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響月の章
第7話 異例な仕合
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視線が気になった。
体術特待クラスの寮の生徒達はカンナを蔑むような目で見てきた。寮の廊下を歩いていると常にその視線を感じるのだ。
いつもの事なので、カンナは気にしないように急ぎ足で寮を出て来た。
澄川カンナと多綺響音の序列仕合は学園の生徒全員が知ることになった。仕合は7日後行われることになっていた。自分が響音に挑むということがほかの生徒達には馬鹿げたことに見えたのだろう。
序列仕合を行うときは必ず対戦者同士が学園総帥である割天風に届け出ることになっていて、そこで同意書を書かされる。
死の同意書だ。
序列仕合はお互いが本気を出して闘う。そのため、怪我をすることは日常茶飯事で時には死亡することも有り得る。序列仕合は2ヶ月に1回程の頻度で行われており、現在まで死者は出ていない。故に同意書はあくまでもこの仕合で相手を殺してしまったときの保険のようなものだ。
ただ、今回ばかりは相手が相手だった。響音はカンナを殺そうとしている。無論、カンナは響音を殺すつもりはない。殺したいという気持ちになったことがないわけではないが、人を私情で殺してはならない。父がずっと言い続けていたことだった。
カンナの父親は、政治家であり武道家だった。
第三次大戦後の”銃火器等完全撤廃条約”を世界各国が締結するように影で尽力したのがカンナの父であった。
この条約の締結で、世界から銃や兵器といった大量殺戮を可能にするものは消え去った。しかし、裏では銃の密売が後を立たない。
カンナの父は篝気功掌の師範でもあった。カンナも幼い頃に父に教わり篝気功掌を体得した。
カンナにとって父は強くて優しい憧れの存在だった。
そんな父は、条約締結に関わったことをある人物に知られ、暗殺されてしまった。
父を殺した男の名は我羅道邪。武器商人である。我羅道邪は自らの部下50人に銃で武装させ、カンナが留守の時に父と母しかいない家を襲撃。父は母を護りながら闘ったが銃には適わず母とともに死んだのだ。カンナが家に戻った時、微かに息のあった父が耳元で囁いた。
「人を憎むなよ。お前に教えた技は復讐に使うものではない。大切なものを守る為にあるのだぞ」
カンナは技を使う度に思い出した。父のあの言葉を。しかし、「大切なもの」というものが何なのか未だに分からなかった。カンナにとって大切なものとは父であり、母でありそれが全てだった。もう守ることなんて出来ない。それに我羅道邪を憎まないことなど出来るはずがなかった。
響音も自分にそのような感情を抱いているのだろうか。
カンナはいつもの岸壁での氣を練る修行に向かう途中でそんな事を考えていた。
氣が1つ。近付いてくる。
学園序列10位・剣術特待クラスの茜リリアだ。
「カンナ! やっと見つけた! あなた響音さんに仕合申し込んだって本当なの?」
リリアは馬で駆けてきたようだ。相変わらずポニーテールの長い青い髪が美しく風に靡いている。
「はい、正当な仕合です。問題ないです」
カンナは無表情で言った。
「あなたは序列11位なのよ!? 序列8位の響音さんに挑むんて無茶よ! それにあの人はあなたを殺すわよ!」
リリアの目は必死だった。どうにかして仕合を止めさせようと馬で駆けてきたのだろう。
「これは私の闘いなんです。私が響音さんを仕合という正当な形式で打ち負かさないと嫌がらせは終わらないんです」
リリアは嫌がらせという言葉を聞いて目線を下にした。
「私が……私が響音さんを止められればいいのだけれど、あの人は下位序列の人間の言うことなんか絶対に聞かない。それこそ私が響音さんに仕合で勝って上にならなくてはならない……でも、私じゃ勝てないのよ、あの人には……ごめんね、カンナ。何もしてあげられなくて」
「なんでリリアさんが謝るんですか? リリアさんは何も悪くない!」
「カンナ。この仕合は異例なのよ?普通は自分より序列が1個だけ上の人に仕合を申し込むの。それをあなたは3つも上の相手に……そんなのまりかさんが響音さんの序列を奪った時の仕合くらいよ? ほかに例がないわ。お願いだから、仕合、やめて」
リリアの額に一粒の汗が光っていた。
「例えそうだとしても、私はあの人を倒す。そうでもしないと、この学園生活がただの地獄になってしまう」
リリアは今にも泣きそうな顔をしてカンナを見つめていた。リリアは何か言おうとしていたが首を振ってくるりと後ろを向いてしまった。
「これだけは守ってね」
後ろを向いたまリリアは言った。
「絶対に、死なないで」
「死なないよ」
小さく呟いた言葉を聞いて、リリアは馬の腹を蹴り駆けていった。もうこちらを振り向かなかった。
死なない。とは言ったものの、響音がどのように闘うのかは知らなかった。分かることといったら、剣を使う事、特殊な歩行術により学園最速ということ、そして自らが感じることが出来る禍々しい強大な氣を持っていることくらいだった。
響音に限らず、同じ特待クラスの生徒以外の闘い方など、親友の斉宮つかさくらいしか知らなかった。
