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第一章 換金士の少年と黒鬼の巫女
第11話 激写指令! 姫様の無理難題
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通勤や通学途上の通行人で賑わう商店街をスーツ姿で歩く一人の女がいた。
魔界の部族の姫である風弓白雪の部下、紫水である。
彼女の百メートルほど先には高校の制服姿の神凪響詩郎と鬼ヶ崎雷奈が歩いていた。
心なしか二人はいつもよりも距離をあけて歩いていて、そこにはどこかよそよそしい空気が漂っていた。
そんな二人の後を尾行しながら紫水はため息をつく。
こうしてストーカーのような生活を続けてすでに一週間が経過した。
「はぁ……これが私の初任務か」
紫水は生まれておよそ百年に満たない若い妖魔だが、部族の中でも名家の出身であり、若くして頭角を現した才媛だった。
狭き門を潜り抜け、数多のライバルたちを蹴落として射止めた姫さま付きの地位。
ようやくその名誉に与れたというのに最初の仕事が姫の見初めた男の監視となれば、彼女のため息も当然だった。
「何にしても強力な証拠を入手した。しかしあんな破廉恥な映像を姫様に見せていいものか……」
雷奈と響詩郎が共同生活を営むバスハウス内部に複数設置した監視カメラの一つが先ほど捉えたのは、雷奈が嬌声を上げて響詩郎にしがみつく過激な映像だった。
それをきっちり録画していた紫水は幾度も内心で喜びの声を上げたが、それをどう白雪に提示するかに頭を悩ませていた。
(しかし、あの映像を見れば真相はどうであれ誰もがあの二人は男女の仲になったと疑うだろう。決定的な証拠になり得る)
尾行を続けながらもそうした思考に没頭する紫水だが、唐突にケータイがバイブレーションを繰り返すのを感じて、うつむきがちだった彼女は背すじをピンと伸ばした。
ケータイの画面には着信の相手として、彼女の主の名が表示されている。
「はい。紫水です」
『私です』
電話の相手は紫水の主たる白雪その人だった。
「姫さま。今日も響詩郎殿は変わらず雷奈嬢と行動をともにしています」
『そうですか。紫水。お役目ご苦労さま。今まで通り、監視を続けてください』
紫水は視界の隅にきっちりと標的の姿を捉えながら申し出た。
「姫さま。申し上げにくいことではありますが、あの二人がつがうのはもはや時間の問題かと……」
紫水の頭の中には今朝の監視映像がありありと浮かぶ。
彼女としては願ってもいない展開である。
だが、紫水は自分の言葉に少なからずそうした本心が滲んでいたことに気が付き後悔した。
白雪がしばし無言になったためだ。
やがて電話の向こうから聞こえてきた白雪の声は冷たい刃のようだった。
『……紫水。監視の役目はもう飽きましたか?』
「い、いえ。決してそのようなことは……」
『もしくは、あなたは私が女として雷奈さんに負けると思っているのですか?』
「め、めっそうもございません」
慌てて弁明する紫水に対して白雪は厳然と告げた。
『ならば心配は無用です。正々堂々と響詩郎さまを私の夫に迎えましょう』
「おっしゃる通りかと。失礼いたしました」
消沈する紫水をいたわるように白雪はもとの穏やかな調子で話を続けた。
『それより。響詩郎さまはお元気ですか?』
「……ええ。お変わりないように見えますが」
それを聞くと白雪は少女のように嬉々とした声を上げた。
紫水の倍ほどの長さを生きている白雪だが、こうしたときの彼女は姫としての威厳とはかけ離れた普通の女の子に戻る。
『それは良かった。ところで紫水。その……あのね……こっそりと響詩郎さまのお写真を撮ってきてくれないかしら?』
「は? しゃ、写真ですか?」
『そう。待ち受けにしたいからメールで送って。お願いね。じゃ』
そう言うと白雪は恥ずかしさから逃げるように電話を切った。
残された紫水は愕然とした表情で切れた電話を見つめ、苦渋に満ちた目を潤ませながら声を絞り出した。
「くっ……なぜ私が盗撮のようなマネを」
