序列学園

あくがりたる

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響月の章

第15話 カンナ、助言を乞う

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 カンナはいつもの東の岩壁でを練る修行を1時間こなすとすぐに剣術特待クラスの寮に向かった。

 多綺響音たきことねに仕合で勝つには、彼女自身に勝ったことがある人物に会って闘い方を聞いた方が良い。そう思ったのだ。

 学園序列5位、畦地あぜちまりか。序列仕合で響音から序列5位を奪った張本人だ。まりかなら響音の闘い方を知っているはずだ。カンナに教えてくれるかは別にして。

 実際カンナはまりかに会ったことは1度もない。クラスが違えば学園内で会うことはほとんどないのだ。

 剣特寮に着いた。到着してから響音もこの寮の生徒だということを思い出した。ここで会うのは気まずい。

 カンナは響音の氣を探ったがどうやら近くにはいないようだ。カンナの氣の探知能力はこういう時にも役に立つ。

 寮には強く感じる氣が2つあった。この氣はおそらく、序列4位の影清かげきよか序列5位の畦地まりか、もしくは序列6位の外園伽灼ほかぞのかやのどれかだろう。カンナはその3人の氣を誰1人知らなかったので確証が持てなかった。

 

 カンナは畦地まりかの部屋を探した。

 この学園では序列5位以上は1人部屋が与えられる。その部屋を探し寮をうろうろしていると人影が見えた。この寮の生徒だろうか。カンナはまりかの部屋を聞くため近付いた。


「あっ!」


 カンナも相手も同時に声を上げた。

 カンカン帽を被り、一際長い長刀を持った女の子だった。


ほうりさん、あの聞きたいことがあるんだけど……」


 その生徒は以前の浪臥村ろうがそんの熊退治の任務の時に村当番だった序列29位の祝詩歩ほうりしほだった。

 詩歩はカンナの顔を見ると目を逸らし通り過ぎようとした。カンナは慌てて詩歩の腕を掴んだ。


「ちょっと、待ってよ」


 すると詩歩は掴まれた方の腕を強く引いてカンナの腕を払い除けた。


「何よ!! やめてよ!! 私に話し掛けないで!!」


 詩歩は怒った様子でカンナを睨みつけた。


「この前は燈やつかささんも一緒だったから少し話してあげたけど、私はあなたとは友達じゃないからね!? 気安く話し掛けないでよね?」


 カンナは詩歩の直球な物言いに心を抉えぐられた。


「1つだけ教えて! 畦地さんの部屋はどこ? 用があるのよ」


 詩歩は不服そうに答えた。


「2階の部屋。あとは自分で探して」


 ぷいっと顔を逸らし詩歩は寮の外へ歩いて行ってしまった。

 カンナは詩歩も響音の機嫌を損ねないように指示に従ってるだけだろうと思った。この学園で下位序列の人間が自分の身を守る方法としてそれが賢明と言えば賢明である。

 カンナは階段で2階に上がった。

 通路の奥に進むと『序列6位 外園伽灼』というシンプルな表札があった。ということは、序列5位のまりかの部屋は隣だろう。

 予想通り、伽灼の隣の部屋がまりかの部屋だった。伽灼とは雰囲気の違う星やハート、小さな動物のシールなどが貼ってある表札でとても可愛らしかった。

 カンナはまりかの部屋の扉をノックした。カンナの氣を読む力なら部屋に人がいるかどうかは簡単に分かってしまう。しかし、あまりそのようなことで氣を使いたくはなかった。氣を使って探知をするにも体力を消費するし、何より相手のプライバシーを侵害しているような気がするからだ。


