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第一章 『堕天使の森』
第6話 女堕天使ヒルダ
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「遊んでもらった礼をしねえとな。ヒルダ。てめえは火あぶりの刑だ」
焔雷。
俺が魔力を最大限まで高めた時、噴き上がる炎が粒子の摩擦を起こすことで発生する放電現象だ。
今にも俺の体に突き刺さろうと飛んできた矢が、焔雷に阻まれて焼き尽くされた。
この焔雷は俺にとっての防御膜の役割も果たすんだ。
「生意気! ならこれはどう?」
不愉快そうに顔を歪めたヒルダが、今度は背中に背負っていた槍を投げつけてきた。
それは投射用の短槍で、前方から向かってきたと思った途端に、真下から俺の股間目掛けて飛んできやがった。
矢よりも重量がある分、焔雷で弾き飛ばすには大き過ぎるが、そのせいで矢よりも速度が遅い。
「フンッ」
俺は頭を下げて前傾姿勢になると、前転宙返りをしながらその槍を掴み取る。
そのまま回転の勢いをつけて槍をヒルダに投げつけた。
「なにっ?」
そんな反撃は予測してなかったようで、ヒルダは不正プログラムを使う間もなく慌てて身を屈めてそれを避けた。
俺はそんなヒルダに最大出力で灼熱鴉を放つ。
「燃え尽きろっ!」
「それ無意味だから!」
そう言うヒルダの前方に例のキラキラとした埃がチラつく。
するとそこに当たった灼熱鴉が空間の揺らぎに飲み込まれた。
かと思うとそれは反射したかのように揺らぎから出て来て俺に向かって飛んできた。
さっきの反射魔法に思えたものの正体がこれか。
間違いない。
こいつは不正プログラムだ。
「俺に炎の鴉を跳ね返すほうがよっぽど無意味なんだよ!」
俺は自分に向かってくる灼熱鴉を左手で掴み取る。
炎の属性を持つ俺にとっては、灼熱の炎もちょうどいい塩梅のお湯程度なんだよ。
そう思った俺だが、ふいに左手に痛みを感じて顔をしかめる。
見ると俺の左手が真っ白く凍りついていた。
燃え盛る炎の鴉は、真っ白な凍気を吹き上げる氷の鴉へとその姿を正反対に変えていたんだ。
灼熱鴉が……変質した?
これも不正プログラムの産物か?
俺はすぐさま左手に炎を宿して氷の鴉を溶かした。
そしてそこからそのまま再度、灼熱鴉を放つ。
「こんなもんで俺の炎を消せると思うなよ!」
そう叫んで俺は灼熱鴉を放つと同時にヒルダに突っ込んでいた。
ショット&ゴーは俺の基本戦法だ。
ヒルダが反応するよりも早く俺は奴の頭上に勢いよく迫り、虚を突かれたヒルダは反応が遅れた。
「な、生意気っ!」
慌てるヒルダの頭に俺は容赦なくカカト落としを浴びせた……はずだった。
だが俺の踵を喰らって吹っ飛んだのはヒルダではなく、まったく別の堕天使の男だった。
「がはあっ!」
堕天使の男は叩き落とされて森の中へ消えていく。
ヒルダと今の奴がいきなり入れ替わりやがった。
ヒルダはどこだ?
俺は襲い来るだろうヒルダの攻撃に備えて全方位に神経を研ぎ澄ませた。
すると俺の耳にブォォォォンと不快な羽音が聞こえてくる。
これは……
「どうなってやがる……」
いつの間にか俺の周囲を無数の蜂が取り囲んでいる。
こいつらは地獄の谷の森林地帯ではよく見かける凶悪な蜂の魔物・鬼蜂だ。
大きさは俺の親指程度だが、凶暴な性格と強い毒性を秘めた毒針で数多の悪魔を刺し殺した殺人蜂だった。
一匹一匹の毒では死ぬようなことはねえが、こいつらの厄介なところは集団で集中的に差してくることだ。
そうなると一気に刺し殺される恐れもある。
チッ!
