序列学園

あくがりたる

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学園戦争の章《承》

第112話~爆玉~

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 男は短刀を振り回し茉里まつりに襲い掛かった。
 茉里はすんでのところで躱し、太ももに仕込んであるナイフを抜いた。そのナイフを振ろうとした時、右脚に痛みが走った。公孫莉こうそんりとの戦闘で受けた矢傷がまた開いたようだった。
 茉里は舌打ちをして男から距離を取り、右手を上げ崖の上の千里せんり達に合図を送った。
 するとすぐに3本の矢が空を裂き、茉里に向かって馬を駆けさせる男の手脚に一本も外すことなく見事に突き刺さった。
 男は呻き声を上げ馬から落ちた。

「皆さん、こちらに来てください」

 茉里は崖の上に潜ませておいた弓特生達を呼んだ。
 矢継やつぎ、千里、叶羽とわはすぐに下りてきて茉里の元へ集まった。
 右手、左手、左脚に矢が刺さり落馬して地面にうつ伏せで倒れている黒いローブを纏った男を4人は見た。

「あなたは、誰ですか? そして、ここで何をしているのか、答えなさい」

 茉里がナイフを男の首に突き付けて言った。

「わざわざ答える必要はないな」

 男は馬鹿にしたように鼻で笑った。
 その答えに、矢継、千里、叶羽の3人は戦慄して茉里を見た。

「あら……そう……残念ですわ」

 茉里の顔は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。




 大薙おおなぎなた蛇矛だぼうでの攻撃は大したことがなかった。
 つかさと綾星あやせ南雲なぐも大甕おおみかに扮した男達を数合打ち合っただけで馬から叩き落とした。

「誰なのよ?  あんた達」

 つかさが豪天棒ごうてんぼうを男の眉間に突き付けて言った。

「そのうち、分かるさ」

 2人の男はくすくすと不気味に笑った。
 すると突然綾星がもう1人の男の胸ぐらを掴み引き起こした。

「ねーねー、つかささんの質問に答えてくださいよー!  内蔵抉り出されたいんですかー?」

 綾星は不気味な笑顔を見せ男を揺すった。
 男はその綾星の顔を見て顔面蒼白になった。
 つかさはそれを見てもう1人の男のこめかみを豪天棒で打って気絶させた。

「ほら、喋って。もたもたしてると綾星に内蔵抉り出されるよ?」

 つかさはしゃがみ込み、顔面蒼白の男の顔を覗き込んだ。

「ま、まあ、いいだろう。どうせ手遅れだ」

 男は観念して話を始めた。




 まりかの話によると、今朝まりかが弓特と槍特に教えた師範の場所に、今現在は何者かが入れ替わってそこにいるらしい。本物の師範達は影清かげきよも含め、割天風かつてんぷうのいる校舎に集結しているとの事だ。つまり、鏡子きょうこ斑鳩いかるがが割天風しかいないと思って向ったが、実際には学園側の神髪瞬花かみがみしゅんかを除く全ての戦力が校舎にはいるという事になる。
 こちらの作戦はやはり露見していたのだ。
 カンナはその話を聞いて愕然とした。

「私達が弓特寮を出ようとした時に監視していた男達が割天風先生に私達の作戦を報告して手を打たれたって事ですよね?」

 カンナは爆発しそうな思考回路をフル稼働させて状況を整理した。

「私が神眼しんがんを常時使わないという事を利用して師範達を鵜籠うごもりの部下達にすり替えたのね」

 まりかが悔しそうに言った。

「とにかく、鏡子さんと斑鳩さんにその事を知らせなくちゃ!! 
 2人だけじゃ師範達を含めた戦力に対抗出来ない!!」

「……それが、鏡子さんと斑鳩君はもう校舎に到着しているのよ。今から私達が向かっても間に合わない」

 まりかが首を振りながら言った。

「そんな……!!」

 鏡子も斑鳩もここで死ぬ。そんな事はさせない。どうにか2人にこの危機を知らせる術はないものか。カンナは必死に考えた。

「あ!」

 カンナが自分のホットパンツのポケットを触ると丸い物が入っているのに気が付いた。
 斑鳩に貰った『爆玉ばくぎょく』だ。
 カンナは爆玉をポケットから取り出し皆に見せた。