「すみません、澄川すみかわカンナと申します。畦地さんいらっしゃいますか?」


 丁寧に挨拶すると扉が開いた。


「響音さんに仕合を申し込んだカンナちゃんじゃない! 初めまして! 畦地まりかです!」


 部屋から出てきたまりかはにこりと笑顔でカンナを出迎えてくれた。

 カンナは初めてまりかに会ったわけだが、この人もリリアやつかさ、燈達と同じいい人だと思った。


「あ、あの、実はその仕合のことで、畦地さんにお聞きしたいことがありまして」


「ん? なるほど! なんとなく予想は出来たけど、一応聞いてあげよう!」


 まりかは笑顔だった。カンナはほっとした。


「響音さんと闘う上でのアドバイスを頂きたいと思いお伺いしました」


「やっぱりね!」


「お願いします」


 カンナが頭を下げた。


「カンナちゃん、それ教えてさぁ、私に何かメリットあるの?」


 カンナは一瞬固まった。頭を下げたまま、顔を上げてまりかを見ることが出来なかった。


「え? メリット……?」


 意を決してまりかの顔を見たカンナは背筋が凍るのを感じた。


「そう、メリット。私にメリットがないんじゃ、教えたくはないわね」


 まりかは笑顔だった。しかし、その笑顔は初めの笑顔とは何かが違っていた。悪意に満ちている、そんな感じだろうか。

 カンナの身体は震えていた。


「ん? どうしたの怖い顔しちゃって? 身体、震えてるわよ? 休んだ方がいいんじゃない? じゃあ、お大事にね!」


 まりかは最後まで笑顔のままで、カンナの要求には一切答えず玄関の扉を閉めた。

 カンナの身体の震えは収まらず、数歩後ずさりしていた。

 すると、隣からくすくすと笑い声が聴こえた。


「あ、ごめんごめん! 余りにも滑稽だったからつい」


 銀髪で紅い目の女の子はこちらを見て口を抑えながら笑っていた。


「カンナだっけ? まりか怖かったの?」


 相変わらずくすくす笑いながらこちらを見ている。不快だったが、今カンナはそれどころではなかった。


「で、響音さんの闘い方とか知りたいんだって?」


「もしかして、あなたは外園さん?」


 震える口からようやく言葉を捻り出した。


「そう。まりかに相手にされないって事は相当お前弱いんだろうね。ちょっと不憫だからあたしが少しだけなら話してやるよ」


 伽灼はついて来いと言うと剣特寮の中庭の方へに向かった。

 カンナも震える身体に鞭打って伽灼について行った。


 


 剣特寮の中庭で、カンナと伽灼はベンチに腰を下ろしていた。


「『神速しんそく』?」


「そう。まぁ特殊能力みたいなものだな。神の力を分けて貰った的なやつらしい。それがあるから響音さんは自分の脚で馬の4倍の速さで移動出来るんだよ」


「それが1番厄介ですね。いくら私が氣を探っても身体が反応出来なければやられてしまう」


「それだけじゃない。響音さんは全ての武術に長けているから神速がなくてもお前が勝てるとは思えない」


 伽灼は相変わらず笑っていた。

 カンナの身体の震えは収まっていたので伽灼の人を馬鹿にした態度に些いささか苛立ち始めた。


「まりかはね、『神眼しんがん』っていう能力を持っているから利き腕を失ったばかりの響音さんに勝てたんだと思う。実際、利き腕があれば響音さんはまりかには負けなかっただろうしね」


 『神』と名のつく能力がこの世に存在していたこと自体カンナは知らなかった。父なら知っていたかもしれない。


「ま、どちらにせよ、その能力を持っていないお前じゃ勝てないよ。死にたくなかったらこの学園から逃げ出しな」


 カンナは最後まで苛立っていた。しかし、響音の技の秘密を教えて貰えたことは大きな収穫だった。苛立ちは深呼吸してなんとか抑えることにした。


「色々と教えて頂きありがとうございます」


 カンナは深々とお辞儀してそこから立ち去ろうとした。

 すると伽灼が呟いたのが聴こえた。


「お前……似てるな」


「え?」


 カンナは意味が分からずきょとんとしてしまった。


「いや、何でもない。カンナ、仕合逃げ出さないならお前が響音さんに殺されるところ見に行くから、せいぜいいい顔見せてくれよ」


 伽灼はまた皮肉を言い笑っていた。

 カンナはもう聴こえないフリをして剣特寮を後にした。
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