ヒルダをぶちのめそうとしている最中に何でこんな面倒なことになりやがる。
鬼蜂の群れはガチガチと一斉に顎を打ち鳴らし、俺に敵意を向けてくる。
上等じゃねえか。
俺は鬼蜂どもを焼き払うべく、両手に炎を宿す。
そんな俺に毒針を向け、鬼蜂どもは一斉に襲いかかって来た。
俺は灼熱鴉を放ち、真正面から向かってくる鬼蜂どもの一角を焼き払った。
だが次の瞬間、燃え上がる炎の中から数本の矢が俺に向かって来やがった。
ヒルダだ!
「チッ!」
ほんの一瞬、反応が遅れた俺は灼焔鉄甲で数本の矢を全て叩き折る。
だが、同時に俺は背中と左ふくらはぎの裏に焼けるような激痛を覚えた。
「ぐうっ!」
やられた!
鬼蜂だ!
俺が矢を叩き落としたその隙に、鬼蜂どもに背中とふくらはぎを一ヶ所ずつ刺されちまった。
矢への反応が遅れちまったせいで、背後の鬼蜂に対処することが出来なかった。
くそっ!
刺された俺の動きがわずかに止まったのを見た鬼蜂どもが一斉に襲いかかって来た。
くそったれが。
虫ケラごときにやられるかよ。
俺は再度、体中の魔力を全開にして焔雷を発生させようとした。
だが、そこで俺の頭上から桃色の光が降り注いで来たんだ。
「高潔なる魂!」
上空から降り注いだ桃色の光がティナの姿を象り、今にも俺を毒針で突き刺そうとしていた鬼蜂を俺の眼前で飲み込んで消滅させた。
さらに俺のすぐ傍を掠めて通り過ぎた桃色の人型の光は、周囲の鬼蜂どもを一瞬で消し去った。
「バレットさん!」
上空からティナがこちらに向けて得意の神聖魔法を撃ち下ろしながら効果してきた。
チッ!
余計なことを……ん?
ティナの奴が抱えていたパメラの姿がどこにもない?
そう思ったその時、頭上でいくつもの悲鳴が響き渡り、上空から多くの堕天使どもが墜落してきた。
どいつもこいつも体を切り裂かれていて絶命しており、鮮血が通り雨のように降り注ぐ。
頭上を振り仰ぐと、そこには空を自在に飛び回りながら、刀で堕天使どもを斬り裂くパメラの姿があった。
「あいつ……飛べたのか?」
パメラの背中にはいつの間にか灰色の翼が生えていて、それをはためかせて自在に宙を舞っている。
それを見たヒルダの顔が忌々しげに歪んだ。
「何なの! ムカつく小娘たちね!」
金切り声を上げるヒルダの周囲に再びキラキラと埃が舞い踊り始めやがった。
さっきと同じ現象だ。
俺は再度その現象を見極めようとした。
そこでティナの攻撃がヒルダを襲う。
「高潔なる魂!」
「無駄なのよ!」
桃色の光が頭上に降り注ぐと、ヒルダの前方にキラキラとした埃が舞い踊る。
だが、ヒルダは己の思惑が外れて愕然とすることになる。
ティナの放った高潔なる魂が埃に直撃した途端、それらが散り散りになって消滅していく。
そこで俺は気が付いたんだ。
キラキラと宙を舞うあれは埃じゃなくて……羽虫だ。
「くぅっ!」
ティナの高潔なる魂が直撃する寸前で、ヒルダの姿が羽虫に包まれてサッとその場から消えた。
代わりに羽虫どもが桃色の光に飲み込まれて消え去った次の瞬間、後方数メートルのところにヒルダが再び姿を現した。
ティナの攻撃をギリギリのところでかわしたヒルダの顔色はすっかり変わっている。
先ほどまでのようなムカつく不敵な表情は消え失せ、その顔には見るからに怯えた表情が浮かんでいた。
何だ?
先ほどまで戦意をたぎらせていたはずのヒルダが、ティナの攻撃を受けた途端にいきなり様子が変わった。
ティナを睨みつけるその目は動揺に泳ぎ、そしてその口から思わぬ言葉が漏れた。
「桃色の髪、見習い天使の小娘……不正処刑人ティナ。くっ……最悪じゃない」
不正……処刑人?
