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響月の章
第16話 仕合開始
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カンナと響音の序列仕合当日。
斉宮つかさは勿論仕合を見に来ていた。
カンナはすでに仕合場の金網の中にいた。響音も到着しており、両者いつでも仕合を始める準備は出来ているようだった。
つかさは仕合前にカンナの寮に顔を出しに行っていた。本当に仕合をするのか、そう聞くとカンナは迷わず頷いた。つかさは見守るしかないと思った。つかさが望むのはカンナの勝利。それ以外の結果に未来はないのだ。
仕合場の金網の周りには、まりかと響音の序列仕合の時よりも多くの生徒が来ているようだった。入学早々学園序列11位に入ってきたカンナがどうなるのか興味があるのだろう。
剣特、体特、槍特、弓特の錚々たる面々が揃っていた。つかさも実際に見たことのない顔もあった。
序列10位以上の生徒も殆ど集まっていた。いないのは序列1位の神髪瞬花と序列3位の久壽居朱雀だ。序列2位の美濃口鏡子と序列4位の影清は前回同様に観戦に来ていた。
他には序列5位の畦地まりか、序列6位の外園伽灼の姿もあった。
もちろん、割天風とその側近の茜リリアもいた。
剣特と体特の生徒は殆どがカンナを無視していたと聞いたが、この仕合の観戦に集まったのはどういう意味があるのだろうか。
「それではこれより、学園序列8位の多綺響音と学園序列11位の澄川カンナによる序列仕合を執り行う」
仕合を取り仕切る師範が両者の間で開始の合図を出した。
始まった。つかさはカンナを目で追っていた。
仕合開始と同時にカンナは響音の右手側に回った。右手のない響音にとってそちら側からの攻撃は通常よりも受けづらいはずだ。
卑怯などとは言っていられない。この仕合、何が何でも勝たなければならないのだ。
すぐにカンナは右脚を響音の頭目掛けて打ち込んだ。しかし、響音はしゃがんで回避。カンナはすかさず回転して下段に蹴りを入れた。
手応えはない。
響音は跳んでいた。カンナの頭上。なんという跳躍力だろう。響音もそのままカンナの頭目掛けて蹴りを入れる。左手でそれを払い、響音の腹へ拳を打ち込む。
しかし脚で防がれ、響音はカンナから離れたところに着地した。
お互い1発も入れることが出来なかった。
響音は腰の柳葉刀をまだ抜いていない。
「さすがは体特の生徒ね。あたしも体術は出来る方なんだけど」
響音は不敵に笑いながら言った。
カンナは黙って響音を見ていた。
速い。体特の生徒達と同等の速さかそれ以上だった。だが、まだ『神速』は使っていないだろう。
熊退治の任務を告に来た時の響音の移動が『神速』だったのだろう。あれは人の速さではなかった。あれを使われたら氣を感知してもおそらく身体が追いつかない。『神速』を使われる前に倒さなければならない。
カンナは左手の掌を前に出し、右手は腰の辺りで構え、大きく息を吐いた。
「ふーん、それが、篝気功掌の構え?
