絶対に欠かせない存在だった。妹のアリアは自分より上位の言う事しか聞かず独断専行してしまうという欠点がある。それを下位序列で唯一制御出来るのが姉のマリアなのだ。茉里がアリアと別のチームになる以上、マリアにアリアのサポートをしてもらうしかないのだ。ただ、アリアはマリアの言う事ならば、鏡子や茉里以上に従順に従う。いわゆる、重度のシスコンという面もあるのだ。マリアがチームにいればアリアを任せてしまった方がいい。マリアに関しては茉里の言う事には絶対服従の姿勢なのだ。
「では、マリアさん。そちらのサポートは任せましたよ。やむを得ない場合以外は殺してはいけませんからね」
「はい。心得ました」
「よーし! じゃあ! 皆出発だよー! 私に就いて来てーー!!」
アリアは遠足でも行くかのように楽しそうに声を上げ4名の弓特生を連れ、東鬼のいる東の森の方へ馬を駆けさせた。
「後醍院さん。あれ、本当に大丈夫ですかね? 不安でしかないのですが」
茉里の隣にいた弓特唯一の男、序列23位、矢継玲我が弓の弦を弾きながら不快そうに言った。
「大丈夫ですわ。マリアさんが御一緒ですから」
茉里の自身に満ちた言葉に矢継は苦笑して頷いた。
「それでは、私達も重黒木師範の元へ参りましょうか」
茉里が号令を掛けると、3人の弓特生は茉里に続いて駆け出した。
西の岬のところに重黒木は一人で馬に乗っていた。いや、正確には重黒木かどうかは分からない。いつもは着ていない黒いローブを身に纏い、頭にはフードを被っている。それに濃い霧が立ち込めていて視界も悪い。
茉里率いる弓特部隊は小高い崖の上で腹這いになって身を隠しながら、その重黒木と思しき人物を観察していた。
「畦地さんの情報だと、あれが重黒木師範て事になるけど、顔が見えねーな。確かに背格好は同じだが……これ、畦地さんにまた嵌められたって事はないか?」
矢継が独り言のように言った。
「確かに、重黒木師範かどうか確認は出来ませんが、畦地さんの潔白は、鏡子さんの”神技・神鏡”によって晴らされたのですから疑う余地はありませんわよ?」
「そうですね」
矢継は納得したのか分からないが首を縦に振った。
「どうします? 茉里さん。本人かどうか確認しないと」
千里が言った。
「わたくしが下に降りて説得してきます。もし、失敗した場合、わたくしが右手を挙げますのでその時は躊躇わず師範の手脚に矢を射掛けてください。わたくしの弓はここに置いていきます」
そう言って茉里は立ち上がるとすぐに華麗な身のこなしで崖を降りていった。
茉里は重黒木と思しき人物の横から堂々と近づいて行った。
「重黒木師範ですか? こんな所で何をなさっているのです?」
茉里に気付いていたのか、その人物は特に驚く事もなく、ゆっくりと茉里の方を見た。
そして、茉里の目に、その人物の顔が写った。
斉宮つかさを先頭に5人の生徒達が標的である馬術師範の南雲と大甕のいる学園の大厩舎に向かった。
大厩舎に着いたのは昼前だった。
学園の大厩舎は、学園で使用する馬を100頭入れておける程の巨大な建物で、馬の世話はいつも南雲と大甕がやっていた。生徒達は交代制でその世話を手伝う事になっている。もし、生徒達の馬が病気や怪我で使えなくなった時などはこの大厩舎から新たな馬を連れていけるのだ。
学園内で馬の事に関しては南雲、大甕両師範以上に詳しい者はおらず、生徒達は馬の事となるとすぐに2人に相談に行っていた。彼らからは馬に対する愛情がヒシヒシと感じられた。いつも必ずどちらかの師範は大厩舎にいた。雨の日も雪の日も、朝から晩まで。そして、馬が子を宿し出産が近い時は馬術の授業は中止になり、南雲と大甕は一日中子を取り上げて親が世話を始めるまで付きっきりになるのだ。
槍特生達は誰も言葉を発しなかった。2人の師範の馬を想う気持ちは本物だと知っているのだ。馬を学園の陰謀の道具に利用していたと考える事など到底出来ない。もしかしたら、南雲、大甕両師範だけは学園に利用されていただけなのかもしれないと思いたかった。
大厩舎に到着するまで敵と遭遇する事はなかった。それは、まりかが2人の師範の位置を教えてくれた時に、他の敵戦力との位置関係も詳しく教えてくれたからだ。