ヒルダは確かにそう口走った。
ということはヒルダはティナが不正プログラムを正す者だと知っている。
ならばヒルダ自身が不正プログラムの保持者である可能性は高い。
「ティナ! こいつはクロだ!」
俺はそう叫ぶと鬼蜂に刺されて焼けるように痛む体に鞭を打ち、一気呵成にヒルダに襲いかかった。
焔雷。
俺が魔力を最大限まで高めた時、噴き上がる炎が粒子の摩擦を起こすことで発生する放電現象だ。
今にも俺の体に突き刺さろうと飛んできた矢が、焔雷に阻まれて焼き尽くされた。
この焔雷は俺にとっての防御膜の役割も果たすんだ。
「生意気! ならこれはどう?」
不愉快そうに顔を歪めたヒルダが、今度は背中に背負っていた槍を投げつけてきた。
それは投射用の短槍で、前方から向かってきたと思った途端に、真下から俺の股間目掛けて飛んできやがった。
矢よりも重量がある分、焔雷で弾き飛ばすには大き過ぎるが、そのせいで矢よりも速度が遅い。
「フンッ」
俺は頭を下げて前傾姿勢になると、前転宙返りをしながらその槍を掴み取る。
そのまま回転の勢いをつけて槍をヒルダに投げつけた。
「なにっ?」
そんな反撃は予測してなかったようで、ヒルダは不正プログラムを使う間もなく慌てて身を屈めてそれを避けた。
俺はそんなヒルダに最大出力で灼熱鴉を放つ。
「燃え尽きろっ!」
「それ無意味だから!」
そう言うヒルダの前方に例のキラキラとした埃がチラつく。
するとそこに当たった灼熱鴉が空間の揺らぎに飲み込まれた。
かと思うとそれは反射したかのように揺らぎから出て来て俺に向かって飛んできた。
さっきの反射魔法に思えたものの正体がこれか。
間違いない。
こいつは不正プログラムだ。
「俺に炎の鴉を跳ね返すほうがよっぽど無意味なんだよ!」
俺は自分に向かってくる灼熱鴉を左手で掴み取る。
炎の属性を持つ俺にとっては、灼熱の炎もちょうどいい塩梅のお湯程度なんだよ。
そう思った俺だが、ふいに左手に痛みを感じて顔をしかめる。
見ると俺の左手が真っ白く凍りついていた。
燃え盛る炎の鴉は、真っ白な凍気を吹き上げる氷の鴉へとその姿を正反対に変えていたんだ。
灼熱鴉が……変質した?
これも不正プログラムの産物か?
俺はすぐさま左手に炎を宿して氷の鴉を溶かした。
そしてそこからそのまま再度、灼熱鴉を放つ。
「こんなもんで俺の炎を消せると思うなよ!」
そう叫んで俺は灼熱鴉を放つと同時にヒルダに突っ込んでいた。
ショット&ゴーは俺の基本戦法だ。
ヒルダが反応するよりも早く俺は奴の頭上に勢いよく迫り、虚を突かれたヒルダは反応が遅れた。
「な、生意気っ!」
慌てるヒルダの頭に俺は容赦なくカカト落としを浴びせた……はずだった。
だが俺の踵を喰らって吹っ飛んだのはヒルダではなく、まったく別の堕天使の男だった。
「がはあっ!」
堕天使の男は叩き落とされて森の中へ消えていく。
ヒルダと今の奴がいきなり入れ替わりやがった。
ヒルダはどこだ?
俺は襲い来るだろうヒルダの攻撃に備えて全方位に神経を研ぎ澄ませた。
すると俺の耳にブォォォォンと不快な羽音が聞こえてくる。
これは……
「どうなってやがる……」
いつの間にか俺の周囲を無数の蜂が取り囲んでいる。
こいつらは地獄の谷の森林地帯ではよく見かける凶悪な蜂の魔物・鬼蜂だ。
大きさは俺の親指程度だが、凶暴な性格と強い毒性を秘めた毒針で数多の悪魔を刺し殺した殺人蜂だった。
一匹一匹の毒では死ぬようなことはねえが、こいつらの厄介なところは集団で集中的に差してくることだ。
そうなると一気に刺し殺される恐れもある。
チッ!