「これ!  この爆玉なら斑鳩さんに届くはず!!」

「それは?」

 まりかが不思議そうに尋ねた。

「斑鳩さんに貰ったものなんですが、これを地面に叩きつけると大きな音がするらしいんです。その音を聴いたら音のした方に斑鳩さんが助けに来てくれるって言ってたんです!」

「って事は、それを今使えば斑鳩君が作戦を切り上げて戻って来る……ってこと?」

「作戦を放棄して斑鳩が来るか?」

 カンナとまりかの会話に伽灼かやが口を挟んだ。

「やってみるしかないですよ。どっちみち、ほかに方法はないんですから」

 カンナが言うと、もう誰も口を挟む者はいなくなった。
 カンナは皆が見守る中、響華きょうかを降り、爆玉を握り締め振りかぶった。

「いきますよ!  皆さん耳を塞いで私から離れてください」

 カンナの指示通り、光希みつき、伽灼、まりか、奈南ななみの4人は馬を少し離れたところに歩かせ、そして念の為下馬した。
 カンナはそれを確認すると爆玉を地面に思い切り叩き付けた。

 パーーーーーンと凄まじい破裂音が響いた。
 音自体は耳をつんざく程のものではなかったが、遠くまで響いた。
 馬も少し驚いただけで暴れたりはしなかった。
 少し周りの様子を確認した後、離れていた4人はまたカンナの周りに集まった。

「これで斑鳩さんが来れば」

「鏡子さんも一緒に引き返してくれる事を願うしかないわね」

 奈南がカンナに続けて言った。
 カンナが頷くと4人も頷いた。




 爆玉の音がした。
 こんな時に救援を求める合図があるとはきっとかなり不味い状況に違いない。

「なに?  今の音は」

「俺が一部の生徒に渡した爆玉という玉が破裂した音です。救援が必要な時に使えと言ってありました」

「私達が重要な作戦を遂行中という事を知りながら使ったというのね。という事は……」

 鏡子が斑鳩の顔を見た。鏡子もこのタイミングで爆玉が使われた意味に気付いたようだ。

「ええ。恐らく、救援要請ではなく、俺達の作戦を中断させる為の合図」

 鏡子が頷いた。

「このままここにいたら不味いという事ね。いいわ、あなたの信じた生徒を私も信じましょう。退くわよ」

 鏡子はすぐに馬首を返し校舎に背を向け退却を始めた。斑鳩もそれに続き反転した。
 斑鳩は一度校舎の方を顧みた。校舎は誰の気配もなくただ不気味に佇んでいた。




 10分程で鏡子と斑鳩が駆けてきた。
 すぐにカンナ達と合流してまりかが事態の全容を説明した。
 鏡子も斑鳩も難しい顔をしている。

「今も校舎に師範達は集結したままなの? まりか」

「ええ。影清さんを含む錚々そうそうたるメンバーが総帥の元に集結しています」

 まりかは眼を蒼く光らせながら鏡子の質問に答えた。

「神髪瞬花は何処にいる?」

 伽灼が腕を組んだまま訊いた。

「あぁ、あの女はずっと学園の中をうろうろしてるわ。なんか久しぶりに外に出たから色々珍しいんじゃないの?」

「そう」

 伽灼はポツリと答えるともう大人しかった。

「いいか?  今は作戦を立て直さなければならない。各方面へ散った仲間達にこの事態を知らせ、もう一度集結する必要がある」

 斑鳩が言うと鏡子が一歩前へ出た。

「私と斑鳩君で弓特を呼びに行くわ。カンナ、伽灼、光希は槍特をお願い。まりかと奈南さんは御影先生とリリアにこの事を報せて。もう一度、弓特寮に戻り作戦を立て直すわよ」