意外と普通ね」
響音は鼻で笑いながらカンナの様子を見ていた。
カンナは自分の氣を身体全体から放った。自分を中心に3メートル。1対1の戦闘であればそれで十分だった。その範囲なら例え目をつぶっていても相手の動きが分かる。
カンナは響音に突っ込んだ。その突進はキレがあり体重の軽い人間なら吹き飛んでいるだろう。その速度のまま右の拳を握り締め響音の腹部を狙う。しかし、寸前でひらりと交わされた。すかさず響音はカンナの脳天に肘を入れようとした。だが響音の左腕がすぐにあがらなかった。腹を抑えカンナから距離を取り片膝を付く響音。
観戦している生徒達からどよめきの声が上がった。
確かに響音にはカンナの拳は当たっていない。掠かすってすらいない。
「……なに……? どうなってる?」
響音にも周りの生徒達にも状況が呑み込めない。
響音の腹の辺りの布が焦げたようになっていた。
カンナは無表情で響音を見た。
「掠らなくても効きますよ。私の技は」
響音はカンナを睨みつけた。
「氣の力か‥‥」
響音は今のカンナの技が氣を利用した技であると予測した。
カンナは何も答えず、静かにまた構えた。
「変な技使いやがって、だけど、こんなダメージしか入らないならいくらやっても無駄よ! カンナ。調子に乗らない方がいいわよ」
カンナはまた何も答えず響音に突っ込んだ。
「猪見たいに真っすぐ突っ込んでばかり」
カンナが拳を響音に入れた。そう思ったがそこに響音はいなかった。移動した様子もない。しかし響音の姿はない。
「カンナ、あんたがどんな奇怪な技を使ったところであたしに指1本触れられ……」
カンナの射抜くような鋭い蹴りがいつの間にか背後に移動していた響音に襲いかかった。
「くっ……!」
ギリギリで交わしたが響音の鼻からは血が垂れていた。
「今あたしは『神歩』を使ったのよ? それに瞬時に反応するなんて……それも氣の力なのね、カンナ」
「そうです。これが篝気功掌の闘い方。私は体術では絶対に負けません」
響音を凛とした眼差しで見つめるカンナ。
観戦している生徒達からはカンナに歓声が上がった。
しかし、響音が睨みを効かせたので歓声はすぐに収まってしまった。
響音は頷きならがら言った。
「あぁそう、随分と態度がデカイわね。まぁ今のは私の氣の動きを読んだんでしょうね。分かってきたわ。お前の出来ることが」
響音は左手で鼻血を拭き、ついに柳葉刀を抜いた。
「それじゃあね、カンナ。お前にあたしの本当の『神速』という神の力を見せてあげるわ」
言い終わらぬうちから既にそこには響音の姿はなかった。
そして響音の柳葉刀はカンナの首のすぐ横に迫っていた。
斉宮つかさは勿論仕合を見に来ていた。
カンナはすでに仕合場の金網の中にいた。響音も到着しており、両者いつでも仕合を始める準備は出来ているようだった。
つかさは仕合前にカンナの寮に顔を出しに行っていた。本当に仕合をするのか、そう聞くとカンナは迷わず頷いた。つかさは見守るしかないと思った。つかさが望むのはカンナの勝利。それ以外の結果に未来はないのだ。
仕合場の金網の周りには、まりかと響音の序列仕合の時よりも多くの生徒が来ているようだった。入学早々学園序列11位に入ってきたカンナがどうなるのか興味があるのだろう。
剣特、体特、槍特、弓特の錚々たる面々が揃っていた。つかさも実際に見たことのない顔もあった。
序列10位以上の生徒も殆ど集まっていた。いないのは序列1位の神髪瞬花と序列3位の久壽居朱雀だ。序列2位の美濃口鏡子と序列4位の影清は前回同様に観戦に来ていた。
他には序列5位の畦地まりか、序列6位の外園伽灼の姿もあった。
もちろん、割天風とその側近の茜リリアもいた。
剣特と体特の生徒は殆どがカンナを無視していたと聞いたが、この仕合の観戦に集まったのはどういう意味があるのだろうか。
「それではこれより、学園序列8位の多綺響音と学園序列11位の澄川カンナによる序列仕合を執り行う」
仕合を取り仕切る師範が両者の間で開始の合図を出した。
始まった。つかさはカンナを目で追っていた。
仕合開始と同時にカンナは響音の右手側に回った。右手のない響音にとってそちら側からの攻撃は通常よりも受けづらいはずだ。
卑怯などとは言っていられない。この仕合、何が何でも勝たなければならないのだ。
すぐにカンナは右脚を響音の頭目掛けて打ち込んだ。しかし、響音はしゃがんで回避。カンナはすかさず回転して下段に蹴りを入れた。
手応えはない。
響音は跳んでいた。カンナの頭上。なんという跳躍力だろう。響音もそのままカンナの頭目掛けて蹴りを入れる。左手でそれを払い、響音の腹へ拳を打ち込む。
しかし脚で防がれ、響音はカンナから離れたところに着地した。
お互い1発も入れることが出来なかった。
響音は腰の柳葉刀をまだ抜いていない。
「さすがは体特の生徒ね。あたしも体術は出来る方なんだけど」
響音は不敵に笑いながら言った。
カンナは黙って響音を見ていた。
速い。体特の生徒達と同等の速さかそれ以上だった。だが、まだ『神速』は使っていないだろう。
熊退治の任務を告に来た時の響音の移動が『神速』だったのだろう。あれは人の速さではなかった。あれを使われたら氣を感知してもおそらく身体が追いつかない。『神速』を使われる前に倒さなければならない。
カンナは左手の掌を前に出し、右手は腰の辺りで構え、大きく息を吐いた。
「ふーん、それが、篝気功掌の構え?