ヒルダをぶちのめそうとしている最中に何でこんな面倒なことになりやがる。
鬼蜂の群れはガチガチと一斉に顎を打ち鳴らし、俺に敵意を向けてくる。
上等じゃねえか。
俺は鬼蜂どもを焼き払うべく、両手に炎を宿す。
そんな俺に毒針を向け、鬼蜂どもは一斉に襲いかかって来た。
俺は灼熱鴉を放ち、真正面から向かってくる鬼蜂どもの一角を焼き払った。
だが次の瞬間、燃え上がる炎の中から数本の矢が俺に向かって来やがった。
ヒルダだ!
「チッ!」
ほんの一瞬、反応が遅れた俺は灼焔鉄甲で数本の矢を全て叩き折る。
だが、同時に俺は背中と左ふくらはぎの裏に焼けるような激痛を覚えた。
「ぐうっ!」
やられた!
鬼蜂だ!
俺が矢を叩き落としたその隙に、鬼蜂どもに背中とふくらはぎを一ヶ所ずつ刺されちまった。
矢への反応が遅れちまったせいで、背後の鬼蜂に対処することが出来なかった。
くそっ!
刺された俺の動きがわずかに止まったのを見た鬼蜂どもが一斉に襲いかかって来た。
くそったれが。
虫ケラごときにやられるかよ。
俺は再度、体中の魔力を全開にして焔雷を発生させようとした。
だが、そこで俺の頭上から桃色の光が降り注いで来たんだ。
「高潔なる魂!」
上空から降り注いだ桃色の光がティナの姿を象り、今にも俺を毒針で突き刺そうとしていた鬼蜂を俺の眼前で飲み込んで消滅させた。
さらに俺のすぐ傍を掠めて通り過ぎた桃色の人型の光は、周囲の鬼蜂どもを一瞬で消し去った。
「バレットさん!」
上空からティナがこちらに向けて得意の神聖魔法を撃ち下ろしながら効果してきた。
チッ!
余計なことを……ん?
ティナの奴が抱えていたパメラの姿がどこにもない?
そう思ったその時、頭上でいくつもの悲鳴が響き渡り、上空から多くの堕天使どもが墜落してきた。
どいつもこいつも体を切り裂かれていて絶命しており、鮮血が通り雨のように降り注ぐ。
頭上を振り仰ぐと、そこには空を自在に飛び回りながら、刀で堕天使どもを斬り裂くパメラの姿があった。
「あいつ……飛べたのか?」
パメラの背中にはいつの間にか灰色の翼が生えていて、それをはためかせて自在に宙を舞っている。
それを見たヒルダの顔が忌々しげに歪んだ。
「何なの! ムカつく小娘たちね!」
金切り声を上げるヒルダの周囲に再びキラキラと埃が舞い踊り始めやがった。
さっきと同じ現象だ。
俺は再度その現象を見極めようとした。
そこでティナの攻撃がヒルダを襲う。
「高潔なる魂!」
「無駄なのよ!」
桃色の光が頭上に降り注ぐと、ヒルダの前方にキラキラとした埃が舞い踊る。
だが、ヒルダは己の思惑が外れて愕然とすることになる。
ティナの放った高潔なる魂が埃に直撃した途端、それらが散り散りになって消滅していく。
そこで俺は気が付いたんだ。
キラキラと宙を舞うあれは埃じゃなくて……羽虫だ。
「くぅっ!」
ティナの高潔なる魂が直撃する寸前で、ヒルダの姿が羽虫に包まれてサッとその場から消えた。
代わりに羽虫どもが桃色の光に飲み込まれて消え去った次の瞬間、後方数メートルのところにヒルダが再び姿を現した。
ティナの攻撃をギリギリのところでかわしたヒルダの顔色はすっかり変わっている。
先ほどまでのようなムカつく不敵な表情は消え失せ、その顔には見るからに怯えた表情が浮かんでいた。
何だ?
先ほどまで戦意をたぎらせていたはずのヒルダが、ティナの攻撃を受けた途端にいきなり様子が変わった。
ティナを睨みつけるその目は動揺に泳ぎ、そしてその口から思わぬ言葉が漏れた。
「桃色の髪、見習い天使の小娘……不正処刑人ティナ。くっ……最悪じゃない」
不正……処刑人?
ヒルダは確かにそう口走った。
ということはヒルダはティナが不正プログラムを正す者だと知っている。
ならばヒルダ自身が不正プログラムの保持者である可能性は高い。
「ティナ! こいつはクロだ!」
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