やるからには勝たなければならない。この仕合はカンナにとって復讐ではない。だから技を使ってもいい。そう自分に言い聞かせた。
体術特待クラスの寮の生徒達はカンナを蔑むような目で見てきた。寮の廊下を歩いていると常にその視線を感じるのだ。
いつもの事なので、カンナは気にしないように急ぎ足で寮を出て来た。
澄川カンナと多綺響音の序列仕合は学園の生徒全員が知ることになった。仕合は7日後行われることになっていた。自分が響音に挑むということがほかの生徒達には馬鹿げたことに見えたのだろう。
序列仕合を行うときは必ず対戦者同士が学園総帥である割天風に届け出ることになっていて、そこで同意書を書かされる。
死の同意書だ。
序列仕合はお互いが本気を出して闘う。そのため、怪我をすることは日常茶飯事で時には死亡することも有り得る。序列仕合は2ヶ月に1回程の頻度で行われており、現在まで死者は出ていない。故に同意書はあくまでもこの仕合で相手を殺してしまったときの保険のようなものだ。
ただ、今回ばかりは相手が相手だった。響音はカンナを殺そうとしている。無論、カンナは響音を殺すつもりはない。殺したいという気持ちになったことがないわけではないが、人を私情で殺してはならない。父がずっと言い続けていたことだった。
カンナの父親は、政治家であり武道家だった。
第三次大戦後の”銃火器等完全撤廃条約”を世界各国が締結するように影で尽力したのがカンナの父であった。
この条約の締結で、世界から銃や兵器といった大量殺戮を可能にするものは消え去った。しかし、裏では銃の密売が後を立たない。
カンナの父は篝気功掌の師範でもあった。カンナも幼い頃に父に教わり篝気功掌を体得した。
カンナにとって父は強くて優しい憧れの存在だった。
そんな父は、条約締結に関わったことをある人物に知られ、暗殺されてしまった。
父を殺した男の名は我羅道邪。武器商人である。我羅道邪は自らの部下50人に銃で武装させ、カンナが留守の時に父と母しかいない家を襲撃。父は母を護りながら闘ったが銃には適わず母とともに死んだのだ。カンナが家に戻った時、微かに息のあった父が耳元で囁いた。
「人を憎むなよ。お前に教えた技は復讐に使うものではない。大切なものを守る為にあるのだぞ」
カンナは技を使う度に思い出した。父のあの言葉を。しかし、「大切なもの」というものが何なのか未だに分からなかった。カンナにとって大切なものとは父であり、母でありそれが全てだった。もう守ることなんて出来ない。それに我羅道邪を憎まないことなど出来るはずがなかった。
響音も自分にそのような感情を抱いているのだろうか。
カンナはいつもの岸壁での氣を練る修行に向かう途中でそんな事を考えていた。
氣が1つ。近付いてくる。
学園序列10位・剣術特待クラスの茜リリアだ。
「カンナ! やっと見つけた! あなた響音さんに仕合申し込んだって本当なの?」
リリアは馬で駆けてきたようだ。相変わらずポニーテールの長い青い髪が美しく風に靡いている。
「はい、正当な仕合です。問題ないです」
カンナは無表情で言った。
「あなたは序列11位なのよ!? 序列8位の響音さんに挑むんて無茶よ! それにあの人はあなたを殺すわよ!」
リリアの目は必死だった。どうにかして仕合を止めさせようと馬で駆けてきたのだろう。
「これは私の闘いなんです。私が響音さんを仕合という正当な形式で打ち負かさないと嫌がらせは終わらないんです」
リリアは嫌がらせという言葉を聞いて目線を下にした。
「私が……私が響音さんを止められればいいのだけれど、あの人は下位序列の人間の言うことなんか絶対に聞かない。それこそ私が響音さんに仕合で勝って上にならなくてはならない……でも、私じゃ勝てないのよ、あの人には……ごめんね、カンナ。何もしてあげられなくて」
「なんでリリアさんが謝るんですか? リリアさんは何も悪くない!」
「カンナ。この仕合は異例なのよ?普通は自分より序列が1個だけ上の人に仕合を申し込むの。それをあなたは3つも上の相手に……そんなのまりかさんが響音さんの序列を奪った時の仕合くらいよ? ほかに例がないわ。お願いだから、仕合、やめて」
リリアの額に一粒の汗が光っていた。
「例えそうだとしても、私はあの人を倒す。そうでもしないと、この学園生活がただの地獄になってしまう」
リリアは今にも泣きそうな顔をしてカンナを見つめていた。リリアは何か言おうとしていたが首を振ってくるりと後ろを向いてしまった。
「これだけは守ってね」
後ろを向いたまリリアは言った。
「絶対に、死なないで」
「死なないよ」
小さく呟いた言葉を聞いて、リリアは馬の腹を蹴り駆けていった。もうこちらを振り向かなかった。
死なない。とは言ったものの、響音がどのように闘うのかは知らなかった。分かることといったら、剣を使う事、特殊な歩行術により学園最速ということ、そして自らが感じることが出来る禍々しい強大な氣を持っていることくらいだった。
響音に限らず、同じ特待クラスの生徒以外の闘い方など、親友の斉宮つかさくらいしか知らなかった。
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