正直つかさは、まりかを信用していなかった。しかし、この作戦はまりかを信用する事が前提になって立てられたものだった。ただ、鏡子が神技・神鏡を使い、まりかの本心を読み取り、紛れもなくこちら側に従う意思があったという事で信用せざるを得なくなったのだ。
確かに、まりかの神眼の力は圧倒的な戦力を持つ学園側に対しては必要不可欠だった。
「この中に、南雲、大甕両師範がいるわけだな。畦地さんの話では」
序列16位の東堂が言った。東堂もまりかの事を信用していない口ぶりだった。
「つかささーん、畦地さんが私達を嵌めようとしてるって事はないですかねー?」
「以前のまりかさんなら有り得たわね。でも、今は違う。そう思って行動しないと私達が全体の作戦を潰す事になるわよ、綾星」
つかさも思っていた事を綾星が口にしたのでつい強めに否定した。綾星は頬を膨らませて不機嫌そうだった。
「ま、相手はあの馬術師範の南雲師範と大甕師範だ。気を引き締めてかからないと本当に死にますからね。大丈夫か?仲村渠、十朱、摂津」
東堂は後ろにいる3人の男達に言った。
「俺は大丈夫っすよ、東堂さん! 問題は村当番の経験もない十朱と摂津でしょ!」
仲村渠はさらに自分の後ろにいる2人の若い男を指差して言った。十朱と摂津は2人とも苦笑いしていた。
「そうね。私も心配だけど、昨日御影先生の部屋を奇襲された時のあなた達の動きはとても良かったと思うわよ。十朱君も摂津君も初めての実戦とは思えない機敏な動きだった」
つかさに褒められ、十朱と摂津は赤面して鼻の下を伸ばしていた。
「それは東堂さんの指揮のお陰っすよ! 俺も含め、十朱も摂津も、東堂さんに就いて駆けただけっす。おい! 十朱、摂津。自惚れんなよ! 気合い入れろ!!」
仲村渠に叱責され、表情を緩めていた十朱と摂津はまたキリッとした顔付きに戻った。
「それにしても、どうして今回村当番が2人ともうちのクラスなのかしらねー。馮景と瀬木泪君がいれば完璧なフォーメーションを組めたのに」
「大丈夫ですよ、つかささん。俺達の絆は他のクラスよりも強固ですから! チームワークでさっさと終わらせましょう!」
東堂が言うと皆頷いた。
「それじゃあ、まずは私と綾星が中に入って南雲師範と大甕師範の説得をしてみる。成功なら綾星が外の皆に知らせに行く。失敗なら私が号令を掛けるから東堂君に続いて皆中に突撃して」
「了解!!」
「恐らくその突撃で2人を倒せるはず。出来れば殺したくない。生きて捕縛しましょう」
つかさの作戦を聞き終わると全員持ち場についた。
つかさと綾星は馬を降り、大厩舎の中に入って行った。
100頭もの馬が柵の中に綺麗に収まっていた。この光景はいつも通りの光景である。つかさもこの学園に来た時にここで自分の馬を手に入れた。その時、馬を選ぶコツを教えてくれたのが南雲だった。南雲は丁寧に馬について延々と話してくれた。それからつかさは、馬の具合が悪い時はすぐに南雲の所へ相談に行った。南雲は親身になって馬を診てくれた。
そんな男が今つかさ達の敵になっている。そういう状況が未だに信じられなかった。きっと話し合いで解決してみせる。
つかさは強くそう思った。
大厩舎の真ん中辺りに2人の黒いローブを纏った騎乗した人影があった。
ローブ。つかさはその出で立ちに違和感を感じた。普段そんなものを来ている師範を見た事がない。顔を確認しようとしてもフードを被っているので確認できない。しかし、2人が手にしている武器は紛れもない南雲、大甕両師範の得物だ。一際美しい装飾の施されている南雲の大薙刀と一度見たら忘れない刃が波打っている形状の矛、蛇矛を見間違うはずはないのだ。
「南雲師範、大甕師範。お2人にお話がございます」
つかさは豪天棒を握り締めたまま、綾星と共に2人の師範に近づいて行った。
茉里は8人の弓特生を引き連れて学園の中央部へやって来た。この場所からなら学園のどの場所へ行くにも一本道になっている。
弓特生達は槍特師範の東鬼と、体特師範の重黒木の説得又は捕縛が言い渡されている。2人の師範は別々の場所にいるので茉里も弓特を2手に分けることにした。