紫水は屈辱に震えながらも、主への忠義を示すためにケータイを握り締め、小走りで響詩郎と雷奈を追っていった。
魔界の部族の姫である風弓白雪の部下、紫水である。
彼女の百メートルほど先には高校の制服姿の神凪響詩郎と鬼ヶ崎雷奈が歩いていた。
心なしか二人はいつもよりも距離をあけて歩いていて、そこにはどこかよそよそしい空気が漂っていた。
そんな二人の後を尾行しながら紫水はため息をつく。
こうしてストーカーのような生活を続けてすでに一週間が経過した。
「はぁ……これが私の初任務か」
紫水は生まれておよそ百年に満たない若い妖魔だが、部族の中でも名家の出身であり、若くして頭角を現した才媛だった。
狭き門を潜り抜け、数多のライバルたちを蹴落として射止めた姫さま付きの地位。
ようやくその名誉に与れたというのに最初の仕事が姫の見初めた男の監視となれば、彼女のため息も当然だった。
「何にしても強力な証拠を入手した。しかしあんな破廉恥な映像を姫様に見せていいものか……」
雷奈と響詩郎が共同生活を営むバスハウス内部に複数設置した監視カメラの一つが先ほど捉えたのは、雷奈が嬌声を上げて響詩郎にしがみつく過激な映像だった。
それをきっちり録画していた紫水は幾度も内心で喜びの声を上げたが、それをどう白雪に提示するかに頭を悩ませていた。
(しかし、あの映像を見れば真相はどうであれ誰もがあの二人は男女の仲になったと疑うだろう。決定的な証拠になり得る)
尾行を続けながらもそうした思考に没頭する紫水だが、唐突にケータイがバイブレーションを繰り返すのを感じて、うつむきがちだった彼女は背すじをピンと伸ばした。
ケータイの画面には着信の相手として、彼女の主の名が表示されている。
「はい。紫水です」
『私です』
電話の相手は紫水の主たる白雪その人だった。
「姫さま。今日も響詩郎殿は変わらず雷奈嬢と行動をともにしています」
『そうですか。紫水。お役目ご苦労さま。今まで通り、監視を続けてください』
紫水は視界の隅にきっちりと標的の姿を捉えながら申し出た。
「姫さま。申し上げにくいことではありますが、あの二人がつがうのはもはや時間の問題かと……」
紫水の頭の中には今朝の監視映像がありありと浮かぶ。
彼女としては願ってもいない展開である。
だが、紫水は自分の言葉に少なからずそうした本心が滲んでいたことに気が付き後悔した。
白雪がしばし無言になったためだ。
やがて電話の向こうから聞こえてきた白雪の声は冷たい刃のようだった。
『……紫水。監視の役目はもう飽きましたか?』
「い、いえ。決してそのようなことは……」
『もしくは、あなたは私が女として雷奈さんに負けると思っているのですか?』
「め、めっそうもございません」
慌てて弁明する紫水に対して白雪は厳然と告げた。
『ならば心配は無用です。正々堂々と響詩郎さまを私の夫に迎えましょう』
「おっしゃる通りかと。失礼いたしました」
消沈する紫水をいたわるように白雪はもとの穏やかな調子で話を続けた。
『それより。響詩郎さまはお元気ですか?』
「……ええ。お変わりないように見えますが」
それを聞くと白雪は少女のように嬉々とした声を上げた。
紫水の倍ほどの長さを生きている白雪だが、こうしたときの彼女は姫としての威厳とはかけ離れた普通の女の子に戻る。
『それは良かった。ところで紫水。その……あのね……こっそりと響詩郎さまのお写真を撮ってきてくれないかしら?』
「は? しゃ、写真ですか?」
『そう。待ち受けにしたいからメールで送って。お願いね。じゃ』
そう言うと白雪は恥ずかしさから逃げるように電話を切った。
残された紫水は愕然とした表情で切れた電話を見つめ、苦渋に満ちた目を潤ませながら声を絞り出した。
「くっ……なぜ私が盗撮のようなマネを」
紫水は屈辱に震えながらも、主への忠義を示すためにケータイを握り締め、小走りで響詩郎と雷奈を追っていった。
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