序列学園

あくがりたる

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学園戦争の章《転》

第114話~突入、最終決戦~

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 弓特寮きゅうとくりょうの庭先に出た時、後ろから声を掛けられたので、カンナとつかさは立ち止まり振り向いた。
 そこには、リリア、茉里まつり蔦浜つたはま、キナ、光希みつき綾星あやせの5人がいた。

「気を付けてね、2人とも。本当に気を付けてね」

 リリアが目を潤ませて言った。

「はい。上手くやります」

 カンナは短く答えた。

「茉里、あんたさっき何で私を止めたの?  もしかして、私の事を庇ってくれたの?」

 つかさが突然茉里に話し掛けた。

「あら、わたくしが斉宮いつきさんの為にする事なんて何もありませんわ。わたくしはただ、アリアさんがあまりにも不謹慎な事を仰ったから腹が立っただけですわ」

「そう。でも、ありがとね、茉里。あんたが止めてくれなかったら私あそこで暴れてたと思う。だから勝手にあんたに感謝しとくわ」

 つかさは親指を立てて茉里に見せた。
 茉里はふんと恥ずかしそうにつかさから目を逸らした。

「カンナちゃん!  絶対無事に帰って来てくれよな!」

澄川すみかわさんがいないと蔦浜がピーピー喚きそうだからちゃんと帰って来てください」

 蔦浜が言うとキナが口をとんがらせて言った。蔦浜はキナの言葉に文句を言っていた。

「カンナ、また一緒に暮らしたい」

 光希が顔を赤くして小さな声で言った。

「うん!  皆!  ありがとう!  私も皆と楽しい学園生活を送りたいから絶対戻ってくるよ!  だから皆も気を付けて!」

 カンナは拳を握った。
 その様子を見ていた綾星がゆっくりとつかさに近付いて来た。そしてつかさの手を握り胸の所に持ち上げた。

「つかささん、信じてますよ!」

「分かってるわよ。綾星。そっちも気を付けてね」

 綾星は微笑み頷くと、一瞬で無表情になりカンナの方を見た。

「澄川さん、くれぐれもヘマはしないでくださいねー。それと、2人きりだからってつかささんに手出さないでくださいねー。知ってるんですよー、澄川さん、つかささんが嫌がってるのにしつこくつかささんの胸を触ろうとしてた事~」

「え!?  いや、それは誤解だなぁ??」

 カンナは何か勘違いしている様子の綾星に困惑した。確かにそんな事もあったが、それはあくまでも修行の一環での事だった。

「何なのあの子。澄川さんに変な事言って……ぶっ壊しますわよ」

 茉里の呟きが聴こえたのか綾星は茉里の方に歩いて行った。

後醍院ごだいいんさーん。喧嘩はこの戦が終わった後、いくらでも受けますよー」

「あら、望むところですわ」

 茉里と綾星はお互い火花をちらしていた。カンナもつかさも苦笑するしかなかった。

「そういえば、御影みかげ先生は?」

 カンナは御影がいないという事に気が付いた。思えばしばらく見ていない。

「御影先生は小牧こまきさんと一緒にあかり達怪我人の看病をしているわ」

 リリアが答えた。

「そうなんだ……最後に挨拶したかったな」

 カンナが寂しそうに言うとつかさが肩を叩いた。

「大丈夫だよ!  会えなくなるわけじゃないんだからさ!」

「うん。そうだね」

 カンナはつかさの励ましの言葉に笑顔を見せた。
 カンナとつかさは既に近くで待機していた愛馬にそれぞれ乗った。そして、リリア達を見渡すと掛け声を上げて弓特寮から出て行った。




 駆けながらカンナは辺りの氣を探った。神髪瞬花かみがみしゅんかの氣は一度だけ興味本位で探った事があったから分かるが、正直二度と感知したくなかった。
 今は辺りには、瞬花どころか、誰の氣も感じられなかった。
 つかさも辺りを気にしながら慎重に馬を駆けさせた。
 東の岸岩壁の方へ駆けた時、異変があった。カンナは響華きょうかを止めた。というより、響華が勝手に止まったという感じだ。

「どうしたの、カンナ?」

 急に止まったカンナを見て、つかさは心配して声を掛けた。

「神髪さんが……」

 カンナはまともに喋れず口を手で覆った。つかさは馬を降り、カンナの元へ駆け寄ってきた。

「カンナ……具合悪そうだけど、大丈夫?  近くに神髪さんがいるの?」

 カンナは首を縦に振った。今はそれしか出来なかった。

「不味いわね、カンナがこんな状態になるなんて……今神髪さんに襲われたら私達ひとたまりもない」

 つかさの不安な言葉をカンナは手を翳して止めた。

「大丈夫。これも計算の内。私の氣を感知する力が強過ぎて、神髪さんの強大な氣で身体中の器官が敏感に反応してるの。”遮変徐しゃへんじょ”っていうツボを付けば、感知出来る氣の量を減らす事が出来るの」

 そう言うとカンナは響華から降り、右膝を地面に付き、左脚を曲げて前に出した。そして右手の人差し指と中指だけ立てて、思いっ切り左脚の付け根を突いた。

「うぐっっ!!」

 カンナは声にならない声を出して左膝を抱えながら呻き声を上げて悶絶した。

「か、カンナ!!?  大丈夫なの!?」

 つかさがカンナの肩に手を当てた。

「だ、大丈夫……、それより……」

 カンナが前方を指指した。つかさがその先を見るとそこにはいつの間にか黒いローブを身に纏った者が馬に乗りこちらに近付いて来ていた。
 つかさは咄嗟にカンナの前に出て守ろうとしたが、身体が上手く動かせず硬直してしまっていた。