「わたくしと矢継君と新居さん、櫛橋さんは重黒木師範を。アリアさんはマリアさんと水無瀬さん、蓬莱さん、涼泉さんの5人で東鬼師範の元へ行ってもらえますか?」
「了解しましたー! 殺しちゃダメなんですよねー?」
序列17位、桜崎アリアが右手を挙げて言った。学園最年少の少女だが、姉のマリアよりも弓の腕前はずば抜けており、序列に強い執着を持っている。”弓特の神童”と称される程の逸材である。髪をツインテールにしており、同じ髪型で歳も近い篁光希に勝手に対抗心を燃やしているようだ。
「極力、殺さないでください。殺すだけの任務なら、わたくし達がチームで動く必要はありません。暗殺ならわたくしとアリアさんが一人ずつ、遠くから狙撃するだけで事足りるのですから」
「あはは! 確かにそうだねー! じゃあ、頑張ろうね! お姉ちゃん!」
「あ、うん……出来れば僕も、戦闘は避けたいから頑張るよ~」
元気なアリアに対して、姉のボクっ子マリアは不安げな様子で弱々しく答えた。
序列27位のマリアは消極的で平和主義者だ。弓の腕は下位の弓特生よりはいいくらいで特別目立った才能はない。だが、マリアはアリアを動かす上では絶対に欠かせない存在だった。妹のアリアは自分より上位の言う事しか聞かず独断専行してしまうという欠点がある。それを下位序列で唯一制御出来るのが姉のマリアなのだ。茉里がアリアと別のチームになる以上、マリアにアリアのサポートをしてもらうしかないのだ。ただ、アリアはマリアの言う事ならば、鏡子や茉里以上に従順に従う。いわゆる、重度のシスコンという面もあるのだ。マリアがチームにいればアリアを任せてしまった方がいい。マリアに関しては茉里の言う事には絶対服従の姿勢なのだ。
「では、マリアさん。そちらのサポートは任せましたよ。やむを得ない場合以外は殺してはいけませんからね」
「はい。心得ました」
「よーし! じゃあ! 皆出発だよー! 私に就いて来てーー!!」
アリアは遠足でも行くかのように楽しそうに声を上げ4名の弓特生を連れ、東鬼のいる東の森の方へ馬を駆けさせた。
「後醍院さん。あれ、本当に大丈夫ですかね? 不安でしかないのですが」
茉里の隣にいた弓特唯一の男、序列23位、矢継玲我が弓の弦を弾きながら不快そうに言った。
「大丈夫ですわ。マリアさんが御一緒ですから」
茉里の自身に満ちた言葉に矢継は苦笑して頷いた。
「それでは、私達も重黒木師範の元へ参りましょうか」
茉里が号令を掛けると、3人の弓特生は茉里に続いて駆け出した。
西の岬のところに重黒木は一人で馬に乗っていた。いや、正確には重黒木かどうかは分からない。いつもは着ていない黒いローブを身に纏い、頭にはフードを被っている。それに濃い霧が立ち込めていて視界も悪い。
茉里率いる弓特部隊は小高い崖の上で腹這いになって身を隠しながら、その重黒木と思しき人物を観察していた。
「畦地さんの情報だと、あれが重黒木師範て事になるけど、顔が見えねーな。確かに背格好は同じだが……これ、畦地さんにまた嵌められたって事はないか?」
矢継が独り言のように言った。
「確かに、重黒木師範かどうか確認は出来ませんが、畦地さんの潔白は、鏡子さんの”神技・神鏡”によって晴らされたのですから疑う余地はありませんわよ?」
「そうですね」
矢継は納得したのか分からないが首を縦に振った。
「どうします? 茉里さん。本人かどうか確認しないと」
千里が言った。
「わたくしが下に降りて説得してきます。もし、失敗した場合、わたくしが右手を挙げますのでその時は躊躇わず師範の手脚に矢を射掛けてください。わたくしの弓はここに置いていきます」
そう言って茉里は立ち上がるとすぐに華麗な身のこなしで崖を降りていった。
茉里は重黒木と思しき人物の横から堂々と近づいて行った。
「重黒木師範ですか? こんな所で何をなさっているのです?」
茉里に気付いていたのか、その人物は特に驚く事もなく、ゆっくりと茉里の方を見た。
そして、茉里の目に、その人物の顔が写った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる