序列学園

あくがりたる

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学園戦争の章《転》

第116話~予期せぬ敵~

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 鏡子きょうこの首元に向かった槍先はギリギリのところで僅かに逸れた。別の槍が2本、鏡子と東鬼しのぎの間に割り込んでいた。

「東鬼師範!  お願いです!  もうやめてください!」

「私達はあなたを殺したくないですー!」

 東鬼の槍を防いだ東堂とうどう綾星あやせが最後の説得を試みた。

「一騎討ちに水を差すとはお前達、武人の心得がなっておらんな。今一度、その精魂叩き直してくれよう!!」

 東鬼は鏡子を横目に東堂と綾星の槍を叩き2人へ本気の槍術を向けた。

「東鬼師範の稽古だ!!  槍特!!  全員かかれーー!!!」

 東堂が叫ぶと、槍特部隊は東鬼に向かって突っ込んで来た。
 鏡子は槍特部隊を少し離れて見送るとまた後方に視線をやった。
 そこにはおよそ50人もの黒づくめの大軍が殿軍の体特部隊に襲い掛かっていた。
 斑鳩いかるがが巧みに襲い来る男達を闘玉とうぎょくで馬から撃ち落としているのでなんとか持ち堪えているようだ。

「アリアさん、矢継やつぎ君、新居にいさんは前方を!  マリアさん、水無瀬みなせさん、蓬莱ほうらいさん、涼泉すずみさん、櫛橋くしはしさんは後方を射てください!!」

 部隊の中段に構える弓特部隊では、茉里まつりが瞬時に部隊を2つに分け、的確な指示を出していた。
 弓特部隊の後方へ放った矢は5人の男を馬から落としたが、すぐに大勢を立て直し殿軍の体特部隊に襲い掛かっていた。体特部隊は斑鳩が奮戦して闘玉を目にも止まらぬ速さで放っているが、斑鳩と直接戦闘を行っている男が一際良い動きをしており苦戦を強いられていた。

「休んじゃダメだよーみんなー!  体特部隊を援護ー!  撃てー!!」

 後方弓特部隊を任されたマリアが叫んだ。
 弓特の巧みな援護射撃で斑鳩はなんとか持ち堪えていた。
 しかし、襲い来る黒づくめの男達は今までの鵜籠うごもりの部下や割天風かつてんぷう直轄の暗殺部隊と違い目を見張る程に洗練された動きをしていた。序列でいうと、10位以上の動きをしているように見えた。
 その時、斑鳩の隣りで生徒が2人馬から落ちた。
 鏡子の位置からでは誰が落ちたかは分からないが死んだ事だけは分かった。
 鏡子は歯を食いしばり前方から襲い掛かる師範達に意識を戻し矢を放った。
 しかし、師範に矢は当らない。馬に乗った南雲なぐも大甕おおみかには、動くものを射る御堂筋弓術みどうすじきゅうじゅつを極めた鏡子でさえ当てる事は困難だった。
 南雲の大薙刀おおなぎなたが唸る。本来の豪華な装飾が施されたものではなく、どこにでもあるような大薙刀だった。鏡子は身体を反らせて躱した。しかし、背後からは大甕の槍が真っ直ぐ襲い来る。鏡子は馬上で伏せ、槍を躱した。
 鏡子は南雲と大甕から距離を取った。接近戦では弓術は絶対的に不利である。鏡子が距離を取ろうとしても南雲と大甕は執拗に追い掛けてくる。
 鏡子の首を取ればこの戦は終わる。賢明な判断だ。こちらも割天風の首を取れば戦は終わる。しかし、割天風の姿は最初から見えない。
 鏡子は南雲と大甕の攻撃を躱しつつ、攻撃の機会を窺った。


    ____



 伽灼かやは正面から来る影清かげきよだけを見た。
 部隊の事など知ったことではない。序列が上という事だけで剣特部隊の隊長になっていた。
 後ろが騒がしかったが一度振り返っただけで伽灼はまた影清を見た。
 影清は笑っていた。大きな鎌を右手に構え突っ込んで来ていた。
 影清の後ろには9人の医療担当者が隊形を作り追従していた。栄枝さかえだはそこにはいなかった。

「伽灼!!  お前もついに反逆者か!!  戦なら思う存分殺す事が出来るな!!  俺は今、最高な気分だぜ!!」

 影清は笑いながら叫んだ。
 伽灼はその顔と台詞に対して鼻で笑っただけで影清とすれ違った。
 刀と鎌がぶつかった。影清は神斬しんざんを使っていないので伽灼の刀は何ともなかった。
 影清の後ろに追従していたはずの医療担当者達は何かを見つけたように方向を変えて伽灼の後ろへ向かっていった。
 影清は反転してまた伽灼の方を向いた。
 伽灼も反転した。

「俺が神斬を使わないと読んでいたのか?  なかなかいい勘をしているじゃないか」

「あんたが神斬を使えば人間などあっという間にバラバラになる。そうなると、あんた楽しめないからね」

 伽灼は涼しい顔で言った。

「そうだな。俺はせっかくの”戦”という時間を出来るだけ長く楽しみたい。全員切り刻むのは簡単だ。だが、1人1人殺した方が楽しい時間は続く。伽灼。お前の本気、見せてみろよ」

 影清はまた伽灼に向い突っ込んで来た。
 伽灼も駆けた。影清の神斬のタイミングはこれまでの学園生活で観察してきたので予備動作だけで完璧に分かる。影清が神斬を使おうとしたら離れればいい。そして、そのタイミングで「神技しんぎ神灼しんしゃく」を使えばいい。影清の絶望した顔が目に浮かぶ。
 伽灼はにやりと笑った。


    ____



 伽灼が先走ったのでリリアは部隊の奈南ななみ逢山あやま扶桑ふそうの3人に後方支援を命じた。
 すぐに3人は体特部隊と交戦中の黒づくめの男達の方へ展開した。
 リリアは影清の後ろから突っ込んで来ている医療担当者9人の方へ馬を駆けさせた。
 影清が伽灼1人に狙いを定めたのを見ると、医療担当者達はリリア1人に隊形を崩さずに突っ込んで来た。
 また不得手な騎馬戦。それも9対1。リリアはうんざりしたが医療担当者が相手ならそれ程大した事はない。
 リリアは背中の睡臥蒼剣すいがそうけんではなく、腰の無刃音叉むじんおんさを抜いた。

「いざ!!」

 リリアは9人に突っ込んでいった。


    ____



 茉里はアリア、矢継、千里せんりを連れて鏡子の援護に向かった。
 槍特が全員で東鬼へ突っ込み、剣特は弓特と同じく前方と後方に分散。前方の剣特は伽灼とリリアに分かれ、伽灼が影清に、リリアが9人の医療担当者達へ攻撃を仕掛けていた。
 後方の黒づくめの男達の攻撃を直接受けている体特部隊が気になるが斑鳩がいればしばらくは大丈夫だろう。念の為茉里はマリア達を展開させた。咄嗟の判断だったが、それが今出来る最善の策だ。
 様子を窺っていた重黒木じゅうくろきが馬で茉里率いる弓特部隊目掛けて駆けて来た。栄枝は馬に跨ったまま静観している。