意外と普通ね」
響音は鼻で笑いながらカンナの様子を見ていた。
カンナは自分の氣を身体全体から放った。自分を中心に3メートル。1対1の戦闘であればそれで十分だった。その範囲なら例え目をつぶっていても相手の動きが分かる。
カンナは響音に突っ込んだ。その突進はキレがあり体重の軽い人間なら吹き飛んでいるだろう。その速度のまま右の拳を握り締め響音の腹部を狙う。しかし、寸前でひらりと交わされた。すかさず響音はカンナの脳天に肘を入れようとした。だが響音の左腕がすぐにあがらなかった。腹を抑えカンナから距離を取り片膝を付く響音。
観戦している生徒達からどよめきの声が上がった。
確かに響音にはカンナの拳は当たっていない。掠かすってすらいない。
「……なに……? どうなってる?」
響音にも周りの生徒達にも状況が呑み込めない。
響音の腹の辺りの布が焦げたようになっていた。
カンナは無表情で響音を見た。
「掠らなくても効きますよ。私の技は」
響音はカンナを睨みつけた。
「氣の力か‥‥」
響音は今のカンナの技が氣を利用した技であると予測した。
カンナは何も答えず、静かにまた構えた。
「変な技使いやがって、だけど、こんなダメージしか入らないならいくらやっても無駄よ! カンナ。調子に乗らない方がいいわよ」
カンナはまた何も答えず響音に突っ込んだ。
「猪見たいに真っすぐ突っ込んでばかり」
カンナが拳を響音に入れた。そう思ったがそこに響音はいなかった。移動した様子もない。しかし響音の姿はない。
「カンナ、あんたがどんな奇怪な技を使ったところであたしに指1本触れられ……」
カンナの射抜くような鋭い蹴りがいつの間にか背後に移動していた響音に襲いかかった。
「くっ……!」
ギリギリで交わしたが響音の鼻からは血が垂れていた。
「今あたしは『神歩』を使ったのよ? それに瞬時に反応するなんて……それも氣の力なのね、カンナ」
「そうです。これが篝気功掌の闘い方。私は体術では絶対に負けません」
響音を凛とした眼差しで見つめるカンナ。
観戦している生徒達からはカンナに歓声が上がった。
しかし、響音が睨みを効かせたので歓声はすぐに収まってしまった。
響音は頷きならがら言った。
「あぁそう、随分と態度がデカイわね。まぁ今のは私の氣の動きを読んだんでしょうね。分かってきたわ。お前の出来ることが」
響音は左手で鼻血を拭き、ついに柳葉刀を抜いた。
「それじゃあね、カンナ。お前にあたしの本当の『神速』という神の力を見せてあげるわ」
言い終わらぬうちから既にそこには響音の姿はなかった。
そして響音の柳葉刀はカンナの首のすぐ横に迫っていた。
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