篝気功掌かがりきこうしょう使いの序列10位の女。澄川カンナは貴様か?」

 若い女の声。黒いローブの中から聴こえた。

「そうです。やっと会えましたね。神髪瞬花さん」

 カンナは唇を震わせながらなんとか声を捻り出した。それと同時に、カンナはもう1人、何者かがいる事にようやく気付いた。それはかつてカンナの手で倒したはずの男、鵜籠うごもりだった。

「やれやれ、神髪瞬花をようやく見付けたと思ったら、いきなり駆け始めるんだからな。もっと早く仕事をしてくれてりゃ俺がわざわざお前のところに来なくて済んだというものを」

 鵜籠は咳払いをしながら言った。たった今神髪瞬花を見付けて馬で就いて来たようだ。
 瞬花は後ろにいる鵜籠を見もせずまた口を開いた。

「学園の闇を統括する下劣な忌まわしき男か。安心しろ。澄川カンナを捕縛すれば良いのであろう」

 瞬花の目は終始カンナを凝視していた。つかさの存在は全く意に介していない。

「氣が、変わったな。私の氣をこれ程間近で受けて、正気を保っている氣功士はなかなかのものだぞ。貴様、”遮変徐”を突いたな?」

 ”遮変徐”を知っている?  この女もやはり氣を使うのか。
 カンナは瞬花への興味が増した。

「神髪さん、あなた氣を操れるんですか?」

「無駄話に付き合う気はない」

 カンナの質問に答えないばかりか今度は少しだけ視線を動かし硬直しているつかさを見た。しかし、瞬花はつかさに対しては何も言わずまた視線をカンナに戻した。

「さっさと捕まえてしまえ。斉宮つかさはどうでも良いが、可能なら捕まえろ」

 鵜籠が頭を掻きながら瞬花に言った。

「私に命令をするな。私は篝気功掌使いの女と戯れる。そちらの鼠は貴様が捕縛すれば良かろう」

 瞬花の態度に鵜籠は舌打ちをして刀を抜いた。
 つかさはなんとか身体の硬直を解き、豪天棒ごうてんぼうを構えた。

「カンナ、立てる?  どうするの?  この状況。一触即発の緊急事態に見えるわよ」

「任せて、ちゃんと作戦はあるから。つかさは鵜籠をお願い。私と神髪さんの闘いを邪魔させないで」

「了解」

 カンナはポケットから斑鳩に貰った爆玉ばくぎょくを取り出した。
 つかさはそれを見て頷いた。
 カンナは思いっ切り地面に爆玉を叩き付けた。





 爆玉の音が響いた。
 カンナ達からの合図だ。

「出陣!」

 鏡子きょうこは全隊に号令を掛けた。
 全隊は一斉に鏡子に続き駆け出した。全員が騎乗した騎馬隊26騎である。その中には、逢山東儀あやまとうぎ扶桑匠登ふそうたくと叢雲甚吾むらくもじんご石櫃いしびつレオの姿もあった。4人は帰順し共に戦うことを宣言した。七龍陽平しちりゅうようへいだけは蔦浜に倒されてから意識が戻らず、戦線には参加出来ない。
 鏡子の後ろには、伽灼かや率いる剣特隊けんとくたい東堂とうどう率いる槍特隊そうとくたいが両翼を駆けていた。
 その後ろには茉里率いる弓特隊が。そして、さらにその後ろには斑鳩いかるが率いる体特隊たいとくたいが殿軍の役を担っていた。
 各部隊と言っても、1つの隊に必ずしも10名以上がいるわけではない。弓特以外はせいぜい5、6人だ。
 数分駆けると、前方に校舎が見えてきた。その前には数騎の影が見えた。

「停止」

 鏡子が右手を上げて全隊に停止の命令を出した。
 よく見ると、校舎の前には東鬼しのぎ重黒木じゅうくろき南雲なぐも大甕おおみか影清かげきよ栄枝さかえだ、そして、その後ろには9人の医療担当者と7人の鵜籠の部下の残党がいた。

「今度は本物ね」

 鏡子が呟くと馬で師範達に声が届くところまで出た。全生徒の視線が鏡子に集まった。

「私達は争いは望みません。しかし、あなた達師範は割天風かつてんぷう総帥を裏切る事は出来ないのでしょう。ならば私達は戦うざるを得ません。あなた達を殺してでも、割天風総帥を討ち取ります。もし、私達を思ってくださる方がいるのなら、今ここで」

 鏡子が話し始めると、東鬼が馬で前へ出た。

「無駄だ。我々師範は総帥に国家建国を誓ったのだ。今更、生徒達への情に流されるなどと言うことは断じて有り得ない。お前達こそ降伏しろ。我々に適うと本気で思ってるのか?」

 東鬼は大声で威圧するように言うと鏡子に槍を向けた。

「私達はあなた達師範に多くの事を学びました。あなた達が教えてくれた事を今日ここで全力でお見せしましょう!」

 鏡子が凛として言った。後ろに控える生徒達も固唾を呑んで見守っていた。

「それは楽しみだ。だが、それが出来るか……。行くぞ!!  美濃口鏡子!!  この俺の槍捌きにお前の弓がどれ程通用するか!!  いざっ!!」

 東鬼が槍を構えて鏡子へ突っ込むのと同時に他の師範達もこちらに駆け始めた。

「全隊!  かかれーー!!」

 鏡子の号令で各部隊一斉に前進を始めた。
 その時、後方で声が上がった。
 鏡子が一瞬振り向くと、いつの間にか黒い大軍が押し寄せて来ていた。

「何!?  あの軍勢は!?」

 鏡子が目を奪われたところを、東鬼は見逃さなかった。東鬼の槍は鏡子の首を一直線に狙っていた。

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