「全員、重黒木師範へ狙いを!  出来れば手脚を狙い殺さないように!!」

「な~に甘ったれた事言ってるんですか!?  後醍院ごだいいんさん!!  敵に情けは無用!!」

 アリアは茉里の命令を無視して重黒木に矢を射た。

「アリアさん!?」

「どうする?  後醍院。殺すつもりでやらないとマジで死ぬぞ!?」

「後醍院さん!!」

 矢継と千里がさらに指示を求めてきた。
 カンナの気持ちを汲んで重黒木は生かしておきたい。しかし、アリア達の言う通り、殺すつもりでやらなければこちらが死ぬ。

「分かりました。あなた達は殺すつもりでやってください。まずは馬から落とします」

 茉里が指示を出すと、矢継と千里は重黒木の馬へ矢を放ち始めた。
 アリアの重黒木本人への矢は巧みに躱され、何本かは素手で打ち払われていた。

「ごめんなさい。澄川すみかわさん」

 茉里は静かに呟くと重黒木へ矢を放った。


    ____



 斑鳩の隣りで叢雲むらくも石櫃いしびつが落ちた。
 突然現れた黒づくめの男達にまたたく間に斬り殺された。斑鳩も闘玉で応戦したが敵の数が多過ぎて全てを防げなかった。それに、一際動きが良い男がいる。男は槍を振り回し斑鳩だけを狙ってきた。その男に闘玉を何発放っても当らない。これまでに闘玉の軌道を見切られたのは影清と青幻せいげん配下の孟秦もうしんの2人だけだった。
 この男もそれに準ずる強さを持っているというのか。

「貴様、何者だ!!」

 斑鳩が他の黒づくめの男達を素手で打ち落としながら言った。

「知る必要はない」

 男は斑鳩の問に答えず真っ直ぐに騎乗したまま槍を突っ込ませて来た。
 斑鳩は身体を反らせて躱し、男の槍を脇に抱えて抑えた。
 すると男は馬上で飛び上がり、斑鳩に抑えられている槍を支点に斑鳩の身体に蹴りを入れた。
 斑鳩は堪らず馬から落ちた。すぐに受け身を取り立ち上がり、見上げた先には斑鳩の馬の鞍の上に立ちこちらを見下している男がいた。
 斑鳩が動くよりも早く男が馬から飛び降りながら蹴りを放つ。斑鳩は両腕で頭を守ったが、男は斑鳩のがら空きの脇腹を槍の柄で打った。斑鳩は膝を付いた。

「斑鳩さん!!」

 近くで黒づくめの男達をキナと2人で相手にしている蔦浜つたはまが叫んだ。
 蔦浜は無数の男達を捌き切れず今にも埋もれそうだった。

「邪魔だ!  どけ!!  蔦浜ー!!  斑鳩さんー!!  今行きます!!」

 キナは黒づくめの男達を何人も腕を掴み投げ飛ばしては蹴り、投げ飛ばしては蹴りを繰り返し徐々にこちらに向かって来ていた。

「叢雲と石櫃を殺った男は私が始末した!  死ぬなよー!  蔦浜ー!!」

 キナの声が響いた。それと同時に矢が辺りに降り注ぎ黒づくめの男達を何人か射殺した。
 蔦浜やキナの周りの男達が次々と倒れていく。
 黒い波の間に一瞬ツインテールの髪が見えた。光希みつきはまだ無事なようだ。しかし、そう長くはもたないだろう。一刻も早くこの目の前の男を片付けなければならない。

「弓兵を先に始末しろ!」

 斑鳩の目の前の男の指示が飛ぶ。一斉に黒づくめの男達は蔦浜とキナから離れれその奥に構えている弓特部隊に襲い掛かった。

「ちっ!」

 斑鳩は弓特部隊へ向かう男達に闘玉を何発も放った。しかし、倒したのは数人程度で続々と弓特部隊に突撃して行ってしまった。

「余所見をするとは随分なものだな。貴様、序列は?」

 目の前の男が話し掛けてきた。槍を構えたまま隙がない。

「学園序列7位。斑鳩爽だ!」

「7位か」

 男は目の色を変えてまた襲い掛かってきた。
 周りへ目を逸らすことが出来ない。目を逸らしたら死ぬ。
 こちらへの援護の矢はもう来なかった。
 後ろの方で女達の悲鳴が聴こえた。
 
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