 鏡子の指示に全員が返事をした。

「畦地、神眼で敵戦力に動きがないか常に監視している事は出来るか?」

「あ、う、うん。でも、神技しんぎってね、ずっと使ってられるような代物じゃないのよ?  途中で倒れたら、斑鳩君が私の事介抱してくれる?」

 また冗談を言ってきたと、カンナは呆れて首を振った。だが、視界に入ったまりかはどこか様子がおかしかった。顔中汗だくで心なしか顔色も悪いようだ。呼吸も早い。

畦地あぜちさん、大丈夫ですか?  すでに具合悪いんじゃ?」

 カンナが心配してまりかに近付くと、まりかは左手をカンナに向けた。

「大丈夫よ。私は……」

 言ったまりかは、その瞬間に馬から落ちた。ギリギリで馬から飛び降りたカンナがまりかの身体を受け止めた。
 その場の全員がまりかとカンナに視線をやった。

「おい!  大丈夫か?  畦地!!」

 斑鳩も馬を降りてまりかに近付いた。
 まりかは呼吸こそしているが返事をしない。うっすらと眼を開けてカンナと斑鳩の顔を見ていた。

「神技とは、本来神が使う特殊な力。神という存在こそが無限に使う事が出来る力。たかだか一介の人間が神と同等に神技を使い続ける事が出来るわけじゃない。人の器に宿った神技には限界があるのよ。まりかはもうしばらくは動けないでしょうね。大丈夫。死にはしないわ。これ以上、神眼を使わなければね。ゆっくり休ませましょう」

 鏡子の言葉は冷静で説得力があった。

「奈南さん、まりかを弓特寮へ。お願い出来ます?」

「勿論。問題ありません」

 鏡子の指示に頷くと、奈南はすぐに馬を降りカンナが抱えていたまりかを抱き起こした。カンナも奈南の馬まで運ぶのを手伝った。

「お願いします。四百苅しおかりさん。道中お気を付けて」

「カンナさん。あなた達も。ご武運を」

 奈南の馬の背にまりかを乗せ、しっかりとまりかの腕を奈南の腹に巻き付かせ馬を駆けさせた。器用にも、まりかの乗ってきた馬も引き連れて駆けて行った。
 奈南を見送ると、鏡子がまた口を開いた。

「敵の動きはこれで捕捉出来なくなったわ。とにかくまずは、弓特と槍特の生徒達と合流して……」

 鏡子が話の途中で視線を動かした。
 その視線の先を見ると2騎の影が近付いて来ていた。

「あれは、御影先生とリリア?」

 鏡子の言葉通り、御影とリリアが馬でこちらに駆けてきた。
 御影とリリアはカンナ達のところで馬を止めた。

「凄い破裂音が聴こえたからね、斑鳩君の渡した爆玉かもと思って来てみたのよ」

 顔や身体に血を付けてた御影が微笑んで言った。白衣を来ているのでその血がより目立った。

「御影先生……その血……。栄枝さかえだ先生達医療担当者は?」

「まあ、落ち着いて斑鳩君。この血は返り血よ。私とリリアちゃんが医務室にいる栄枝先生の所へ行ったらね、そこにいた栄枝先生も医療担当者達も9人全員偽物だったのよ。で、襲い掛かってきたからリリアちゃんが9人全員を片付けてくれたのよ。一体どうなってるの?」

 御影が言うとリリアが頷いた。そのリリアの視線の先には伽灼がいた。伽灼はリリアの視線に気付き軽く頷いて見せた。それを見たリリアは優しく微笑んでいた。
 鏡子が御影とリリアに状況を簡潔に説明した。2人とも腕を組んで渋い顔をした。

「でもこれで、弓特と槍特の生徒達と合流すればいいだけになったわね。早いところ合流してしまいましょう」

 鏡子の迷いのない指示で、カンナ、伽灼、光希は槍特の所へ。鏡子、斑鳩は弓特の所へ。そして、御影とリリアは奈南とまりかと合流しつつ弓特寮へ帰還する事になった。
 カンナが響華で先行した。その後ろからは長い髪を風に靡かせた伽灼と光希が静かに就いて来ていた。
 日は高く昇っていた。
 
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